知る人ぞ知る“裏渋”にある8席だけの「懐石イタリアン」 おまかせコースの全容と3つの魅力
イタリア料理は日本で人気
日本に広く浸透している西洋料理といえば、イタリア料理です。パスタやピッツァなど、知らない人はもちろん、食べたことがない人は、ほとんどいないといってよいでしょう。
ただ、その一方で、高級なイタリア料理となると体験したことがある人は多くありません。高級レストランといえばフランス料理が思い浮かぶかもしれませんが、イタリア料理にも高級レストラン=リストランテがあり、非常に洗練されています。
高級イタリアンの中で最近話題になっているのが、神泉の「コッキ(COCCHI)」です。2023年4月14日にオープンしたイタリア料理店で、わずか8席だけの半円形カウンターの前で繰り広げられる“懐石イタリアン”が好評となっています。
神泉にある「コッキ(COCCHI)」
「コッキ」でシェフを務めるのはイタリアの名店で研鑽を積んだヴィットリオ・コッキ氏。デザートとサービスを担当するのは、コッキ氏の妻である小堀恵子氏です。
コッキ氏は地方のホテル料理学校で学び、イタリア、スイス、アメリカ、香港で腕をふるってきました。イタリアのフィレンツェに本店を構える三つ星レストラン「エノテーカ・ピンキオーリ」で働いた後に来日。伝統的なトスカーナ料理に独自の解釈を加えた新しい料理を紡ぎ出しています。
おまかせコース
ここで体験できるのは、おまかせコース(ランチ 6品 11,000円、ディナー 10品から12品 19,800円)。
国産食材を中心にし、素材を大切にしたエレガントなメニューで構成されています。香りを楽しんでもらいたいということから、各料理の温度にこだわっているのも特長です。
コースは毎月新しくなり、取材時は次の通りでした。
・サラダ菜 ヨーグルト パルメザンチーズ ツナ オリーブ ケイパー アンチョビ
・剣先イカ グリンピース 三つ葉
・アーティチョーク ラルド パセリ
・ホワイトアスパラガス ブッラータチーズ 甘エビ キャビア +2,500円
・リードボー カラスミ 菜の花 海老出汁 セモリナ粉 卵 リコッタ
・リフレッシュ
・仔羊 黒オリーブ 松の実 トマト ジャガイモ ヴィネガー
・コシヒカリ ブルーベリー 筍
・チーズ 無花果 杏 ナッツ
・甘夏みかん 寒天
・ブッラータチーズ 苺 フレッシュクリーム
どの料理もクリエイティビティに溢れているので、メニュー名からはどのようなものか想像がつきません。訪問時の料理とお酒をいくつか紹介していきましょう。
サラダ菜 ヨーグルト パルメザンチーズ ツナ オリーブ ケイパー アンチョビ
シーズナルの定番サラダです。サラダ菜の上には、ヨーグルトのソースとアンチョビ、フライにした赤いトマトのパウダー、パルメザンチーズがのせられており、その下にはツナ、ブラックオリーブ、ケッパーのパンをクラストにしたものが敷かれています。ツナが有する動物性の旨味と力強い脂が、野菜に潤いと躍動感を与えます。彩りも食感も豊かな前菜です。
剣先イカ グリンピース 三つ葉
甘味のある宮崎県の剣先烏賊を塩麹で軽くマリネして、よりまろやかな味わいに。グリーンピースのピューレとレモンのピューレ、サルサベルデに、三つ葉と小松菜の和食材を合わせました。ブロッコリーのスプラウトとセルフィーユで緑の色合いを添えています。
アーティチョーク ラルド パセリ
小ぶりのアーティチョークの中には旨味のある豚の脂=ラルドとジャガイモ。上には、パン粉とパセリがのせられ、カリッとオーブン焼きにしています。サフランリゾットをペーストにして、フレッシュなクリームと和えた辛子色のソースを添えました。
ホワイトアスパラガス ブッラータチーズ 甘エビ キャビア
追加料金のスペシャルメニューです。ホワイトアスパラガスの食感を残してシャキシャキとさせ、上にはブッラータチーズ、少し火入れして甘味を引き出した甘海老がのせられています。ラトビアにあるモトラ社の最高級かつ希少なキャビア「スターレット」、濃厚な卵黄のソース、鮮やかなレッドソレルが加えられていました。
リードボー カラスミ 菜の花 海老出汁 セモリナ粉 卵 リコッタ
