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シリアでロシア軍と危険なカーチェイスを繰り返してきた米軍に初めての死者(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
Hasakhnews、2020年7月21日

米軍の初めての死者

反体制系サイトのEldorarやHasakhnewsなどによると、シリア北東部のハサカ県タッル・タムル町近郊で7月21日、パトロールを実施していた米軍装甲車の1台が横転し、乗っていた兵士1人が死亡した。

横転事故はこの米軍部隊がロシア軍のパトロール部隊を排除しようとしていた際に発生したという。

これに関して、イラクとシリアでイスラーム国に対する「テロとの戦い」を遂行する米主導の有志連合(「生来の決戦作戦」統合任務部隊(CJTF-OIR))は声明を出し、シリア領内で任務についていた兵士1人が死亡したと発表した。

声明によると、事件は敵との遭遇によるものでなく、現在調査中だという。

有志連合HP、2020年7月21日
有志連合HP、2020年7月21日

シリアに違法に駐留する米軍

米軍は、2014年9月からイスラーム国を掃討するとして有志連合を率いてシリア領内でも爆撃を開始、その後、クルド民族主義民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍を支援するために地上部隊を派遣、違法に駐留を続けてきた。

2018年12月に、ドナルド・トランプ大統領がシリア領内からの全面撤退を決定したが、2019年2月に撤回された。その後、2019年10月、トルコ国境地帯からの撤退を決定するも、「油田防衛」を口実に部隊を再展開させ、駐留を続けている。

政府系サイトのShamtimesによると、米軍は現在、シリア北東部の14カ所に違法に基地を設置し、部隊を駐留させている(「ロシアとシリア民主軍は米軍に退却を迫ったシリア軍に検問所撤去を要請…シリア北東部の米軍基地は14カ所」を参照)。

ロシア軍、シリア軍との軋轢

こうした米軍に対して、ロシア軍、シリア軍、そして住民は、米軍の進行を阻止する一方、米軍もロシア軍パトロール部隊の移動を妨害し、これまでにもたびたび衝突が発生していた。

2月12日には、米軍パトロール部隊がカーミシュリー市の東に位置するヒルバト・アンムー村、ハームー村で、進行を阻止しようとした住民に向かって発砲、1人が死亡、1人が負傷した(「トルコ軍とシリア・ロシア軍の緊張が高まるなか、今度は米軍がシリア北東部で住民と衝突し、爆撃で威嚇」を参照)。

また、2月19日には、ハサカ県カーミシュリー市東の高速道路で米軍装甲車が走行中のロシア軍の車列の進行を妨げようとする様子を撮影した映像が19日にユーチューブで公開された(「シリアで米軍装甲車がロシア軍車列の進行を「危険運転」で妨害、イドリブ県ではロシア・トルコの緊張高まる」を参照)。

最近では、7月10日に、タッル・タムル町近郊の下マンサフ村入口の検問所に駐留するシリア軍部隊が、米軍の装甲車3輌の通行を阻止し、これを退却させ、その際に「お前たちがもし明日もここに来たら、パトロール部隊を中にいる奴らごと焼き払ってやる」などと威嚇するシリア軍士官の映像が公開されていた(「ロシアとシリア民主軍は米軍に退却を迫ったシリア軍に検問所撤去を要請…シリア北東部の米軍基地は14カ所」を参照)。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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