1500万食を提供する東京五輪で食品ロスを削減できるのか?

(写真:ロイター/アフロ)

ここ数年で最大規模のイベント東京五輪

ここ数年において日本で開催される最大規模のイベントは、2020年の東京五輪・パラリンピックであることは誰もが認めるところでしょう。

五輪は2020年7月24日(金)から8月9日(日)にかけて33競技が行われ、パラリンピックは2020年8月25日(火)から 9月6日(日)にかけて22競技が行われます。

集まる選手数も非常に多く、2012年ロンドン大会の例に挙げると、五輪では10500選手、パラリンピックでは4200選手が出場しています。大会期間中は約1500万食、選手が滞在する選手村だけで約200万食を用意しなければなりません。

そしてこの選手村で、つい先日も執筆した<食べ残しをやめられますか? 「食べ残し」対策の留意事項から外食産業の食品ロスを考える>で取り上げた食品ロスの問題が挙げられています。

ロンドン五輪で2443トンの食品廃棄

毎日新聞によると次の通りです。

12年ロンドン五輪では2443トンの食品廃棄物が発生。内訳は21%が保管時の腐敗、34%が食べ残し、45%が調理時のロスという。

出典:毎日新聞

ロンドン五輪の開催期間が17日であったことを考えると、1日あたり143.7トンもの食品廃棄があったことになります。

選手村独特の事情

大会期間中に200万食を提供する選手村では、遅滞なく提供することが最優先されるため、準備された食事を給仕するカフェテリア方式が主流だ。200を超える国・地域から集まる選手に向け、多様な食事が求められる。衛生管理上、調理から2時間を過ぎた食事は提供ができない制約もあるため、食べ残しの量が増えていた。

出典:毎日新聞

選手村は選手が最高のコンディションを整えられることをミッションとしているだけに、選手優先となる食のオペレーションになるのは理解できます。

カフェテリア方式ではサーブする通常の方法に比べて食中毒の危険性が高くなるので、早めに廃棄するのは仕方がないでしょう。

ICタグで見える化

WGの議論では、いかに食材の適切な調達・保管を図り、調理時の作り過ぎを防ぐかが対策の鍵に上がった。崎田座長は電子(IC)タグを用いて食品を管理する「見える化」で無駄を削減することを提案した。また、余った食品を貧困などで十分な食事を取れない人たちに届ける「フードバンク」を活用するほか、食べ残しなどは肥料や飼料など再資源化して、循環するようなサイクルも提言の中に盛り込まれた。

出典:毎日新聞

食品廃棄は管理が最適化されていないことでも起こるので、「見える化」はよい試みでしょう。仕方なく残ってしまったものを利用できるところに使ってもらうことは、食品ロスを減らすための定番の施策です。

気になる点

食品ロスに取り組む姿勢はとても素晴らしいと思いますが、気になっている点がいくつかあります。

  • 多様な料理
  • 廃棄時間
  • 電子タグ

詳しくは次の通りです。

多様な料理

世界各国から、国籍も人種も宗教も異なる多くの選手が集うので、それぞれの選手に合わせた最適な食事を用意することは重要なことです。体が資本であるアスリートが、最高のコンディションで世界の大舞台に臨めるようにするには、食の面でサポートが必要でしょう。また、食べ慣れた食べ物が食べられることで、心理的にもリラックスできるはずです。

多様な料理を用意することは重要ですが、世界にはありとあらゆる料理があり、同じ国の中であっても、地方によって郷土料理も異なるので、取り揃えようと思えばきりがありません。

そして、たくさんの料理を用意しようと思えば、様々な食材や調味料が必要となります。

そうすると、調理の効率が悪くなり、食材のロスも多くなることでしょう。保管時の腐敗が食品ロスの21%を占めているだけに、どこまで料理の種類を減らせるか、どこまで食材を共通化できるのかと、徹底的に鑑みることが重要です。

廃棄時間

カフェテリア形式は学校やテーマパークの飲食店でよく見掛けられる形式で、ブッフェ形式と並んで一度に大人数に対応できる仕組みです。

調理した料理は台の上に並べられて食べたい物を自由に取ることになります。これにより、オペレーションが効率化されて、たくさんの人数を捌くことができ、食事をとりたい選手を待たせないようにできます。

料理は取られるまでずっと置かれており、徐々に腐敗して食中毒の可能性が高まっていくので、頃合いを廃棄しなければなりません。湿度や菌によって異なりますが、20度程度の室温では約2〜3時間が目安と言われているだけに、2時間で廃棄するのは妥当です。

これに加えて、10度以下の低温にしてもおいしく食べられる冷菜を充実させたり、加熱したものと加熱していないものとなど、料理によって、廃棄時間を変えられるのであれば廃棄する分量は抑えられるでしょう。

電子タグ

電子タグを付けることにより、リアルタイムに近い状態で食材の在庫を把握できます。これによって、仕入れ予測の外れによって食品が余り、廃棄することが少なくなるはずです。

電子タグで管理するのであれば、よりICTを活用し、食品廃棄の34%を占める食べ残しの対策も行われると、なおよいでしょう。

食べ残しの有無や多寡は、一人前の分量や個人の好みに依存します。それだけに、例えば予め選手の好みを登録しておき、どういった料理がどれだけ食べられるかを予測すると同時に、料理の人気や食材の消費をリアルタイムで観察しながら補正をかけていけば、無駄な食べ残しを減らせるはずです。

選手村ほどの規模となると、料理人や購買担当の勘に頼るのではなく、ICTの仕組みを積極的に取り入れて少しでも予測の正確性を高めることが重要となります。

レガシーとなれるのか

以上ここまで述べてきましたが、選手村の主役はあくまでも東京五輪・パラリンピックの選手なので、選手が最高のコンディションで競技を臨めるようにするのは当然のことです。

ただ、崎田裕子理事長が毎日新聞で「(過去に開催した)ロンドンやリオデジャネイロも成果が上がらなかった。東京が挑戦すれば大きなレガシー(遺産)になる」と述べたように、食品ロスの削減で大きな成功を収めたいのであれば、先程挙げた3点なども含めて、より踏み込んだ対応をしなければならないと考えています。

現状のところ、食品ロスを減らすには、食に関する自由度の高さや効率性はある程度は諦めざるを得ません。今や世界に知られた「もったいない」文化の発祥である日本において、大会組織委員会がどれだけ思い切って食品ロスに取り組めるのか、その取り組む姿勢こそがレガシーになるのではないでしょうか。