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世界旅行者の「子連れで一番ストレスは日本」が4000万回表示の反響! 子どもと飲食店に行ってもいい?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店の掲示に反論

飲食店に子どもを連れて入店したことはありますか。

色々な国で子連れ旅行を経験した方が、Xに投稿しました。その内容は、ある飲食店が店頭に掲示した写真を添付し、日本の飲食店に苦言を呈するものです。約4113万回も表示され、大きな波紋を呼んでいます。

まだ幼い息子を連れていろんな国を旅行したが、子連れでの旅行で一番ストレスを感じたのが『日本』です 子供が泣いてたりすると、
周りの 『そのガキ黙らせろよ』
というプレッシャーがもの凄いのよ
大体ね、これ書いた店主、あなただって小さい頃は沢山泣いていろんな人に迷惑かけて育ったんじゃないの?
(原文ママ)

このポストで指摘している店主が書いた「これ」の内容は次の通り。

お断り
躾(しつけ)の全くできていない
騒々しい子供さんの入店は
他のお客様のご迷惑となりますので
固くお断り申し上げます。
あるじ 敬白
(原文ママ)

しつけのなっていない子どもは、他の客に迷惑をかけるので、入店を拒否するというもの。

飲食店における“子連れ問題”は正解のない事柄ですが、考察していきます。

雰囲気づくり

飲食店が子連れを厭う理由を説明していきましょう。

飲食店の雰囲気は客がつくるともいわれているように、その場にいる客が、その店のその時の空気を醸成します。

飲食店によって、目指す雰囲気はそれぞれ異なるもの。家族連れが気軽に利用できる和やかな感じであったり、記念日やお祝いに予約する品のあるレストランであったり、食通が好んで訪れるような荘厳な空気であったり、ひとりで気軽に食べに行ける感じであったり、デートにぴったりな洒落たムードであったりします。

理想の雰囲気をつくるために、飲食店は客を選ぶのです。雰囲気づくりのために子連れを断るのは、大人による落ち着いた上質な空間を志向するため。ただ、例外として個室であれば子連れでも入店できることは少なくありません。

お酒をメインにした業態であったり、夜遅くまで営業していたりする店も、子どもに相応しくないのは明白です。

他の客に迷惑

今事案の飲食店が掲示しているように、子どもが他の客に迷惑をかけることもあります。

大きな声を出したり、騒いだり、席を離れて立ち歩いたり、走り回ったり、床に座ったり、物を投げたり、周辺を汚したり、靴を脱がなければならない場所に土足で上がったりすれば、落ち着けると思って入店した客を困惑させてしまうでしょう。

子どもが客やスタッフにぶつかったり、もしくは、逆に怪我をさせられたりと、身体的に危険が生じたりすることもあります。

客単価と回転率

客単価と回転率の観点から、子連れを拒否する飲食店もあります。

子どもは食べられる分量も少なく、親に分けてもらうことも少なくありません。全く注文しなかったり、あまり注文しなかったりするので、子どもが座る席は大人が座る席よりも、客単価が落ちてしまいます。

また、大人よりも食べるのに時間がかかることがほとんどです。子どものケアまでしなければならないので、同席する大人も食べる時間が長くなってしまいます。そのため、子連れのテーブルは滞在時間が長くなり、回転率が落ちてしまうのです。

飲食店はハコもの商売=スペースを有効活用するビジネスであるだけに、客単価と回転率の低下を危惧するのは仕方がありません。

造りとサービス

店の造りによっては、そもそも子どもが滞在するのに適していないことがあります。立ち食いであったり、席がハイチェアやスツールであったり、硬いローテーブルであったり、目の前に熱い鉄板があったり、狭いカウンターであったりと、子どもに向いていない造りは少なくありません。おまかせコースのみであったり、食材の対応ができなかったり、分量調整ができなかったりしても同様です。

子ども用のイスやカトラリーを用意したり、子どもがモノを落としたり、周りを汚したり、嘔吐したりした時に対応したりと、大人に比べて子どもへのサービスは大変です。

こういった造りやサービス負荷の観点からも、子連れを拒否する場合があります。

子連れ歓迎の店も

子連れお断りにも、様々な理由があることを説明しました。

飲食店の経営はビジネスなので、客が店を選ぶように、店も客を選ぶのは仕方ありません。子どもが好きか嫌いかにかかわらず、様々な事情によって子連れをNGにしているのです。

子連れを断る飲食店が存在する一方で、子連れにフレンドリーな飲食店がたくさんあるのも事実。

ファミリーレストランのようなカジュアルな業態ではもちろんのこと、個室での利用を許可したり、キッズデーを設けたりするなど、子連れを歓迎するファインダイニングもあります。

子連れがストレスを受ける理由

件の投稿者は、日本の飲食店は海外に比べて子連れに厳しいので、ストレスを受けると主張しています。

では、どうしてストレスを受けてしまうのでしょうか。

それは、子どもを歓迎しなかったり、子どもに対応できなかったりするのに、子連れ入店を承諾する飲食店があり、そこに訪れてしまっているからです。

飲食店の情報

飲食店が客に発信する情報のうち、最も重要になるのは店名、住所、電話番号。飲食店にアクセスする上で、最も重要な事項であることはいうまでもありません。

次いで重要となるのが、営業に関するもの。いつ営業していて、いつ営業していないか、という情報です。営業していない時に訪れてしまえば、客にとっては非常に残念であり、飲食店にとっては機会損失になります。

「いつ営業しているか」に関連するのが「誰が利用できるか」。会員制や紹介制であったりすれば当然のことながら、何歳以上であれば利用できるという制限もあります。これが子連れを受け入れるか否かの鍵となるのです。

子連れを歓迎しない場合は、年齢制限を設けて店頭で周知し、公式サイトやSNS、グルメサイト、飲食店予約サービスにも掲載して子連れ客を明示的に避けるべきです。そうすれば、子連れを歓迎しない飲食店と、子連れで訪れたい客のミスマッチを未然に防ぐことができます。

飲食店と客の共存

件の飲食店による投稿は、客観性を担保するために、具体的な年齢を記載した方がよかったとは思いますが、子連れを望まないことを明示したという点では、客のためにもなっているといえるでしょう。

東京は10万店を超える飲食店を有しており、ミシュランガイドでは世界で最も数多くの星付きレストランがある都市です。東京をはじめとして、日本には多くの素晴らしい飲食店があるだけに、子連れ問題で飲食店と客が対立軸をつくらず、双方が幸せに共存していけることを願います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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