白子のような濃厚さをもつリードボーを、菜の花の生地で包んだラビオリです。下には菜の花のピューレと濃厚なカラスミ。ベースのバターソースにアメリケーヌソースを合わせて、力強い味わいに。三つ葉、ルッコラ、カットしたナスタチウムと、青い味わいが爽やかです。
仔羊 黒オリーブ 松の実 トマト ジャガイモ ヴィネガー
仔羊の背肉をゆっくりと丁寧に火入れし、とてもやわらかく、慎ましやかな旨味と妙妙たる味わいに仕上げました。サックリとした香り高いセージの花のフリットを重ねています。付け合わせは、ジャガイモのケーキにセミドライトマト、炒めたブラックオリーブと松の実。トマトとキノコのビネガーソースは滋味と酸味があり、全体をまとめてくれます。
コシヒカリ ブルーベリー 筍
赤いコシヒカリのリゾットはブルーベリー風味。ほんのりとした香味に旬の筍が醸す至味が印象的です。黒いパウダーはコクのあるトランペット茸。
チーズ 無花果 杏 ナッツ
さすがフルコースということで、フロマージュも付いています。ウンブリア州の独特の香りがする羊チーズ「ペコリーノ」を白ワインに2ヶ月間漬けて、心地よい香りをまとわせました。リンゴのソルベに、ドライのイチジクとアプリコット、ナッツを桜の葉で巻いたものが付け合わされています。
ブッラータチーズ 苺 フレッシュクリーム
メインのデザートは、ブッラータチーズのムースとイチゴの果肉とソルベ。ディルの花などを加えたサクサクのメレンゲが優雅に立てかけられており、オリーブオイルによって高貴な風味に仕上げられています。
充実のワイン
ワインペアリング(8,800円)も8杯程度と、皿数と同様に多く、色々なものが楽しめます。イタリアワインが中心で、他のレストランでは味わえないものも少なくありません。
「コンタディ・カスタルディ ブリュット」は最初に提供された、イタリアの高級スパークリングワインであるフランチャコルタ。柑橘系の香りがありながらも、熟成感があって滑らかな口当たりとなっています。バランス感があるので、最初から最後まで通せるような万能な一杯。「フランツ・ハース プティ・マンサン アルト・アディジェ 2021」はしっかりとした酸味と独特の風味のプティ・マンサンで造られた白ワイン。鮮やかな黄色をしており、トロピカルフルーツやハチミツの香りが印象的です。
「ラルー バルベーラ ダルバ 2021」はイタリア・ピエモンテ州の赤ワインで、バルベーラ100%。フローラルなニュアンスがありますが、タンニンが滑らかで透明感のあるきれいな味わいです。繊細な肉料理との相性が抜群。「カルヴェンツァーノ メロンチェッロ」は生産量が少ない、マスクメロンを漬け込んだリキュールです。メロンの芳醇で甘い香りに満たされていて、最後の方でも軽く飲め干せてしまいます。
「コッキ」の魅力
ここまで「コッキ」の料理やお酒を紹介してきましたが、改めてその3つの魅力について触れましょう。
まずはカウンターでのライブ感。カウンター席とキッチンとはちょうどいい間隔が保たれていて、臨場感がありながらもプライベート感もあります。席の間隔にも余裕があるので、カウンターでもゆったりと寛げるのも特長です。
トスカーナを中心としたイタリア料理と、和の食材が見事に融合しています。シグネチャーのサラダではブラックオリーブとアンチョビにツナ、グリーンピースのピューレに小松菜や三つ葉、ホワイトアスパラガスに甘海老、コシヒカリにブルーベリーと、意外性のある至味に仕上げられています。
豊富なイタリアワインも他では体験できません。コッキ氏の繊細な料理に合うワインがイタリア全土から取り寄せられています。ノンアルコールペアリング(ランチ 3,300円、ディナー 6,600円)も用意されているので、アルコールを飲まない方でもペアリングを楽しめます。
裏渋にあるモダンイタリアン
「コッキ」があるのは、いわゆる「裏渋」や「奥渋」と呼ばれるコアな地域。隠れ家的でカジュアルな飲食店が多い中で、本格的でモダンなイタリア料理が堪能できるのは驚きです。
イタリア人であるコッキ氏と日本人である小堀氏が紡ぎ出すイノベーティブイタリアンを、是非とも体験してください。