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真偽不明も「店長にマジギレされた」が1億回表示 焼肉食べ放題で「上タン50人前オーダー」は許される?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

焼肉オーダーブッフェで50人前の上タンをオーダー

焼肉のオーダーブッフェで上タンだけを50人前もオーダーしたら、店長に激怒されたというXの投稿が物議を醸しています。

オーダーブッフェとは、スタッフに口頭で注文するブッフェ(ビュッフェ・バイキング・食べ放題)。今事案では4000円のオーダーブッフェに対して、通常であれば1人前1480円する上タンを50人前も注文したので、店長に「これほど注文されたことはない」といわれたということです。

焼肉食べ放題で上タンばかり食っていたら店長にマジギレされてクソワロタ
たった50人前だぞ?
こんな頼むひと初めてだとかキレてたけどほなら食べ放題やめろよな

ポストは1.1億回も表示されており、大きな反響を呼んでいます。リプライや当事案に関する記事のコメントを確認すると、「制限していないので問題ない」「食べ放題なので仕方がないだろう」といった擁護論から、「モラルが欠けてる」「配慮すればよかったのではないか」といった批判まで、様々な意見が散見。

ただ、FLASHの記事によると、該当すると思われる店舗に取材したところ、店長は怒ってはおらず、トラブルにもなっていないとのこと。誇張や話題作りではないかという指摘もありますが、投稿者はトラブルになったのは本当であると反論しています。

真偽はわかりませんが、当事案は由々しき問題をはらんでいるので説明していきましょう。

大量のオーダー

ブッフェ形式の場合には、自分でブッフェ台に行き、自由に取ることができます。食べ終える前でも、再び取りに行くこともできるので、大量に持って来ることができてしまうでしょう。実演方式であれば、スタッフに、口頭で伝えて料理をつくったり、サーブしたりしてもらうので、大量に持って来ることが難しいです。

大量に取ることを防ぐには、個々盛りについては「1人1つまで」と定めたり、食べ残したらペナルティを科すと周知するしかありません。

今事案のようにオーダー形式(オーダーブッフェ)の場合には、料理であれば、1度のオーダーにつき何品まで注文できると決まっているものです。だいたいのところ、1度のオーダーにつき、1人あたり2品から3品といったところ(2人であれば4品から6品)。また原価が高かったり、手間を要したりする特定のメニューについては、1人つき1回だけオーダー可能と制限が課されていることは少なくありません。

食べ終えてから、もしくは、食べ終えそうになってから注文するのが一般的。ドリンクであれば、飲み終えてから空のグラスと交換になっています。

したがって、しっかりとルールが定められてさえいれば、大量に注文するのは容易ではありません。飲食店が適切にルールを定めていれば、ブッフェ形式でもオーダー形式でも、大量取得をある程度は防ぐことができます。

店にも対応する必要があるという前提で、考察していきましょう。

店の利益を毀損

ブッフェは通常の方が食べる範囲内のボリュームで損益を算出して、利益を生み出せるようにしています。事業である限り、利益を上げられなければ潰れてしまうのは自明です。

当事案では、4000円のオーダーブッフェで、1480円の上タンを50人前オーダーしたとあります。上タンは原価率が高いものですが、一般的な飲食店の原価率である30%で考えてみると、1人前の上タンは444円。50人前ともなれば2万2200円となります。

飲食店の営業利益率はよくても10%程度なので、営業利益は客1人あたり400円。2万2200円分も食べられてしまうと支払われる4000円との差額分1万8200円が赤字となります。原価分だけを埋め合わせるために、客45.5人分の利益が吹き飛んでしまうことになるのです。

このような客ばかりになれば、店が潰れてしまうのは明らかでしょう。

他の客に悪影響

他の客にも悪い影響を与えます。

ある客が同じメニューばかりを食すことによって、他の客が食べられなくなってしまう恐れがあるでしょう。平均的には1人で3人前以上も食べるのは多すぎるといってよいでしょう。

