鉄板焼の魅力を引き出す、日本の3つの味覚とは?

著者撮影

和でも洋でもある鉄板焼

この夏に、<夏と鮎と鉄板焼。日本人であれば体験してもらいたい3つの旬味>という記事を書きましたが、鉄板焼は面白いジャンルであると私は考えています。

日本料理店の中にひとつのコーナーとして設けられることもありますが、和食のようであったり、洋食のようであったりするからです。

海外の方にとっては、鉄板焼はステーキとは異なるスタイルであり、目の前で握る寿司や揚げる天ぷらに近いイメージがするので、和食という分類になるでしょう。しかし、日本人からすれば、肉がメインディッシュとなり、それを中心として組まれるコースは、洋食のように感じられます。

実際に、洋風にするか和風にするか、鉄板焼の料理長(シェフ)によって全く異なっており、使われる皿も陶器から白磁器までと幅広いです。

そういった状況にありながら、日本のホテルの鉄板焼で、日本の味覚をふんだんに使い、魅力的な和風の鉄板焼に仕上げているところがあります。

日本のホテルの和の鉄板焼

それは以下の日本のホテルで行われている3つの味覚です。

  • 山の味覚

ステーキハウス桂(ザ・プリンス パークタワー東京)

  • 地域の味覚

鉄板焼 すみだ(ロイヤルパークホテル)

  • 海の味覚

鉄板焼 一徹(第一ホテル東京)

どれも有名な日本系のホテルであり、和の色合いが濃い鉄板焼を提供していますが、どういったものなのでしょうか。

山の味覚/ステーキハウス 桂(ザ・プリンス パークタワー東京)

松茸の鉄板焼き すだち香り@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
松茸の鉄板焼き すだち香り@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

ザ・プリンス パークタワー東京「ステーキハウス 桂」では、2017年9月1日から10月31日にかけて「秋の味覚 松茸と黒毛和牛ステーキ コース」が行われました。内容は以下の通りです。

  • 胡麻豆腐とシメジのカクテル仕立て 生雲丹添え
  • 松茸の鉄板焼き すだち香り
  • 太刀魚と帆立貝のソテー ラタトゥイユソース
  • 彩り野菜のサラダ
  • 焼き野菜
  • 黒毛和牛ステーキ フィレ(80g) または 黒毛和牛ステーキ ロース(100g)
  • 茸入りガーリックライス
  • 味噌汁・香の物
  • マロンアイス
  • コーヒー

秋の味覚として茸が挙げられますが、日本で茸の王様と言えば、多くの人が松茸を挙げるのではないでしょうか。海外では松茸の匂いがあまり好まれませんが、縄文時代から食べてきたとされる松茸は、日本人が大好きなキノコです。

その松茸を贅沢に組み込んだのがこのコースになります。

太刀魚と帆立貝のソテー ラタトゥイユソース@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
太刀魚と帆立貝のソテー ラタトゥイユソース@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

コースの最初に胡麻豆腐という和の色合いが強い一品を提供し、その後で松茸が前菜として提供されます。松茸は一人一本丸ごと使われ、食べ易いように4等分にカットされます。同じく秋の食味である銀杏を竹串に刺して添え、秋の訪れを感じさせる一皿です。

松茸だけでも非常に満足感は高いですが、鉄板焼コースのオーソドックスな流れとして、前菜の次に魚介が調理されます。鹿児島県の太刀魚と宮城県の帆立貝を使い、ソースはラタトゥイユ。ラタトゥイユソースと高さを強調したプレゼンテーションから、モダンイタリアンのような料理に仕上がっています。

メインの黒毛和牛ステーキは日によって異なりますが、この日はA4ランクの青森県の十和田牛。コンディメントには香川県にあるマルキン醤油が使われています。

黒毛和牛ステーキ フィレと黒毛和牛ステーキ ロース@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
黒毛和牛ステーキ フィレと黒毛和牛ステーキ ロース@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

最後の茸入りガーリックライスは、卵を焼いてから混ぜて作るプリンスホテル風。卵を加えるかどうかも、鉄板焼によってかなり差がありますが、プリンスホテルの場合には、焼いてから混ぜるのでさらに特徴的です。2017年11月から行われているフェアでは、京野菜とフォアグラのご飯を作っているように、最後のご飯は、単純なガーリックライスではなく、ひと工夫を加えたご飯となっています。

