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Amazonレストランガイド本1位のトップシェフ100人が選んだ「シェフ推し」をとことん読み解く

東龍グルメジャーナリスト

グルメ本が出版

2017年7月20日に株式会社カンゼンから「100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京 シェフ推し」が出版され、メディア向けの発表会も行われました。Amazonの「レストランガイド」カテゴリでも早々にランキング1位となっています。

これは株式会社USENが運営する、料理人の顔が見えるグルメサイト「ヒトサラ」が取材して作り上げた本です。以下のように説明されています。

「おいしい料理をつくる人は、おいしいお店を知っている」。グルメサイト「ヒトサラ」編集部が、いま注目の料理人、老舗の料理人ほか、総勢100名の“一流料理人たち”に、「本当は教えたくないおいしいお店」を徹底取材!

(中略)

本当に通っているからこそ語れる一流シェフたちのおすすめコメントとともに、全560軒のお店を掲載。シェフお墨付のお店の中から、大事な人とのデート、食通を唸らせたい会食、友人・同僚との気軽な飲み会にぴったりな一軒、ぜひ書店で手に取って見つけてみてください。

出典:ヒトサラ

「100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京 シェフ推し」
「100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京 シェフ推し」

この本には、他のグルメ本と違う大きな特徴があります。それは、本に掲載される店をシェフが決めるという、新しい試みを行っていることです。

ルール

では、どのようにしてシェフたちが店を決定しているのでしょうか。

選出方法は以下のようになっています。

  • 「トップシェフ」100人を選出

10ジャンル、3世代(35歳以下、35~50歳、50歳以上)から選出

  • 「トップシェフ」がそれぞれおすすめ10店を選出

10店未満の場合もあり

  • 1人以上からおすすめされた店を掲載

最高で11人からのおすすめ

最初に、編集部が「世界レベルで評価の高い」東京のシェフの中から、なるべく偏りがないように10ジャンル3世代から「トップシェフ」100人を選出します。

次に、それぞれの「トップシェフ」が10店までを選出し、1人以上からおすすめされ、かつ、承諾した店を掲載する流れとなっています。

掲載店

先のルールから選出された店をジャンル別に分けると以下のようになっています。

合計 560店

  • フレンチ・イノベーティヴ 104店
  • 居酒屋・ワインバー・カフェ・その他 75店
  • 和食・その他 70店
  • イタリアン 60店
  • 日本料理 56店
  • 中国料理 54店
  • 鮨 43店
  • ラーメン・カレー 40店
  • 焼肉・ステーキ 31店
  • 各国料理 27店

「フレンチ・イノベーティヴ」がとても多いように感じられます。

しかし、「和食・その他」「日本料理」「鮨」は同じジャンルであると見做し、この3つを合計してみると201店になります。これと比べれば「フレンチ・イノベーティヴ」はそこまで多いとは言えないでしょう。

また、数は少ないながらも、ラーメンやスイーツも選出されています。

注目点

掲載店をシェフが選出したというだけでも、十分に特徴がありますが、さらに注目したいのは以下の点です。

  • おすすめシェフ & Pick up Voice
  • おすすめシェフの声
  • トップシェフ100人 & オススメしている店
  • 編集部が直接取材

おすすめシェフ & Pick up Voice

おすすめ6人以上の店は「今シェフが最も注目する11店」として、カラーで紹介されています。店の内観や料理の写真が掲載されているのも、こちらだけです。

このページの「おすすめシェフ」ではその店をおすすめしたシェフ全員の名前が掲載されており、「Pick up Voice」ではおすすめしたシェフの中から3人のコメントが紹介されています。

おすすめシェフの声

おすすめ5人以下の店に関しては「おすすめシェフの声」という枠で、おすすめしたシェフ全員のコメントが掲載されています。最大で5人ものシェフのコメントが載せられているので、非常に読み応えがあるでしょう。

知っているシェフが選出した店や知っている店に寄せられたコメントを読むのは楽しいと思います。これだけたくさんのシェフのコメントを読むことができるグルメ本が、これまでにあったでしょうか。

トップシェフ100人 & オススメしている店

本の最後にはおすすめを選出した「トップシェフ」100人全てのプロフィールと顔写真が紹介されています。そこには、それぞれがおすすめした「オススメしている店」も全て記載されています。

