町内の駅数が3年で6駅から1駅に! 5駅が廃止された美深町の宗谷本線
平成28(2016)年以降、利用者の少ない駅の廃止が相次いでいる北海道。路線廃止を伴わないものでも54駅が廃止となっているが、自治体単位で見たときに特に駅の廃止が多いのが、宗谷本線の走る中川郡美深町だ。
美深町にはかつて宗谷本線の駅が6駅(南美深、美深、初野、紋穂内、恩根内、豊清水)存在したが、令和3(2021)年3月13日に南美深駅、紋穂内駅、豊清水駅の3駅、令和6(2024)年3月16日に初野駅、恩根内駅の2駅が廃止となった。
この2度の駅廃止により、町内の駅は美深駅のみとなっている。町内で唯一存続した美深駅は、町の中心部にある町の玄関口で、特急「宗谷」「サロベツ」も停車する主要駅だ。簡易委託の有人駅で、窓口では常備券を販売しているほか、駅舎内の売店では昔のきっぷなどの鉄道グッズも販売中。国鉄時代は仁宇布(にうぷ)とを結ぶ美幸線の分岐駅で、駅舎2階にはその資料室も設けられている。
そんな美深駅の南隣にあったのが令和3(2021)年3月13日に廃止された南美深駅だ。地元の請願により仮乗降場として開業した駅で、板張りホームと木造の待合所があった。周囲は田園地帯で農家が数軒あったものの、近くの国道40号線上に駅よりも本数の多い名士バス恩根内線「美深3線」停留所があることから、利用者は多くなかった。
廃止後、駅設備は撤去され、ぱっと見ただけではそこに駅があったとわからないほどに痕跡は消失している。強いて言うなら待合所跡の地面が砂利のままになっているくらいだが、これも年月とともに草に覆われてすぐにわからなくなってしまうことだろう。
待合所は国道40号線沿いにある農産物直売所「百商屋」に移設され、ギャラリーとして活用されている。廃止時の貼り紙や駅ノートも残っており、現役当時の様子を偲ぶことも可能だ。
美深駅の北隣にあった初野駅も仮乗降場として開業した駅だった。こちらもホームは板張りだが、待合室はプレハブのものに建て替えられていた。通学利用があったことから近隣の駅が廃止になる中存続していたものの、令和6(2024)年3月16日廃止。こちらは名士バス恩根内線「美深14線」停留所が近接していた。
廃止後、ホームは8月末から9月上旬にかけて撤去されたものの、待合室は駅名を隠された状態で残っている。ただし室内に立ち入ることはできない。南美深駅のように移設保存する計画でもあるのだろうかと思っていたら、公売入札にかけられるようだ。果たして買い手が現れて第二の人生を歩むことになるのか、注目したい。
初野駅の北隣にあった紋穂内(もんぽない)駅は、車掌車を転用したいわゆる「貨車駅舎」だった。国道40号線とは天塩川で隔てられた小集落に位置するが、過疎化により駅前の民家は2世帯にまで減っている。国道上の名士バス恩根内線「西里4線」停留所とは1.2キロほど離れていた。令和3(2021)年3月13日廃止。
廃止後、駅舎・ホームともに撤去され、信号機械室のみがその姿を留める。駅前まで伸びていた道路「紋穂内停車場線」の名のみがかつてこの地に駅があったことを伝え続けることだろう。
次の恩根内駅は町内では美深駅に次ぐナンバー2といっても差し支えない駅で、駐在所もある比較的大きな集落「恩根内」の玄関口だった。恩根内は平日8往復、休日7.5往復の名士バス恩根内線の終点で、バスの方が利便性が高いためか集落の規模の割に駅の利用は振るわなかった。当初の計画では恩根内駅も南美深駅、紋穂内駅、豊清水駅と同時に廃止されるはずだったが、住民の反対により美深町の維持管理で存続。しかし、除雪等の負担の多さゆえに存続を断念して、令和6(2024)年3月16日に廃止となった。
廃止後、ホームは撤去されたものの、駅舎は駅名表示を外した状態で残されている。この駅舎は平成5(1993)年に地元負担で建設されたもので、現役当時は綺麗に清掃されて地元住民の愛着も感じられたが、廃止後は封鎖されて放置状態で、中をのぞくと床に虫の死骸が積もっていた。バス待合所などとしてまだ使えそうなだけに、このまま放置か解体ではもったいないように思える。
美深町最北端の豊清水駅は、音威子府村との境に近い無人の牧草地帯にあった。地名は「清水」で、豊かになるようにとの願いを込めて「豊清水」と名付けられたが、駅前の集落は消滅し、令和3(2021)年3月13日の廃止時点では駅だけが残っているような状況だった。
豊清水駅は町内の廃駅では唯一の交換可能駅であったことから、駅としての廃止後も「豊清水信号場」として駅舎や交換設備は残っている。ただし、ホームは跡形もなく撤去された。廃止前に訪問した際、駅前には壁だけが残っている牧舎の廃墟があったが、4年ぶりに訪問してみるとその廃墟すら崩れ落ちており、無人地帯に残っている建物は信号場の建物だけという有様だった。
令和3(2021)年から令和6(2024)年までの3年間で5駅が廃止となり、町内に残る駅が美深駅のみとなった美深町。その理由としては、中心市街以外に駅を存続させられるだけの人口密度がなかったことと、駅を負担する費用の高さ、鉄道よりも本数の多い名士バス恩根内線の存在が挙げられるだろう。
自家用車を持っている町民であれば、車で名寄や旭川などに出かけるであろうし、鉄道を利用するとしても特急停車駅の美深駅まで車で直接行くといった利用方法が多かったと思われる。また、自家用車を持たない町民であれば、鉄道よりも本数が多く、停留所の間隔が短いバスを利用するであろう。こうした中で、多大な費用を負担してまで駅を残すと価値を見出せなかったというのが実情と思われる。
宗谷本線が廃止にならない限りは町の玄関口として今後も存続していくであろう美深駅には、廃止された5駅の分も末永く頑張ってほしいものだ。
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