「桂」のオープン時からのスタッフであるチーフ(調理担当)の石橋淳一氏は「他の鉄板焼とは異なり、鉄板が10センチ高くなっているので、焼いている様子がよく見える」と「桂」の特徴を述べますが、松茸を目の前で捌いて焼いてもらえるのは、まさに日本の秋の贅沢ではないでしょうか。

地域の味覚/鉄板焼 すみだ(ロイヤルパークホテル)

ハマチ(オリーブハマチ)のカルパッチョ 野菜のゼリーと共に栗とキャビアを添えて@ロイヤルパークホテル/著者撮影
ハマチ(オリーブハマチ)のカルパッチョ 野菜のゼリーと共に栗とキャビアを添えて@ロイヤルパークホテル/著者撮影

ロイヤルパークホテル「鉄板焼 すみだ」では、オリーブ解禁日の2017年10月10日から12月21日にかけて「香川県産 オリーブ牛と香川の味覚フェア」が行われています。

その名の通り、香川ならではの魅力に溢れるフェアとなっており、内容は以下の通り。

  • ハマチ(オリーブハマチ)のカルパッチョ 野菜のゼリーと共に栗とキャビアを添えて
  • 鯛の蒸し焼き なると金時豆腐添え 柚子風味の銀餡掛け
  • ロブスターのソテー トマトとオリーブオイルのソース グレープフルーツと蕪のサラダと共に
  • 香川県産“オリーブ牛” サーロインステーキ 160g または ヒレステーキ 120g
  • ハマチ(オリーブハマチ)の焼きおにぎり茶漬け・香の物
  • 洋梨と巨峰のパフェ レモン風味
  • コーヒー または 紅茶

香川県と言えば、うどんが有名ですが、実は知る人ぞ知るオリーブの産地です。日本におけるオリーブ栽培の発祥地であり、2014年度では日本国内のオリーブ生産量の約95%を占めています。

1907年に苗木が小豆島に植栽されてから100年以上もの長い歴史があったり、県花・県木にオリーブが指定されていたりと、香川県とオリーブに強い結び付きがあるのです。

品質も世界に認められるまでに向上しており、2013年「ロサンゼルス国際エキストラバージンオリーブオイル品評会」では香川県から出品された13社15点の全てが金賞または銀賞に輝きました。

香川県産“オリーブ牛” サーロインステーキとヒレステーキ@ロイヤルパークホテル/著者撮影
香川県産“オリーブ牛” サーロインステーキとヒレステーキ@ロイヤルパークホテル/著者撮影

「すみだ」で行われる今回のフェアでは、その香川県のオリーブオイルと、オリーブによって育てられたオリーブハマチやオリーブ牛が使われています。

コースを通して使われているオリーブオイルは、1928年からオリーブ栽培を始めた老舗「創樹」の「手摘み一番搾りエキストラ バージンオリーブオイル ミッション・ミディアム」と「手摘み一番搾りエキストラ バージンオリーブオイル ルッカ」。

販売本数がとても少なく、値段も非常に高いですが、最初の前菜から惜しげもなく使われています。

香川県が生み出したオリーブハマチはカルパッチョにして、野菜のゼリーと旬の栗、さらにはキャビアを合わせ、仕上げに加えられるのがオリーブオイル。ロブスターのソテーには、ロブスターの味噌を使ったソースだけではなく、トマトとオリーブオイルを合わせたソースも添え、2種類のソースを楽しめるようにしています。

メインの肉はここ最近になってようやく東京でも出回り始めた香川県産のオリーブ牛。このコースではA5ランクのオリーブ牛が指定されており、フィレでも霜降り具合がサーロインのようです。

ハマチ(オリーブハマチ)の焼きおにぎり茶漬け・香の物@ロイヤルパークホテル/著者撮影
ハマチ(オリーブハマチ)の焼きおにぎり茶漬け・香の物@ロイヤルパークホテル/著者撮影

コンディメントには、香川県ヤマロク醤油の「鶴醤」や、約300年の歴史を誇る香川県・宇多津町の入浜式の塩が添えられ、ご飯には、オリーブハマチの焼きおにぎり茶漬けが提供されています。

まさに香川づくしであると言えるでしょう。

この香川にこだわったフェアは、開催に至るまでに時を要しました。シェフの安冨正己氏が品評会でオリーブ牛を見初め、2016年12月に初めて農家にコンタクトをとってから、1年近くかけてようやく実現できたのです。

