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食通であれば知っておくべき2018年の飲食店に関する5つの課題・問題

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

2018年の飲食店の課題

私は<2018年のグルメトレンド予測!注目ポイントを解説>という記事で、2017年のグルメトレンドを踏まえながら、2018年のグルメトレンドを予測しました。

当たる当たらないは別として、こういった主旨の記事は年末年始に多いです。グルメのトレンドも非常に興味深いですが、多くの方が取り上げているので、今さらここで取り上げることはしません。

外食産業がより発展し、グルメがよい方向に進むようにと願いを込めて、ここでは飲食店に関連した課題や問題を取り上げます。

私が考える、2018年の飲食店に関連する課題や問題は以下の通りです。

  • ノーショーやドタキャン
  • 食品ロス
  • 和牛
  • 食の評価
  • インフルエンサー

詳しい背景や解決の糸口まで書くと、非常に長くなるので、概要を説明します。興味があるようなら、多くの関連記事を紹介しているので、そちらをお読みください。

ノーショーやドタキャン

ノーショー(無断キャンセル)とドタキャンは飲食店の経営の根幹を揺るがす由々しき問題です。私が今最も力を入れている課題でもあり、昨年後半だけでも以下の記事を公開しています。

飲食店のみならず、中長期的には客を不幸にし、さらには後述する食品ロスの問題にもつながるので、とても大きな問題です。

飲食店はノーショーやドタキャンが起きた場合、ウォークイン(予約していない)客を入れることができればよいですが、穴埋めできなかった場合には、そのために用意した食材や料理は無駄となり、廃棄されて食品ロスにもつながります。

ノーショーやドタキャンが多くなると、このようなリスクを通常のコースやアラカルトの値段に転嫁します。そうなると、ノーショーやドタキャンを行うごく一部の非常識な客のために、常識のある客が負担を負うことになるのです。

予約台帳を中心として、FoodTech(食のIT)で解決する動きが活発化しており、非常に頼もしいと考えていますが、当然のことながらサービスの利用料やクレジットカードの手数料が必要となるので、体力がない飲食店は導入が難しいでしょう。

人気がある飲食店であれば、予約台帳やクレジットカードを導入したり、強気なキャンセルポリシーを採用したりしても、集客にほとんど影響ありませんが、そうでない飲食店は簡単に移行できません。

FoodTechは素晴らしいですが、さすがに全ての飲食店を救えるわけではないのです。

メディアは「ある飲食店で団体の予約キャンセルが起きたが、SNSに投稿したら親切な人が客として訪れてくれたので、何とか危機を免れた」という感動話を無自覚に流すのではなく、ノーショーやドタキャンが起きると、飲食店にどのような不幸が起こるのかということを淡々と伝える必要があります。

ノーショーやドタキャンを矮小化するのではなく、大きな問題としてしっかりと配信していかなければなりません。

食品ロス

2017年は食品ロスの問題が大きく進展しました。農林水産省を始めとする各省庁が連携して、食品ロスの重要な問題であるとして、宴会での食べ残しを削減する「3010運動」を広めようとしたり、食品ロス削減国民運動のロゴマークとして「ろすのん」を制作したりするなど、取り組みを始めています。

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ホテルではたくさんの食材や料理を扱っているので、食品ロスの問題と関係が深いです。特に規模の大きなホテルブッフェでの食べ残しは問題として挙げられることがありますが、私が代表理事を務める一般社団法人 日本ブッフェ協会では「ちょうどいいが いちばんおいしい」をスローガンとし、バイキング発祥の帝国ホテルを始めとしたホテル会員が農林水産省と共に連携し、食べ残し削減の取り組みを行っています。

外食産業における食品ロスは大きく分けると、調理過程における食品ロスと、食べ残しによる食品ロスに分けられます。

多くのホテルや飲食店を取材して判明したのは、調理過程における食品ロスは、ほとんどないということです。営業利益に直結するところなので、捨てる部分をできるだけ少なくしたり、ひとつの食材をより多くの料理に使ったりと、しっかり努力しています。