常識を逸した分量を食した場合、トイレで嘔吐するケースが少なくありません。その結果トイレを臭わせたり詰まらせたりしてしまい、他の客が利用できなくなったりすることもあります。

同じものばかりを注文することによって、周りの客を驚かせることもあるでしょう。何を注文するかは基本的に自由ですが、ある席では同じものばかりがテーブルいっぱいに並べられていたら、まるで大食いのトレーニングであると思われ、店の雰囲気が毀損されてしまいます。

ブッフェのマナー

ブッフェのマナーを紹介しましょう。

1958年8月1日に、日本におけるブッフェスタイルの発祥となった帝国ホテルのバイキングが誕生しました。日本ブッフェ協会は、バイキングにおけるマナーやバイキングのもとになった北欧料理のスモーガスボードをベースにして、ブッフェにおける基本マナーと上級マナーを紹介しています。

ブッフェを正しく楽しく味わうためのマナーを提案/一般社団法人 日本ブッフェ協会

基本マナーは以下の通りです。

・自分の分だけを取る
・全て食べる
・ブッフェ台をきれいに使う
・適度に食べる
・ドリンクを飲み終えてからお替わりする

基本マナーができた上で、上級マナーは下記のようになります。

・少しずつ取る
・色々なものを試してみる
・コースで食べる

ブッフェでは、基本的に自分で取ったり、オーダーしたりしたものは、全て食べることが大前提。大量に取ったりオーダーしたりしたとしても、今事案のように全て食べられるのであれば、原則的には許容するしかありません。

ただ、大食いすることや単一メニューばかり食べることを推奨しているわけではありません。各個人によって食べられる分量が異なるため、それぞれにとって最適なボリュームを食べて満足してもらえるようにしているだけです。

多量少皿ではなく少量多皿を標榜しており、客に食体験を広げてもらいたいと思い、様々なメニューを用意しています。したがって、同じものをたくさん食べるのではなく、色々なものを試してみるのがよいです。

食育に反している

食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」と位置づけられています。

食育の推進/農林水産省

食育って何?/文部科学省

単一メニューの大食いは、食育に適ったものではありません。

食育基本法の中には「ゆっくりよく噛んで食べる」という指標も用いられています。食事をとる際に、たくさん食べることを意識するのではなく、しっかりと味わって食べることが重要になっているのです。

小さい頃、自宅で食事する際に、誰よりもたくさん食べることを奨励された人は、どれだけいるでしょうか。とにかくたくさん食べることが、知育・徳育・体育の基礎となる食育に合致しているはずがありません。

元をとろうとすること

ブッフェで元をとろうとすることについても、言及したいです。

当事案では、単価の高い上タンばかりをターゲットにして食したという面があるのも否めません。

あらゆる経済活動において、基本的に客が元をとれることは決してないでしょう。飲食店は慈善事業ではないので、利益を上げられるように料金を設定しているからです。

コーヒーショップに訪れてコーヒー一杯を注文しても、高級フレンチで一番安いコースを選んで全て無料の水道水で通しても、元がとれることはありません。なぜブッフェになると、元をとろうと卑しくなるのか、元をとらなければならないと焦るのか、不思議です。

元をとろうとするあまり、単価が高いと思われるものだけを食べ続けるのは楽しいことでしょうか。

仮に元がとれたとしても、そのせいで飲食店が利益を上げられなくなってしまえば潰れてしまいます。

ブッフェの意義

ブッフェで同じものだけを大量にオーダーするのは、マナーに照らしても、本人の食体験からしてもあまりよいことではありません。飲食店にとってはもちろん、他の客にも迷惑をかけてしまいます。

ブッフェはせっかく好きなように食べられるスタイルであるだけに、ただ闇雲に取ったりオーダーしたりするのではなく、自分自身の食べ方や他の客のことも考えながら、自由に楽しく食べていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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