Yahoo!ニュース

シリアで米軍が住民から投石を受ける最新映像!

青山弘之東京外国語大学 教授
スプートニク・ニュース、2020年4月22日

米軍が投石を受ける

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は4月22日、ハサカ県タッル・マミース市近郊のファルファラ村でパトロールを実施していた米軍部隊が、住民を伴った国防隊の投石を受け、撤退を余儀なくされたと発表した。

これに関して、ロシアのスプートニク・ニュースや国営のシリア・アラブ通信は、複数の住民の話として、タッル・ハミース市近郊のラヒーヤト・サウダ村南方に位置するウンム・ガディール村とサーミナト・ラヒーヤ村の住民が、シリア軍兵士とともに、村を通過しようとした米軍装甲車の車列に投石を行い、進行を阻止したと伝え、写真と映像を公開した。

住民らの抵抗にあった米軍の車列は通過をあきらめて、引き返したという。

SANA、2020年4月22日
SANA、2020年4月22日

ハサカ県は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局が米軍の後ろ盾を得て、農村・砂漠地帯を実効支配している。その一方、シリア政府は、県庁所在地のハサカ市、カーミシュリー市などの主要都市を北・東シリア自治局と共同統治(分割統治)するとともに、ロシア軍の支援を受けて国境地帯やM4高速道路沿線に部隊を展開させている。

なお、国防隊とは、シリア軍の人員不足に対応するため、2012年末から2013年初めにかけて結成された民兵の総称。アサド大統領の甥のハラール・アサド(2014年8月に戦死)が設立を主導したとの情報が散見されるが、真偽は定かでない。活動資金の出所も明らかではないが、アサド大統領のいとこでNGOのブスターン慈善協会を運営するビジネスマンのラーミー・マフルーフ、ハラール・アサドの息子でビジネスマンのスライマーン・アサドらが資金供与を行っていると言われる。

結成当初の兵員は約1万人だったが、2013年半ばには10万人に拡大したと推計される。隊員はすべて志願者で、女性も参加し、階級に応じて1ヶ月で150米ドルから300米ドルの給与が支給されているという。

国防隊はシリア軍の監督下で都市・町・村の防衛などを担当した。幹部司令官のほとんどはシリア軍の現役・退役士官だが、教練にはヒズブッラーやイラン・イスラーム革命防衛隊の技術者もあたっているという――「シリアの親政権民兵」(『中東研究』第530号、2017年、22-44ページを参照。

スプートニク・ニュース、2020年4月22日
スプートニク・ニュース、2020年4月22日

カーミシュリー市を悠然と通過する米軍

一方、シリア人権監視団と反体制系サイトのユーフラテス・プレスは、米軍主導の大型トレーラーなど約30輌からなる車列が、兵站物資などを積んでカーミシュリー市を悠然と通過し、米軍基地が違法に設置されている同市西のハイムー村およびタッル・バイダル村方面に向かったと発表し、写真や映像を公開した。

米国は、2019年10月にドナルド・トランプ米大統領が、イスラーム国に対する「テロとの戦い」を根拠として、英仏といった有志連合諸国とともにシリア領内に駐留させていた部隊を撤退させると発表し、同月にトルコ軍が占領することになるラッカ県北部、ハサカ県北部のいわゆる「平和の泉」地域から兵を引き、基地を撤去した。

だが、その後ほどなく「油田地帯を防衛する」との口実で、部隊を再展開させ、ダイル・ザウル県油田地帯のほか、ハイムー村、タッル・バイダル村に基地を新設した。

シリア人権監視団、2020年4月22日
シリア人権監視団、2020年4月22日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

青山弘之の最近の記事