雄信内・南幌延・抜海だけじゃない!一日平均乗車人員3人以下、宗谷本線の廃止危惧駅16
旭川と稚内を結ぶ日本最北の路線・宗谷本線。魅力的な駅が多く、多くの鉄道ファンの注目を集める路線だが、利用者数の減少により、近年は駅の廃止が相次いでいる。今年3月16日には中川郡美深町の初野駅、恩根内駅が廃止となった。来年3月ダイヤ改正においても天塩郡幌延町の雄信内駅、南幌延駅と稚内市の抜海駅が廃止される見込みである。ここ数年の廃止ラッシュで利用者数の少ない駅がぐっと減った印象を受ける宗谷本線だが、廃止の危機に瀕しているのは来春の廃止が見込まれる3駅だけではない。この記事では、宗谷本線の駅のうち、JR北海道が廃止検討の基準としている一日平均乗車人員3人以下(令和元~令和5年度の調査実施日の平均)の16駅を紹介していこう。
16駅のうち起点の旭川から一番近いのが、上川郡和寒町にある塩狩駅だ。石狩国と天塩国を隔てる塩狩峠の天塩側にある駅で、大正時代に信号場から昇格した。旭川出身のクリスチャン作家・三浦綾子の代表作『塩狩峠』は、明治末期に当駅付近(当時は未開業)で発生した鉄道員の殉職事故をモデルとしている。駅周辺に人家はないが、三浦綾子旧宅を移築した塩狩峠記念館とユースホステルがある。地元の和寒町は塩狩駅を観光資源と捉えており、令和3(2021)年4月より町が維持費用を負担することで存続する道を選んでいる。維持費用は除雪費などを含め500万円ほどで、ふるさと納税や寄付金も活用されている。
士別市の瑞穂駅は田園地帯の中にポツンとある駅で、分割民営化時に仮乗降場から昇格した。普通列車でも一部が通過するため、停車する列車は一日4往復のみだ。線内の平均乗車人員3人以下の駅のほとんどが、廃止あるいは自治体管理へ移行される中、JR管理のまま残ったのは瑞穂駅と初野駅のみだったが、初野駅は今年3月16日に廃止となった。
日進駅は名寄市街と名寄川で隔てられた田園地帯にある駅で、駅周辺にはゲストハウス兼韓国料理店、ユースホステル、キャンプ場やスポーツ施設を備えた公園「なよろ健康の森」などがある。駅名は入植者が「日進月歩」から名付けた地名に由来。令和3(2021)年4月より名寄市による維持管理に移行しているが、一日平均乗車人員は1人以下となっており、予断を許さない状況だ。
智北駅は沼や湿地の多い智恵文地区の北部にある駅で、分割民営化時に仮乗降場から昇格した。道道の踏切の整備に合わせて平成3(1991)年11月1日に現在地に移転している。集落は駅の背後の河岸段丘上にあって、駅からは見えない。秘境駅にような雰囲気なのに、周囲が開けている日進駅よりも利用者が多いのは意外だ。令和3(2021)年4月より名寄市による維持管理に移行している。
天塩川温泉駅は牧草地の中にポツンとある駅で、分割民営化時に仮乗降場から昇格した。その名の通り天塩川温泉の最寄り駅で距離は800mほどだが、クマ出没多発地帯なので、歩行には注意が必要だ。令和3(2021)年4月より音威子府村による維持管理に移行しており、板張りホームに面した待合室が老朽化で傾いた際にはふるさと納税を活用して修繕が行われた。
咲来(さっくる)駅は集落の外れにある駅で、駅前には日通営業所を改装したライダーハウス(夏期のみ営業)がある。令和3(2021)年4月より音威子府村による維持管理に移行。当駅も含めた音威子府村内にある3つの無人駅について音威子府村はすべて存続させていく方針で、「みんなの駅」プロジェクトの一環としてふるさと納税の活用も行っている。駅の存続を応援したい方は、音威子府村に寄付をしてみるのも手だろう。
筬島(おさしま)駅は、幕末の探検家・松浦武四郎ゆかりの「北海道命名之地」の最寄り駅で、天塩川沿いの小集落にある。駅前には彫刻家・砂澤ビッキの作品を展示する「エコミュージアムおさしまセンター」と数軒の人家が建つ。駅舎は国鉄末期に貨車駅舎に改築されており、平成24(2012)年に外壁が改修された。令和3(2021)年4月より音威子府村による維持管理に移行したが、天塩川温泉、咲来両駅と共に一日平均乗車人員は1人以下と厳しい状況が続いている。
佐久駅は天塩川沿いの比較的な大きな集落にある駅で、駅周辺には人家も多い。「佐久ふるさと伝承館」と合築の駅舎は立派なもので、内部には農機具や地域に関する資料が展示されている。令和3(2021)年4月より中川町による維持管理に移行しているが、一日平均乗車人員は1人以下だ。今年9月24日からは運行管理システムの更新によって2番線が使用停止となる予定で、駅の今後が気にかかる。