どのシェフがどの店を選んだのか、はっきりと分かるので、非常に透明性が高いです。

編集部が直接取材

「トップシェフ」に機械的にアンケートをとったのではなく、編集部が全ての「トップシェフ」に直接会って取材しているのは、非常に真摯でしょう。

この本ではシェフのコメントが最も重要となっているだけに、編集部が直に話を聞き出してまとめた方が、よりよい内容に仕上がるはずです。

「トップシェフ」の分布

店の選出方法は、「トップシェフ」に委ねた間接投票となっています。それだけに、「トップシェフ」が大きな役割を担いますが、どのような分布となっているのでしょうか。

集計したので、それぞれみていきます。

ジャンル

「トップシェフ」100人のジャンルは以下の通りです。

  • フレンチ・イノベーティヴ 25人
  • イタリアン 17人
  • 日本料理 12人
  • 中国料理 10人
  • 鮨 10人
  • 和食・その他 9人
  • 各国料理 8人
  • 居酒屋・ワインバー・カフェ・その他 5人
  • 焼肉・ステーキ 4人
  • ラーメン・カレー 0人

「フレンチ・イノベーティヴ」「イタリアン」が合わせて42人、「日本料理」「鮨」「和食・その他」が合わせて31人と、「トップシェフ」の7割以上を占めます。

日本料理、フレンチ、イタリアンと並んで大きなジャンルである中国料理が少ないように感じられます。

ただ、「トップシェフ」の選定基準「世界レベルで評価の高い」を鑑みると、「中国料理」が少なくなり、「日本料理」「フレンチ・イノベーティヴ」が多くなるのも仕方がないところです。

年代

年代は3つの世代に分けて、バランスを保ったと記載されています。実際に集計してみると以下のようになっています。

2017年末の年齢

  • 0歳〜35歳(1982年生〜) 6人
  • 36歳〜49歳(1968年生~1981年生) 62人
  • 50歳~(〜1967年生) 32人

バランスを配慮したとありますが、やはり脂がのっている36歳から49歳が最も多く、全体の6割を占めています。35歳以下は6人しかいません。もしもこの世代ががもっと多ければ、結果はだいぶ違ったものになっていたのではないでしょうか。

当然と言えば当然ですが、「トップシェフ」は「シェフ」でなければなりません。従って「RED U-35」で勝ち進むような実力がある若手であっても、スーシェフやシェフ・ド・パルティエでは「トップシェフ」として選ばれないのは残念です。

おすすめ店の数

「トップシェフ」はいくつおすすめ店を選んだのでしょうか。以下のように分布しています。

  • 1~3店 0人
  • 4店 2人
  • 5店 1人
  • 6店 4人
  • 7店 1人
  • 8店 2人
  • 9店 10人
  • 10店 80人

「トップシェフ」であれば選びたい店がたくさんあるだろうから、ほぼ全員が10店を選んだのかと思ったらそうでもありません。最も少ない場合では4店となっています。

おすすめに値する店が10にも満たないのか、もしくは、あまり他の店には行っていないから挙げられないのか、その理由を知りたいところです。

男女

「トップシェフ」の男女の別は以下の通り。

  • 男性 96人
  • 女 4人

製菓ではまだしも、料理では特に女性が少ないだけに、男性に偏ったこの人数比は致し方ないところでしょう。

気になるところ

とても素晴らしい試みを行った本ですが、以下の通り、いくつか気になるところがあります。

  • 「トップシェフ」の選出基準
  • 親しい店
  • レストラン以外
  • ホテルのレストラン

「トップシェフ」の選出基準

掲載店の選出方法は、「トップシェフ」に完全に委ねた間接投票となっているので、選ばれる「トップシェフ」によって、掲載される店は大きく変わってきます。

「世界レベルで評価の高い」となっているので、「トップシェフ」のジャンルがある程度偏ってしまうのは仕方ありません。ただ、この「世界レベルで評価の高い」という基準は曖昧であるように思います。

「日本を代表する」であればまだ分かり易いですが、「世界レベルで評価の高い」となると、日本国内で知られているくらいでは対象とならないはずです。

国際料理コンクールで入賞していればよいのか、世界で知られるアワードにノミネートされていればよいのか、それとも、有名な海外シェフとコラボレーションした実績があればよいのか、西ヨーロッパやニューヨークの一流店でシェフ経験があればよいのかなど、何かしらの基準が分かるとよさそうです。

親しい店

「トップシェフ」が店を選ぶことが最大の魅力です。コメントを読むと、どの「トップシェフ」も、おすすめした店のシェフや料理のことをよく知っており、愛情に溢れる言葉が並べられています。

ただ、おすすめする以上は当然のことながら知っている店を選出します。シェフ、それもオーナーシェフとなると多忙を極めるものです。週に一度外食できるかどうかというところで、常に新規店に訪れるのは、そう簡単にできることではなく、多くのシェフはそれなりに親しい店に訪れている印象を受けます。

