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シリア北東部での激しいカーチェイスでロシア軍に追い立てられる米軍(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
RT、2020年8月26日

ロシア軍と米軍が混在するハサカ県北東部

シリア北東部のハサカ県で8月26日、ロシア軍パトロール部隊と米軍部隊が激しいカーチェイスを繰り広げ、米軍兵士数人が負傷した。

事件が発生したのは、ハサカ県北東部、イラクとトルコの国境に近いマーリキーヤ市近郊。マーリキーヤ市はアラビア語名で、クルド語ではダイリークと呼ばれている。

同地の国境地帯には、トルコ軍とシリア民主軍(クルド民族主義勢力(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の武装部隊で、クルド人民兵の人民防衛隊(YPG)が主体)の交戦を回避するため、シリア軍が展開する一方、ロシア軍がカーミシュリー国際空港(カーミシュリー市)などに部隊を配備、トルコ軍と合同パトロールを実施している。だが、ルマイラーン油田をはじめとする内陸部は、北・東シリア軍の支配下にあり、米軍がイスラーム国から油田を守ると主張して、違法に基地を設置している。

筆者作成
筆者作成

危険なカーチェイス

ロシアのスプートニク・ニュースやロシア・トゥデイ(RT)、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、事件はロシア軍パトロール部隊による通常のパトロール任務を、米軍がシリア民主軍とともに検問所を設置して阻止しようとしたことがきっかけだったという。

米軍側と口論になったロシア軍部隊は検問所を強行突破し、牧草地で米軍装甲車との間で激しいカーチェイスを繰り広げたのである。

スプートニク・ニュースやRTが公開したそのときの映像には、米軍装甲車がロシア軍装甲車に追い越され、追い立てられ、挟み撃ちにされる様子がはっきりと写っている。

Sputnik News、2020年8月25日
Sputnik News、2020年8月25日

最終的には、パトロール部隊を護衛していたロシア軍ヘリコプター2機が、検問所一帯を低空で旋回して米軍を威嚇し、カーチェイスを収束させた。

検問所を設置していた米軍部隊は退去し、ロシア軍部隊は、上アルウール村、タッル・ズィヤーダート村近郊、そしてルマイラーン油田のタッル・アダス採油所にいたる街道を巡回した後、マーリキーヤ市とカーミシュリー市を結ぶ街道を経由して、カーミシュリー国際空港に帰着した。

なお、現地の複数の情報筋によると、ロシア軍がマーリキーヤ市近郊でのパトロールにヘリコプターを投入したのは今回が初めてだったという。

RTやスプートニク・ニュースは、負傷者は複数に達したと伝え、またABCニュースは4人が負傷したと伝えた。一方、ロイター通信は、米国の複数の高官の話として、負傷者は2人だったとしたうえで、いずれも軽傷だとしたうえで、撃ち合いにはならなかったと強調した。

米国側の反応

事件発生を受けて、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・ウリヨット報道官は次のような声明を出した。

シリア時間の午前10時頃、イスラーム国に対する有志連合のパトロール部隊がマーリキーヤ市付近で、ロシア軍のパトロール部隊に遭遇した。

ロシア軍の車輌1輌が有志連合の耐地雷・伏撃防護装甲車(M-ATV)1輌に衝突し、乗員が負傷した。

ロシア軍の行動を「無謀」だと非難したウリヨット報道官はさらにこう続けた。

米軍車輌は交戦に発展することを回避するために、現場から退去した。

安全でなく、プロ意識を欠いたこうした行為は、交戦を禁じるために、2019年12月に米国とロシアによって承認された議定書に違反するものである。

いかなる事態の悪化も望んでいないが、米軍は自衛権を有している。

その後、米統合参謀本部のデディー・ハーフフィル報道官(大佐)は、マーク・ミリー同参謀総長がロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長と電話会談を行い、「過去の慣例に従い、双方は会談の詳細を内密にすることで合意した」と発表した。

主要都市と国境地帯を掌握するシリア政府を支援するロシア軍と、農村地域を支配下に置く北・東シリア自治局を後押しする米軍の小競り合いは、これまでにも頻繁に発生している。

もっとも最近では、8月24日にロシア軍のパトロール部隊が、同軍ヘリコプター2機を伴ってカフターニーヤ(ディルベ・スピーイェ)市近郊に入ろうとしたが、米軍部隊がこれを阻止していた。また、1ヶ月前の7月21日には、タッル・タマル町近郊でロシア軍のパトロール部隊を排除しようとした米軍装甲車が横転し、兵士1人が死亡している(「シリアでロシア軍と危険なカーチェイスを繰り返してきた米軍に初めての死者(映像あり)」を参照)。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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