問寒別(といかんべつ)駅は幌延町南部の比較的大きな集落にある駅で、駅周辺には小さなものながらスーパーマーケットや駐在所、ゲストハウスもある。駅舎は昭和61(1986)年に貨車駅舎に改築されており、平成27(2015)年夏に外壁が改修された。令和3(2021)年3月より幌延町による維持管理に移行しているが、一日平均乗車人員は3人以下だ。
糠南(ぬかなん)駅は牧草地の中にポツンとある駅で、分割民営化時に仮乗降場から昇格した。駅から見える範囲に人家はなく、鉄道ファンからは「秘境駅」として人気を集めている。毎年行われるクリスマスパーティー(糠南クリパ)は当駅の名物だ。板張りホーム上に置かれた待合室はヨドコウ(淀川製鋼所)が販売していたヨド物置「あぜくら」を改造したものだ。一日平均乗車人員は0.0人という状況が数年続いているものの、幌延町は観光資源として認識しており、令和3(2021)年4月より幌延町が維持管理を行っている。
雄信内(おのっぷない)駅は一世帯のみが暮らす雄興地区にある駅で、昭和28(1953)年11月に建てられた古い木造駅舎が残っている。天塩川対岸の天塩町雄信内(おのぶない)は郵便局やAコープ、小学校もある比較的大きな集落だが、駅の利用には結びついていない。令和3(2021)年4月より幌延町による維持管理に移行したが、一日平均乗車人員は0.0人という状況が続いており、ホームの修繕費や除雪費用などの維持管理費が大きいことから、令和7(2025)年3月で廃止される見込みだ。
南幌延駅は牧草地の中の道道沿いにポツンとある駅で、分割民営化時に仮乗降場から昇格した。板張りホームから道路を挟んだところに掘立小屋のような待合室がある。両隣の駅が廃止となる中、令和3(2021)年4月より幌延町による維持管理に移行したが、一日平均乗車人員は0.0人という状況が続いており、雄信内駅と共に令和7(2025)年3月で廃止される見込みだ。
下沼駅はサロベツ原野やパンケ沼にほど近い牧草地の中にある駅で、周囲を鉄道林に囲まれている。周囲に人家は数軒あるが、鉄道林に遮られて直接は見えない。昭和60(1985)年7月に貨車駅舎に改築されており、平成29(2017)年秋の改修時にイメージキャラクター「ぬまひきょん」のイラストが駅舎に描かれた。一日平均乗車人員は0.0人だが、今のところ廃止の話は出ていない。
兜沼駅は兜沼という沼の畔の集落にある駅で、駅周辺には小規模ながら市街地が形成されている。駅前の兜沼郷土資料室は昭和9(1934)年から昭和56(1981)年まで使われていた兜沼郵便局の旧局舎を転用したものだ。令和3(2021)年4月より豊富町による維持管理に移行しており、一日平均乗車人員は3人以下。
勇知駅は小高い山に挟まれた小集落にある駅で、駅周辺には商店、ガソリンスタンド、スキー場などもある。昭和60(1985)年7月に貨車駅舎に改築されており、平成26(2014)年に外壁が改修された。日本最北の貨車駅舎で、抜海駅の廃止後は日本最北の無人駅の座を受け継ぐことになる。令和3(2021)年時点では一日平均乗車人員が4.4人と3人以上であったことから、維持管理移行の対象とならなかったが、最新のデータでは3人以下となっており、今後廃止か稚内市による維持管理への移行かの選択を迫られることになるかもしれない。
抜海駅は日本海沿いの抜海集落から少し内陸に入ったところにある駅で、日本最北の無人駅だ。昭和15(1940)年に建てられた木造駅舎が残っており、日本最北の木造駅舎として鉄道ファンにも人気がある。駅周辺には牧草地が広がっていて、人家はほとんど見受けられない。令和3(2021)年4月より稚内市の維持管理に移行することで一度は廃止を免れたが、一日平均乗車人員は3人以下と少なく、稚内市は維持管理を今年度末で終了することをJRに通告している。雄信内駅、南幌延駅と共に令和7(2025)年3月で廃止となる予定だ。
以上紹介してきた16駅のうち、雄信内駅、南幌延駅、抜海駅の3駅は来年3月での廃止が予定されているが、今後のJRと地元の協議次第では他にも廃止が決定する駅が出てくる可能性もあるだろう。また、来春の廃止を免れたとしても、再来春やその先もずっと安泰であるとは限らない。気になる駅は行けるときに行っておいた方がよいだろう。
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