ロシアとシリア民主軍は米軍に退却を迫ったシリア軍に検問所撤去を要請…シリア北東部の米軍基地は14カ所
シリア軍が米軍装甲車を退却させる
国営のシリア・アラブ通信(SANA)や英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、シリア北東部のハサカ県では7月10日、政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるタッル・タムル町近郊の下マンサフ村入口の検問所に駐留するシリア軍部隊が、米軍の装甲車3輌の通行を阻止し、これを退却させた。
米兵に対峙するシリア軍士官の映像公開
2日後の7月12日、ロシア・トゥデイ(RT)などは、下マンサフ村で米軍部隊に対峙したシリア軍士官が強い口調で退却を求める映像を公開した。
米軍に退却を迫ったのは、下マンサフ村に駐留する第53旅団の大尉で、米軍に同行する通訳と思われる人物に歩み寄り、強い口調でこう述べた。
警告を受けた米軍兵士は装甲車をただちに切り返し、退却した。
ロシア軍、シリア民主軍がシリア軍に撤退を要求
この一件を受けて、7月12日、タッル・タムル町近郊の牧草地に設置されているロシア軍基地で、ロシア軍、人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍、シリア軍の会合が開かれた。
会合では、ロシア軍とシリア民主軍が、シリア軍に対して1週間以内(7月19日)までに下マンサフ村の検問所を撤去すること、そしてタッル・タムル町近郊の居住地から退去するよう求めた。
シリア軍がこれに応じるかどうかは不明。
シリア民主軍はまた、シリア軍に対して、米軍との緊張状態が発生した場合、これを収拾するため、北・東シリア自治局の内務治安部隊(アサーイシュ)と連携するよう要請した。
シリア領内の米軍基地は14カ所
なお、政府系サイトのShamtimes(4月20日付)によると、米軍はシリア北東部を中心に以下14カ所の基地を違法に設置し、部隊を駐留させている。
ハサカ県
- ルマイラーン基地:ルマイラーン町南東のアブー・ハジャル村近郊の農業用空港を基地として転用。ヘリコプター発着場を完備。兵員約500人。
- マーリキーヤ基地:通称「ルマイラーン2」。マーリキーヤ(ダイリーク)市南のルーバール村近郊の農業用空港を基地として転用。無人航空機(ドローン)用滑走路、ヘリコプター発着場を完備。兵力約150人。
- タッル・バイダル基地:ハサカ市西のタッル・バイダル村のM4高速道路沿線に設置。ヘリコプター発着場を擁する。兵力不明。
- ライフ・ストーン基地:バースィル・ダム湖(ハサカ市南)北東岸にあるライフ・ストン・コンプレクスを基地として転用。ヘリコプター発着場を完備。兵力約50人。
- カスラク基地:タッル・タムル町東のカスラク村のM4高速道路沿線に設置。兵力不明。
- ハイムー基地:カーミシュリー市東のハイムー村のシリア民主軍教練キャンプに併設。米軍の監督のもと、シリア民主軍の特殊部隊の教練が行われている。兵力不明。
- スポーツ・シティ:ハサカ市グワイラーン地区のスポーツ・シティに設置。兵力約150人。
- サバーフ・ハイル・サイロ基地:ハサカ市の南約10キロの鉄道線路沿いに設置。シリア民主軍の教練監視施設。兵力約50人。
- シャッダーディー基地:シャッダーディー市近郊のガス工場を転用。ドローン用滑走路、ヘリコプター発着場を完備。兵力約350人。近接する無人化大隊基地は刑務所として使用されている。
ダイル・ザウル県
- ウマル油田基地:ウマル油田の労働者住宅地区を転用。駐留米軍最大の基地。ドローン用滑走路、ヘリコプター発着場を完備。兵力不明。
- タナク油田基地:タナク油田の労働者住宅地区を転用。ヘリコプター発着場を完備。兵力約50人。
- CONOCOガス田基地:兵力50員弱。
- ルワイシド基地:ラッカ県、ハサカ県との県境に近いルワイシド村の国立病院を転用。兵力不明。
- 上バーグーズ基地:イラク国境に近いユーフラテス川東岸の上バーグーズ村各所に拠点を設置。兵力約25人。
なお、このほかにも、米軍はハサカ県のヤアルビーヤ(タッル・クージャル)町の国境通行所一帯、ヒムス県のタンフ国境通行所一帯(55キロ地帯)に駐留している。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)