実はこのコースには、普通の鉄板焼コースとは大きく異なる点があります。それは、野菜が含まれていないことです。安冨氏は「今年からフェアの魚介や牛肉に集中するため、野菜はコースに組み込まず、アラカルトにしている」とさらりと述べますが、ここまで注力することによって、その地域の魅力をより引き出せているのではないでしょうか。

海の味覚/鉄板焼 一徹(第一ホテル東京)

国産活黒鮑の鉄板焼 バター醤油風味の肝と柚子塩添え@第一ホテル東京/著者撮影
国産活黒鮑の鉄板焼 バター醤油風味の肝と柚子塩添え@第一ホテル東京/著者撮影

第一ホテル東京「鉄板焼 一徹」では1年を通して「さくら」コースを提供しています。このコースでは、魚介類に黒鮑か伊勢海老を選ぶことができ、しかも、以下の通り、フォアグラや神戸ビーフといった高級食材が目白押しです。

  • 先付
  • フォアグラのソテー マデラソース フランベサービス
  • 国産活黒鮑の鉄板焼 バター醤油風味の肝と柚子塩添え もしくは 国産活伊勢海老の鉄板焼 その味噌を使ったソースで
  • 旬の焼き野菜 盛合せ
  • 彩りサラダ
  • 神戸ビーフステーキ フィレ100gまたはロース130g
  • ガーリックライス(国産米使用)・伊勢椀・香の物
  • フルーツ
  • コーヒーまたは紅茶
旬の焼き野菜 盛合せ@第一ホテル東京/著者撮影
旬の焼き野菜 盛合せ@第一ホテル東京/著者撮影

鮑は、邪馬台国の女王卑弥呼の時代から天下人が食してきた食材で、貝を用いた日本料理の中で最も料理の数が多いとされているほど、日本人に愛されている貝です。

今回のコースで提供されているのは赤鮑よりも1.3~1.4倍も高価な黒鮑で、日本一の水揚げ量を誇り、ブランドともなっている千葉県産(場合によっては九州産)。鮑の旬は夏ですが、千葉県の房総半島では秋までが旬となっています。

先付は、「一徹」の定番となっている長芋と寒天で作った養老豆腐。日本料理らしい一品の次には、フォアグラのソテーとマデラソースにフランベの実演を合わせた、王道の洋食です。

その次に黒鮑に移りますが、黒鮑は赤鮑に比べてしっかりとした食感があるので、手を加え過ぎていません。バター醤油と肝でコントラストを生み出し、柚子塩でアクセントをつけています。

サラダに使われているベビーリーフは東日本大震災で大きな被害のあった大川小学校で栽培されたものです。

神戸ビーフステーキ フィレとロース@第一ホテル東京/著者撮影
神戸ビーフステーキ フィレとロース@第一ホテル東京/著者撮影

神戸ビーフはA5ランクが指定されており、静岡県産のワサビ、黒大豆を使った和歌山県の湯浅醤油、山口県萩市の橙を使ったポン酢、さらには、宮城県気仙沼の岩井崎の塩、アメリカのリアルソルティの塩、オーストリアのザルツブルグの塩が添えられています。

一徹・ラウンジ21の統括シェフの木村隆彦氏は「神戸ビーフは様々な味わいが感じられるように、海と川と山の3種類の塩を用意した」と充実した塩の意図を説明します。

また「鉄板焼では、牛肉だけではなく魚介類も重要なので、最高の食材である黒鮑を使っている」と述べるように、牛肉と並んで主役を張る魚介類にも力を入れていく必要があります。

日本らしい鉄板焼

ドナルド・トランプ大統領が訪日した際に鉄板焼の「銀座うかい亭」で安倍晋三総理と会食しましたが、冒頭で述べたように、鉄板焼は外国人にとっては日本料理です。

だからこそ、日本のホテルが外国人へ向けて訴求するには、日本らしい鉄板焼を提供するのがよいと考えています。

日本には「食欲の秋」「味覚の秋」といったように、秋になるとおいしい食材が豊富にあることを示唆する言葉があるだけに、鉄板焼は和風にも洋風にもできますが、秋であれば日本の味覚を豊富に使った鉄板焼がより魅力的になるのではないでしょうか。