つまり、外食産業における食品ロスは、調理過程ではなく、食べ残しが大きな問題となっているのです。

特に外食産業の食品ロスの4割を占めるとされている宴会での食べ残しが、問題となっています。

社内の忘年会から、異業種が集まるミートアップ、企業が行うレセプション、婚活イベントなど、宴会の大きな目的は食べることではなく、コミュニケーションを促進したり、親睦を深めたり、出会いを増やしたりすることです。それだけに、食べることに集中して、食べ残さないようにすることは非常に難しいと考えています。

食品ロスを削減するには、事業系一般廃棄物の処理に要する費用を上げたり、エコシステムを積極的に取り入れているホテルや飲食店を補助したり、食べ残しを持ち帰ることができるように「ドギーバッグ(Doggy Bag)」や「トゥーゴーボックス(To Go Box)」を促進したりすることが必要でしょう。

食品ロスの重要性を伝えていくことはもちろん、ホテルや飲食店、客にとっても何かしらのインセンティブが得られるような施策を考えなければ、なかなか前に進みません。

メディアの役割も非常に重要です。「全メニューを食べる」「長時間食べる」や大食いしたり早食いしたりして「競って食べる」というコンテンツは既に時代錯誤なので、控えるべきであると考えます。

こういったコンテンツは食材やそれを生み出した生産者、料理やそれを作り出した作り手の苦労や努力、思いやこだわりを覆い隠してしまい、安っぽいエンターテインメントに落とし込めてしまうからです。ブッフェにおける「元をとる」も同じことでしょう。

食材や料理、生産者や作り手に尊敬の念を払うことによって、食べ残しが減って食品ロスを削減できるので、メディアは食をおもしろおかしく扱ったコンテンツを作るのではなく、食が尊敬されるようなコンテンツを作り上げるべきだと考えています。

和牛

和牛に関しては、私の専門のうちのひとつである鉄板焼を通して以下の記事を書きました。

松阪牛、神戸ビーフ、近江牛、前沢牛、宮崎牛といった和牛ブランドは肥育農家のブランドとなっているので、子牛の出産に携わる繁殖農家はどうしても裏方になってしまい、若い担い手が見付からなくなっています。

繁殖農家が少なくなったことにより、子牛の価格が高騰し、それに伴って和牛の価格も向上しています。

神戸ビーフを筆頭にして和牛の輸出が伸びており、その影響で海外で人気のある和牛の国内における供給量が少なくなっていることも心配です。

ヘルシー志向の高まりによって、サーロインよりも高いにも関わらず、フィレを選択する客が増えています。フィレはもともと分量が少ない部位なので、供給量の不足が問題視されています。

こういった和牛の不足や高騰が背景にあるので、昨年末に大きな問題となった神戸ビーフの偽装事件も起きたのではないかと私は考えています。

神戸ビーフを始めとする和牛は日本が世界に誇る、非常に素晴らしい食材のうちの1つです。しかし、日本人であっても、たった4種類しかない和牛の全てを挙げられない人は多いのではないでしょうか。

赤身肉がブームとなり、和牛のひとつであるあか牛などの褐毛和種、アンガスビーフやオージービーフも人気となっていますが、和牛の95%を占める黒毛和種(黒毛和牛)は日本の重要な資産であり、日本の食文化なので、もっと和牛のことを知り大切にしていかなければならないと考えています。

食の評価

食の評価は非常に難しいと感じます。何故ならば、東京にはある一定以上のおいしい飲食店が無数にあるので、あとは主観的な食の好みによって評価が分かれるからです。

食の好みは主観的であるだけに、私はより多くの食の指標があってしかるべきであると考えています。

インターネットのサービスでは、加重平均をとって点数ではっきりと良店が分かる「食べログ」、実名レビューとタイムラインでよい店を探す「Retty」を筆頭にして、様々な観点から飲食店を探すサービスがあります。

