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紅白歌合戦の司会でわかった『おむすび』ギャル橋本環奈と『虎に翼』弁護士・伊藤沙莉の生き方の違い

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:2021 TIFF/アフロ)

橋本環奈の貫禄を感じさせる司会

2024年紅白歌合戦の司会は有吉弘行、橋本環奈、伊藤沙莉の三人だった。

いまの朝ドラ『おむすび』主演(橋本環奈)と、9月までの朝ドラ『虎に翼』の主演(伊藤沙莉)が並んで進行していったわけである。

伊藤沙莉は初の司会。

いっぽう橋本環奈は三年連続の司会で、もはや貫禄を感じさせる堂々の風格であった。

今回は何度か奇妙な間ができていたが、それは全部、橋本環奈が先頭になって突っ切っていった。

「楽しみです」と紹介していく司会者

オープニングの挨拶は、橋本環奈の「素敵な時間を共有できるのが楽しみです」という言葉から始まった。

それを受けて伊藤沙莉も「楽しみたいです」と答えている。

司会者として楽しむことによって、紅白歌合戦を盛り上げようということなのだろう。

そして、橋本環奈は、どんどん進行していきながら、いろんな歌手を「楽しみです」と紹介していた。

橋本環奈が「楽しみにしている」歌手たち

まず、山内健人のバックダンサーを芸人が勤めるのを紹介して、「有吉さん、楽しみですね!」と声をかけていた。(有吉の答えは「心配しかないです」であった)

高校生歌手tuki.を紹介して「どんなパフォーマンスになるか楽しみです」と言葉を加える。

次のBE:FIRSTのパフォーマンス前に「吉田恵里香さん、楽しみですね」と審査員の脚本家に声を掛けていた。

そのあとも、Vaundy、B’z、西野カナ、Mrs. GREEN APPLE、THE ALFEE、高橋真梨子と「楽しみです」と声を掛ける。

最後に、福山雅治の歌唱前の言葉を受けて「楽しみにしております」と言った。

橋本環奈は、すっと「楽しみです」と言っていた。

伊藤沙莉が楽しみにしていた歌手は

いっぽうの伊藤沙莉は、それが少なかった。

オープニングで「楽しみたいです」と言ったが、そのあと「楽しみです」が出たのはかなり後半、21時40分を過ぎてからであった。

TWICEに「楽しみたいです」と言った。

あとは藤井風、西野カナ、Mrs. GREEN APPLEである。

ちょっと少ない。

三山ひろしのけん玉について、審査員(上地結衣)に「楽しみにされているそうですね」と声をかけたのが一回、また。高橋真梨子のときに審査員(森下洋子)に「高橋真梨子さんの歌唱、楽しみですね」と声を掛けたのが一回あった。

それだけだった。

有吉弘行が「楽しみです」と言った歌手

ちなみに、有吉弘行は、審査員の横浜流星に「楽しんでいってください」と言ったあと、楽しみですと声を掛けた歌手は以下の人たちだった。

山内健人(のバックダンサー) 純烈 Vaundy 椎名林檎&もも Superfly THE ALFEE 髙橋真梨子 福山雅治

そこそこいるが、橋本環奈ほどではない。

突破していく橋本環奈ととりあえず留まる伊藤沙莉

橋本環奈は、すっと「楽しみです」と言う。

また、たとえば審査員が突っ伏して泣き出しても(内村光良)、それにふれずにどんどん進行していった。

伊藤沙莉は、たとえばTHE ALFEE高見沢のギターが光っているのを(画面外であったが)ずっと目で追って、まあ素敵、と感想を言ったりしていた。

イメージでいえば、橋本環奈は、常に突破していこうとしているのが目に付いた感じがするのに対して、伊藤沙莉は、何かあると、とりあえずその場に留まって解決しようとしているように見えた。

そしてそれは『おむすび』のヒロインと、『虎に翼』のヒロインのキャラクターの違いに近い。

ふとそうおもいいたった。

『虎に翼』のトラコの解決法

『虎に翼』のヒロインのトラコは「はて?」が口癖であった。

(彼女の役名は寅子と書いてトモコと読む。トラコはあだ名である)

疑問があったときは、すぐにその疑問の糸口で立ち止まるのが寅子の思考癖である。

頭のいい人によく見られる傾向だ。瞬時にいろんな可能性が浮かんでしまって、まず情勢分析にかかる。時間をかけて正しい選択をする。

寅子の人生はまさにそういうものだっただろう。立ち止まっては考え、それから新たな道を切り拓いていった。

『おむすび』が守る掟

『おむすび』はまだちょうど半分の折り返し点だが、ヒロインのムスビンはギャルである。

(役名は結(ゆい)であだ名がムスビン)

ギャルには「ギャルの掟」というものがる。

大事なことは、たぶん「行動」である。

仲間に呼ばれたら駆けつけることが掟の第一条で、つまり、考えるよりまず動け、ということを大事にしているのだとおもわれる。

紅白歌合戦でのムスビンとトラコ

紅白歌合戦では、いくつか小さなアクシデントが起こっていたようだ。まあ、たいしたものではない。長丁場の生放送なので仕方ないだろう。

メイン司会の橋本環奈は、何が起こっても、まっすぐ突き進んでいるように見えた。

切り拓いていくムスビンのようであった。

伊藤沙莉は、たぶん「決まったこと」を言って、そのあと少し間が空くことがあった。

でも、奇妙な間のまま放置して、ちょっとおもしろかった。

現場では取り繕わないところが、根本的な解決を試みようとする『虎に翼』のトラコのようであった。

まさかの朝ドラのコラボ

それに気づくと、ああ、まさに『おむすび』と『虎に翼』の両ヒロインの司会を見ているのだな、とちょっとおもしろくなってしまった。

ムスビンが突き進み、トラコは少し立ち止まる。

まさかの朝ドラのコラボであった。

まあ、紅白歌合戦の司会はどんどん前に進むムスビンがメインにいないとなかなか大変ではあるのだが。

有吉弘行は目立たないで、きちんと進行する役に徹していて、それも良かった。

司会だと突き進むキャラとして受けがいいのだが、朝ドラヒロインとしての受けは、ギャル栄養士としての後半にかかっている。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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