「利害関係のない客観的な選択をお願い」したとあるので、利害関係のある店は選んでいないはずですが、親しい店を選んでしまうのはあることでしょう。

これを回避する方法としては、例えば、来年の選出では(次年度版も期待しています)、今年の選出店は半分までしか選べないなどすれば、流動性は高まるかも知れません。

また、おすすめできる店の数を増やして、その代わりに、1人からのおすすめではなく、2人や3人以上からのおすすめがあった場合に掲載するのでもよさそうです。

レストラン以外

掲載店には、パティスリー、ラーメン、バー、チェーン展開している店も含まれていますが、ベストレストランと銘打っているだけに、少し違和感があります。

もちろん、日本のパティシエのレベルは非常に高いですし、ラーメンは国民的に支持されている食べ物でしょう。バーはお酒の奥深さを学べるところであり、チェーン展開している店はコストパフォーマンスが素晴らしいです。

ただ、この本は「トップシェフが好きな意外な店」をコンセプトにしているのではなく、「トップシェフに選ばれしベストレストラン」をコンセプトにしているはず(だと私は考えています)なので、おすすめする店の方向性は決めておくべきだと感じます。

それなりのファインダイニングを選出していればよいですが、そうではなくとも、最低でも料理をメインとする業態を選出するのがよいのではないでしょうか。というのは、物販となるパティスリー、カクテルなどを売りとするバー、いつでもふらりと食べに行けるラーメンなどは、レストランと明らかに性格が異なると思うからです。

私がそう主張しているのは、ただ単にレストラン以外を排除したいからではありません。パティスリー、バー、ラーメンなどについては、同じコンセプトで、それぞれの本を出版すれば面白いのではないかと期待しているのです。

ホテルのレストラン

先にレストランだけを選出するのがよいのではないかと述べましたが、同じレストランでも街場のレストランとホテルのレストランはかなり性格が異なるものです。互いに人材交流もそう多くありません。

ホテルの「トップシェフ」には、ウェスティンホテル東京「龍天門」陳啓明氏だけが選ばれています。

浜田統之氏の「星のや東京」は旅館であり、高瀬健一氏の「カントニーズ 燕 ケン タカセ」は東京ステーションホテル地下1階にあるものの、東京ステーションの直営店ではありません。

こういった状況で、ホテルのレストランは以下が選ばれています。「タワーズバー ベロビスト」はレストランではありませんが、一応記載しておきます。

  • グランド ハイアット 東京「チャイナルーム」
  • ザ・キャピトルホテル 東急「ORIGAMI」
  • ザ・リッツ・カールトン東京「アジュール フォーティーファイブ」
  • セルリアンタワー東急ホテル「タワーズバー ベロビスト」
  • ハイアット リージェンシー 東京「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」
  • パーク ハイアット 東京「梢」

ホテルのフレンチでも世界的な料理コンクールで入賞しているシェフがいます。そういったシェフも「トップシェフ」に選ばれると、もう少しホテルレストランも入ってくるのではないでしょうか。

「トップシェフ」の考え

このように述べてきましたが、「トップシェフ」はどのように考えているのでしょうか。

全体で3位、8人からおすすめに選出された「フロリレージュ」オーナーシェフであり、「トップシェフ」にも選ばれた川手寛康氏は、「自分にないものを持っており、尊敬できる料理人の店を選出した。たくさんあって、店を選ぶのが大変であった」と自身が選出した店について説明します。加えて「今後のチャンスが広がるように、同じくらいのおすすめであれば、より若い世代を選んだ」と補足します。

それぞれの「トップシェフ」がどのような観点からおすすめを選んだのかも非常に興味深いところですし、本の重要な軸となるはずです。従って、「トップシェフ」の紹介では、おすすめ店を選んだ理由も掲載されているとよいかも知れません。

新しい食の価値観

「100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京 シェフ推し」に関して、先の川手氏は「料理人が店を選ぶという画期的な本」、ヒトサラ編集長の小西克博氏は「100人ものトップシェフによるキュレーション」であると話します。

以前まで料理人は裏方に徹することが普通でしたが、今では料理人こそがその店の顔とならなければならず、プロモーションを行う際にはとても重要な役割を担うようになっています。そして今度は、料理人がキュレーターを担い、店を紹介する時代となったのです。

少し気になるところも述べましたが、私は以前から述べているように、食には正解がなく、それ故に、様々な食の評価があってしかるべきであると考えているだけに、シェフが店を選ぶという、新しい食の価値観を提供する「100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京 シェフ推し」には非常に期待しており、これからも引き続き出版してもらいたいと思っています。

ただ、唯一心配しているのは、100人ものこだわりの塊のような「トップシェフ」から話を聞き出す編集部の負担であったりしますが。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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