シリア北東部で住民らが違法に駐留を続ける米軍のパトロール部隊に投石
シリア北東部のハサカ県では、英国を拠点とする反体制系NGOシリア人権監視団が複数の活動家から得た情報によると、県北西部に位置するファルファラ村で6月15日、住民と国防隊(親政府民兵)が村に入ろうとした米軍装甲車複数輛からなるパトロール部隊に向けて投石を行うなどして抵抗し、進入を阻止した。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、住民の抵抗に遭った米軍部隊は退却を余儀なくされたと伝え、その様子を撮影したビデオ映像を公開した。
ファルファラ村は、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治(分割統治)下にあるアレッポ市とハサカ市を結ぶM4高速道路沿線のタッル・タムル町の北東約20キロに位置する。住民の多くは、キリスト教アッシリア東方教会の宗徒。
同地は、シリア内戦が激化した2012年半ばにシリア軍・治安部隊が国境地帯から戦略的撤退を行ったことを受け、クルド民族主義組織でトルコのクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)の武装部隊である人民防衛隊(YPG)が進駐、その後2014年1月、PYDが主導する暫定自治政体の西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)ジャズィーラ地区の支配下に置かれた。
2015年2月には、イスラーム国の侵攻を受け、タッル・タムル町一帯は激戦地となったが、ロジャヴァの支配は維持され、2017年9月、PYDの主導のもとに設立された恒久自治政体の北・東シリア自治局のジャズィーラ地域に編入された。
2019年10月9日にトルコが「平和の泉」作戦を開始し、ラッカ県タッル・アブヤド市一帯とハサカ県ラアス・アイン市一帯に侵攻すると、タッル・タムル町一帯はトルコ軍の攻撃に晒された。同月22日にロシアとトルコが交わした停戦合意に基づき、トルコ国境地帯やM4高速道路沿線には、シリア軍とロシア軍憲兵隊が展開、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下に置かれ、今日に至っている。
この間、YPG、そしてこれを主体として2015年10月に結成されたシリア民主軍は、米主導の有志連合(正式名は「生来の決意」作戦合同任務部隊(CJTF-OIR))の「協力部隊」(partner forces)となり、イスラーム国に対する「テロとの戦い」の最前線に立った。米国はシリア民主軍を支援するとして、ロジャヴァや北・東シリア自治局の支配地に基地を多数建設し、部隊を駐留させた。基地の多くは現在も維持され、米軍部隊が駐留し、北・東シリア自治局支配地で産出される原油や穀物を盗奪し、イラク領内への移送を続けている。
なお、トルコのシンクタンク、ジュスール研究所によると、2021年1月現在、シリア領内における米軍(有志連合)が違法に設置している基地は33カ所ある(うち31カ所が北・東シリア自治局支配地、のこる2カ所がタンフ国境通行所一帯)。
YPG、シリア民主軍、ロジャヴァ、北・東シリア自治局を主導するPYDは、米軍を後ろ盾として、シリア北東部の支配を維持、ロシアを後ろ盾とするシリア政府の勢力拡大に抗っている。
だが、同地に違法に駐留する米軍部隊と、ロシア軍、シリア軍、そして住民との間ではもめ事が絶えない。
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なかでも、住民の抵抗がもっとも強いの村の一つがファルファラ村である。
SANAによると、2020年4月22日にも、ファルファラ村、ウンム・ガディール村、サーミナト・ラヒーヤ村の住民が、シリア軍兵士や国防隊とともに、村を通過しようとした米軍装甲車の車列に投石などを行い、進行を阻止した。
また、2020年10月27日には、ファルファラ村で学校職員、教師、生徒が座り込みデモを行い、シリア民主軍による政府系の学校を閉鎖し、北・東シリア自治局が定めたカリキュラムを強要したことに抗議した。