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DeNAのWELQ問題から考える、グルメのキュレーターにとって必要なたった1つの当たり前のこと

東龍グルメジャーナリスト
本来はおいしい料理も、つぎはぎだらけに

キュレーションメディアの騒動

DeNAの「WELQ(ウェルク)」を始めとしたキュレーションメディアが、正確性を欠いたり、盗用が認められたりする記事があるということで騒動になっていますが、Yahoo!ニュース 個人でも、山本一郎氏が<DeNA「サイト炎上」MERY、iemoの原罪とカラクリ>で、ふじいりょう氏が<ネットメディアの現場から見えるDeNAメディア炎上騒動の風景>で取り上げ、問題視されています。

年の瀬となり、私としては2016年のグルメ総決算、もしくは、2017年のグルメブームについて、記事を書こうと考えていましたが、このキュレーションメディアの問題についてはグルメも関係があって看過できないので、意見を述べることにします。

以前に、<がっかりグルメ記事における3つの特徴>でも書いたように、グルメキュレーションメディアを中心としたグルメ記事の状況はひどいものです。

もちろん、しっかりと運営しているグルメキュレーションメディアもありますが、その多くは疑問符がついたり、納得がいかなかったりするものばかりです。

グルメキュレーションメディアがやってこられた理由

まず始めに、グルメキュレーションメディアはひどい状態であるにも関わらず、どうして炎上せずにやってこられたのでしょうか。

私は以下の理由からだと考えます。

  • 被害が深刻ではない
  • 主観性が強い
  • 盗用写真がバレにくい

被害が深刻ではない

グルメということで、不適切な情報のために被害があったもしても、その被害は小さいものです。

誇大表現がされており、実際の料理は大したことがなかったとしても、不満が残ったりするだけで、命に別状もなければ、今後の人生を左右するほどのこともありません。

主観性が強い

全くの素人が書いた記事であっても、キュレーターという肩書がついた人が書いたものは、それらしく見えてきますし、そもそも食に対する評価は主観性が強いです。

従って、キュレーションされている店に訪れておいしくなかったとしても、キュレーターがいい加減と思うのではなく、キュレーターと自分とは好みが合わなかったのだと思う人が多いでしょう。

写真盗用がバレにくい

食の場合には同じ一皿であるのに似たような写真を何枚も撮り、それら全てをアップロードする人も少なくありません。同じような料理、外観や内観の写真が多いだけに、自分が撮影した写真であっても盗用されたと気付かないことも多く、大きな問題となっていません。

以上の主に3つの理由から、いい加減なグルメキュレーションメディアによる「●ベスト10」や「人気の●」「●の5選」「●のお店まとめ」といった記事がそれほど糾弾されていないのです。

グルメキュレーションメディアの問題

今回のキュレーションメディアの騒動では、文章や写真の盗用、および、記事の担保性が問題となりました。

これらはもちろん問題ですが、以前から私が感じていたグルメキュレーションメディアの問題は以下です。

  • 食べていない
  • キュレーターが匿名
  • 取材している人が割を食う

食べていない

執筆しているキュレーターによるキュレーションであるのに、その当人がほとんどの場合、食べていないことが問題です。食べたこともなければ、料理人の話を聞いたこともなければ、スタッフに内容を確認することもありません。

従って、記事の中で、紹介している料理がなくなっていたり、料理名が間違っていたり、言及している料理長がもう辞めていたりすることがあります。

プロではなくとも、訪れたことがある人が読めばすぐに分かることでしょう。

しかし、一般の人からすれば、様々なところから盗用しているグルメキュレーションメディアの記事は、しっかりと取材したように見えるので厄介です。

「食べること」「雰囲気を楽しむこと」「サービスを受けること」といった体験をせずに、どうして店を選別できるのでしょうか。

食は個人による主観が強いので選ぶ店が万人の嗜好に合うものでなくても構いませんが、せめて体験した店を選ぶ必要があると考えます。

キュレーターが匿名

キュレーターが匿名であることが、食べないで記事を書くことを助長していると感じます。

CGMなのでユーザーに投稿を促すため、敷居を下げることは重要ですが、匿名であると食べたことがなくても平気で食べたことがあるように振る舞い易くなるでしょう。

必ずしも本名である必要はないと思いますが、食の評価は個人の体験に強く紐付くものなので、本人の写真やプロフィールは欲しいものです。

顔も名前もプロフィールも分からない人が選んだ店では、どのような基準で選ばれたか想像しにくいのではないでしょうか。

取材している人が割を食う

残念ながら、まだ店を訪れたことがない一般の人には、食べていないキュレーターによる記事と食べているキュレーターによる記事を判別することは難しいです。

そういった状況で、食べていないキュレーターによる記事の方がたくさん読まれてしまうと、時間とお金をかけて食べているキュレーターの記事はあまり読まれなくなります。

その結果、運営するメディアの方からすると、PVにそれほど有意な差が現れないのであれば、原稿料が圧倒的に安い、食べなくてもよいキュレーターの方に執筆を依頼してしまうのです。

そうなると食べているライターは原稿料が下げられてしまうので、食べて記事を書くことが難しくなっていくでしょう。

このような悪循環が回っていくと、グルメキュレーションメディアの記事は食べていないキュレーターが選んだ店ばかりになります。

こういった記事ばかりで、本当に参考になるのでしょうか。

グルメキュレーションメディアのあるべき姿

では、グルメキュレーションメディアはどうあるべきなのでしょうか。

それは前述のことと逆のことをすればよいと考えます。

文字にすると当然のことですが、最も大切なことは、キュレーターがしっかりと食べて記事を書くことです。そのキュレーターが匿名ではなく、写真やプロフィールから人物も想像でき、選んだ店の理由も推し量れるようなら、なおよいでしょう。

そしてこういった記事が読まれていき、食べていないキュレーターの記事が淘汰されていけば、食べているキュレーターの原稿料は上がり、質を維持していくことができます。

キュレーターとしての矜持

そもそもの話ですが、食べることが好きなので、どこのお店がよいという想いが募り、グルメキュレーションメディアに投稿するというのが本来だと思います。

私は食べることがとても好きで、あるものが食べたいがために何とか取材したいというくらいなので、食べたいという欲求がないのに記事を書くということが理解できません。

以下の通り、キューレーターとは本来は専門的な知識を持つ人のことを指します。

特定の視点を元に情報を収集、選別し、一般に共有することを表すインターネット用語。

専門的な知識を持ち、展覧会を企画する職業「キュレーター(Curator)」から派生してできた言葉であり、キュレーションをする人を、「キュレーター」と呼ぶ。

膨大な情報の流布するインターネット時代に、「有益な情報だけを探す」ニーズが生まれたこと、また、個人で「情報をまとめたい」「情報を自分でまとめて他の人に見せたい」欲求が高まったことから広まった。

特定の分野における情報を求める個人同士のつながりを生むことから(個人→集団)、新しいマーケティング材料としても注目されている。

出典:はてなキーワード

食のプロである必要はないまでも、せめて食べることが好きで、実際に店へ足を運んで食べるようなキュレーターによってキュレーションしてもらいたいと切に願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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