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米国の占領に対するシリアでのささやかな抵抗:反体制派の懐柔、車列進行阻止、ハンヴィー襲撃

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2020年4月17日

イスラーム国が2019年3月にシリア国内の支配地域を完全に失ってから1年以上が経った。有志連合を主導する米国は、シリア領内の油田を防衛すると主張し、シリア民主軍の後ろ盾となって、ハサカ県やダイル・ザウル県各所に部隊を駐留させている。またヒムス県タンフ国境通行所一帯地域のいわゆる「55キロ地帯」を違法に占拠し、同地で活動を続ける武装集団を支援している。

米国がこれらの地域から部隊を撤退させる気配は今のところない。だが、シリア国内では占領に対するささやかな抵抗が続けられている。

農村住民が米軍装甲車の進行を阻止

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア政府とクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局が共同統治するハサカ県タッル・ハミース市近郊のアブー・カサーイブ村とラヒーヤト・サウダ村で4月16日、住民が村を通過しようとした米軍装甲車5輌の進行を阻止、これを退去させた。

SANA、2020年4月16日
SANA、2020年4月16日

また18日にも、カーミシュリー市近郊の農村住民がアブー・カサーイブ村方面から北上しようとした米軍装甲車4輌に立ちはだかり、これを退去させた。

一方、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は4月18日、米軍部隊が、ラッカ県ジャズラ村近郊に違法に設置されている基地を頻繁に訪問し、同地での影響力回復を狙っていると発表した。

米軍のハンヴィーが襲撃を受ける

SANAは複数の地元筋の話として、ハサカ県サブア・ワ・アルバイーン町南西の街道(ルワイシド村交差点)で4月20日、米軍のハンヴィー(HMMWV)1輌が何者かの襲撃を受け、車輌が大破、多数の兵士が負傷したと伝え、その写真を公開した。

襲撃を受けたハンヴィーは、米軍兵士と、PYDが結成した民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍戦闘員を乗せていたというが、負傷したのが米兵なのかシリア民主軍戦闘員なのかは不明。

SANA、2019年4月20日
SANA、2019年4月20日
SANA、2019年4月20日
SANA、2019年4月20日

ロシア軍戦闘機が米海軍哨戒機に対してスクランブル発進

ロシア国防省は声明を出し、4月19日モスクワ時間午後3時頃(シリア時間午後4時頃)、ロシア軍のレーダー・システムが地中海の公海上空をシリア領内のロシア軍施設に向かって飛行する飛行物体を捕捉、シリア駐留ロシア軍司令部が設置されているラタキア県フマイミーム航空基地(バースィル・アサド国際空港)に配備されているロシア軍戦闘機がスクランブル発進した、と発表した。

飛行物体に接近したロシア軍戦闘機は、その機体番号から米海軍に所属する偵察機であることを特定し、この戦闘機を追尾、進路を変更させて帰還した。

これに対して、米海軍第6艦隊は、ロシア軍戦闘機が、米海軍所属の航空機に対して「プロ意識を欠いた危険な」威嚇を受けたと発表した。

発表によると、ロシア軍のSu-35戦闘機2機が、地中海の公海上を飛行していたP-8A哨戒機に対して2時間にわたり威嚇を続けたという。

政府当局が米軍に協力していた武装集団を懐柔し、投降させることに成功

反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤは4月15日、「55キロ地帯」で活動を続けている反体制派戦闘員が政府支配地域に脱走したと伝えた。

脱走したのは、米国が「協力部隊」(partner forces)として支援してきた革命特殊任務軍のメンバーで、反体制系サイト(フェイスブック・アカウント)のハムラビ通信の管理人ハーズィム・サッルーム氏は、彼らが、この地域で麻薬密売人として知られていたグループだと主張した(「米国が支援する反体制派戦闘員がシリア政府支配地域に脱走、その真相は?」を参照)。

これに対して、SANAは4月17日、関係当局が住民と4ヶ月にわたる連携・協力の末に、革命特殊任務軍メンバー28人と彼らと行動を共にしてきた運転手6人を懐柔し、投降させることに成功したと伝えた。

投降したメンバーらは、武装した車輌8輌、重火器5基、ライフル3丁、M16機関銃7丁、RPG対戦車擲弾8丁などを引き渡し、当局によってシリア政府の支配下にあるタドムル市に連行された。

メンバーが米国とイスラーム国の結託の証言

投降したメンバーらの司令官を務めていたというガンナーム・サミール・ハディール(アブー・ハムザ)は、「55キロ地帯」で活動するに至った経緯について次のように述べた。

我々は、イスラーム国によってスワイダー県東部からダルアー県に強制連行させられた。その後、いわゆる「部族自由人軍」の司令官と連携した彼らによって、我々はヨルダンに送られ、そこで1ヶ月にわたり教練を受けさせられた。そして、ルクバーン国内避難民(IDPs)キャンプでの任務を与えられたが、この活動を通じて、我々は武器や物資のほとんどがイスラーム国によって売買されていることを突き止めた。その後、我々はいわゆる「革命特殊任務軍」に配属となった。このグループとの活動を通じて、我々は彼らがイスラーム国の支援を受けていることを突き止めた。だから、我々は彼ら全員を信用しなくなり、シリア軍に投降することを決めた。

それ以外にもタンフ国境地帯一帯には多くの武装グループがいる。彼らは祖国に復帰したいと考えているが、それにふさわしい時が来るのを待っている。

一方、「偵察連隊」の司令官を務めていたというハーリド・サミール・ハディールは「55キロ地帯」には、米軍の監督のもと、最新兵器や無人航空機(ドローン)の訓練が行われ、シリア軍の拠点、油田、ガス田の攻撃を命じられていると証言した。

また、ラサーフ・ラシード・ザーヒル(アブー・ウダイ)は次のように述べた。

タンフ国境通行所の基地で活動していた間、戦闘員を乗せた軍用車輌がルクバーン・キャンプから基地に移動するのを目撃した。彼らを基地で訓練し、この地域(「55キロ地帯」)の外で油田やガス田の破壊工作、シリア軍拠点の攻撃を実行するためだ。

ルクバーン・キャンプにいる時、多くの支援物資がキャンプで身を寄せる市民のために届けられた。だが、それらのほとんどは、米国の配下にあるグループからイスラーム国のテロリストに引き渡された。一部は商人たちに渡され、深刻な人道・医療危機に苦しむキャンプの住民に法外な値段で売られた。

SANA、2020年4月17日
SANA、2020年4月17日
SANA、2020年4月17日
SANA、2020年4月17日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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