食のアワードでは、日本でも定番となった「ミシュランガイド」が圧倒的な強さを誇りますが、フランスでライバル関係にあたり、点数で評価する「ゴ・エ・ミヨ」も勢いを増しており、ヒトサラがトップシェフが選んだ「シェフ推し」も昨年から始まりました。

「ミシュランガイド」のアンチテーゼとして始まった「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」が近年世界的に注目されていますが、その勢いを目の当たりにして美食王国フランスは「ラ リスト」をローンチしています。

食の評価は多様化されてきており、多くの軸があるのは素晴らしいことですが、指標がたくさんあることによって、利用者が混乱する恐れもあります。そして、どれが何なのかよく分からず、それぞれの何がすごいのかをよく理解できず、結局どれもあまり注目されなくなるのではないかと危惧しているのです。

そうなってしまっては残念なので、伝えるメディアもしっかりとそれぞれの特性を整理し、どのレストランが1位になったかなどの結果だけではなく、そのアワードにどういった特徴があり、どういった人がそのアワードを参考にしたらよいかなど、そこまで発信できることが重要であると考えています。

インフルエンサー

<文春の報道から食べログの有名レビュアーの全レビュー削除へ至った件で、みなさんに理解してもらいたいこと>でも取り上げたように、「食べログ」で力のあるレビュアーに対する過剰接待が行われることがありました。

先に述べたように、食の評価は様々なところで行われていますが、近年のグルメブームを背景にして、インフルエンサーマーケティングが流行し、本来はプロフェッショナルではなかった方が力を持ったことによって、ステマ(ステルスマーケティング)のような問題も起きています。

「食べログ」などレビューが重要となるサービスでインフルエンサーが金銭の類をもらうことは、公正なレビューを行えるのかという観点から、問題です。

「Instagram」や個人ブログなど、レビュー機能がないサービスの場合には、金銭の類をもらって紹介することは問題ありませんが、紹介する飲食店と関係があることを示す「PR」の表記は必要となります。しかし、日本において食のインフルエンサーでそのような表記を含めた投稿を見ることはほとんどありません。

自分自身や知人の飲食店であるのに知らないふりをして紹介したり、自分が関わっている競技大会であるのに素知らぬふりして言及したりするなど、詐欺のようなこともあります。

私もよく料理コンテストの審査員を務めたり、コラボレーションを行ったりしますが、紹介する際には関係があることを明記します。隠していてもすぐ分かってしまうことなので当然だと思いますが、公にしないインフルエンサーがいるのは信じられません。

こういったことをするインフルエンサーは、何かしらの信念や興味をもって取材をするわけでもなく、本当に伝えたいことがあって記事を書くわけではありません。プレスリリースの文言を体裁だけ整えて、SNSでそれらしく発信するだけです。

食を単なるビジネスの道具として活用したり、自分が目立つための飾りとして利用したりしているように見受けられるので、食のインフルエンサーではなく芸能人になればよいのではないかと思ってしまいます。

インターネットが発展して、様々な方が発信できるようになったのは素晴らしいことですが、食を愛していないインフルエンサーによって、容易にステマが行えるようになった環境は大きな問題でしょう。

まずは問題として認知されることが大切

これまで、2018年における飲食店に関連した課題を取り上げてきました。どれも最近になって話題を巻き起こした問題ですが、すぐに解決できるものではありません。それだけに、2017年は多くの方に周知されることが重要であるとして積極的に記事に取り上げました。

しかし、まだ大きな問題として十分に認知されていないので、2018年においても、これらが重要な課題であることを発信して、知ってもらう必要があります。

2018年はこれらの課題が少しでも解決に進み、飲食店がより一層発展し、訪れる人々も楽しく幸せに過ごせることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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