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SMの女王様から孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。官能的かつ不気味なヒロイン役で頭を悩ましたことは?

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

 本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。

 これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。

「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影 
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影 

小野田さんは「絶対にわたしじゃん」と思ったんです

 前回(第十回はこちら)は、2011年に公開された「どんずまり便器」の小栗はるひ監督と「百合子、ダスヴィダーニヤ」の浜野佐知監督との出会いは大きかったと語った菜 葉 菜。

 それから8年後、浜野佐知監督とは「雪子さんの足音」で再び顔を合わせることになる。

 木村紅美の同名原作を基にした本作は、月光荘という下宿が舞台。

 大家の老嬢、雪子さんと、下宿人のOL、小野田さんが住むこの家に大学生の湯浅薫が下宿することに。

 二人の年上の女性から過剰な善意に耐え切れなくなった薫の心情が描かれる。

 この中で、菜 葉 菜は、地味と思いきやエロティック、もうなんとも形容しがたい小野田さんを演じている。

「うぬぼれていると思われそうなのですが(笑)、木村紅美さんの原作を読んだとき、『小野田さん、絶対にわたしじゃん』と思ったんです。

 小野田さんはひと言で表すと、メンヘラでちょっと痛い女子ですよね。

 容姿を含めて自分という人間に自信がない。男性からみて、自分はさほど魅力的に映らないことはわかっている。

 でも、そういう自信のなさがありながら、一度心を決めると豹変するというか。

 大胆に攻めに出るようなところがあって。

 作品をみていただければわかるように、大学生の薫も彼女にはどう対応していいかわからなくて混乱しまくる。

 『めんどな女性に絡まれたな』みたいな感じですよね(苦笑)。

 わたしはメンヘラではないですけど、彼女の生き方の不器用さとか、何をやっても裏目に出て報われないところとか、ひじょうによくわかるところがある。

 ほんとうは日向にいきたいけど、気づけばいつも日陰の存在になっている彼女にすごくシンパシーを抱きました。

 だから、絶対にわたしが小野田さんを演じたら、『似合う』と思ったんです。

 ふだんはしていないですけど、周囲から『似合う』と言われる、メガネをかける役でもあるし(笑)。

 なので、小野田さんめっちゃいいと思っていたので、出演が決まったときはめっちゃうれしかったです」

「雪子さんの足音」より (C)2019旦々舎
「雪子さんの足音」より (C)2019旦々舎

小野田さんは微妙なラインでリアリティを求められる役で悩みました

 ただ、実際に演じるとなるとかなりの難役だったという。

「ちょっとやり過ぎてしまうと、ちょっと現実離れしてしまうというか。

 異様な人ではあるんですけど(苦笑)、異様になりすぎてちょっとなにかのキャラクターみたいになってしまう。

 現実の社会にいる人間に見えなくなってしまうんですよね。

 ちょっと匙加減を間違うと、人間味がなくなってしまう。

 そうなるとなにかお芝居も、芝居くさくなってしまうというか。

 たとえばコミカルなシーンなら、べたべたなコメディになりすぎてしまう。人間心理の中で恐怖を感じる場面も、過剰な演出のされたホラー映画っぽくなってしまう。

 小野田さんは微妙なラインでリアリティを求められる役で、クランクインするまで悩んでいました」

浜田監督が「小野田さんだ」とおっしゃってくれてひと安心

 ただ、悩みながらも初日でなにかつかんだところがあったそうだ。

「『百合子、ダスヴィダーニヤ』のときと同様に、浜野監督は『わたしはあなたを信頼しているから大丈夫』といった感じで。

 小野田さんをどう演じるかはわたしに任されていた。だから責任重大。

 それで、初日の一発目の撮影が、寛一郎さんが演じられた大学生の湯浅薫に小野田さんが詰め寄るシーンだったんです。

 小野田さんの根底にある得体のしれない不気味さが出るところですけど……。

 このシーンをとくに綿密なリハーサルをすることなくやることになったんです。

 わたしとしてはここでの小野田さんの不気味さはどれぐらいの芝居の密度でいけばいいのか測りかねているわけです。まだ1発目ですから。もちろん、猫背にしようかなとか、こういう話し方かかなとか事前に考えてはいた。ただ、答えは出ていないから不安なわけです。

 でも、はじまったからにはとにかくやってみるしかない。やってみて浜田監督に判断してもらうしかない。

 それでスタートがかかって、演じたら浜田監督からOKが出て、『小野田さんだ』とおっしゃってくれた。

 これで一安心して、『こういう感じでやっていけばいいんだな』と思いました。

 それから、湯浅薫を演じた寛一郎さんにこう言われたんです。『小野田さんマジで不気味で怖かった。ほんとうに菜葉菜さんじゃないみたいで、ほんとうに怖かったんだけど」と。ほんとうに気持ち悪かったみたいでドン引きしていた(苦笑)。

 それも、『やった』と思って、この感じでやっていけばいいんだなと思いました」

(※第十二回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第七回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第八回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第九回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第十回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist

<女優 菜 葉 菜 特集>

「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)

「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)

「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)

「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)

「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)

「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)

「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)

「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)

「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)

「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)

「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)

「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)

以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!

開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)

横浜・シネマノヴェチェント

<トークイベント決定>

10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」

『ワタシの中の彼女』

ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督

14:30~「ハッピーエンド」

ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督

詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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