毒母から、不倫妻、孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。実在の女性、湯浅芳子を演じて初めて体験したこと
SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。
「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。
いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。
バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。
映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。
横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。
本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。
これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。
浜野監督からの熱い思いを受け継ぐ
前回(第九回はこちら)、「百合子、ダスヴィダーニャ」の出演の経緯を語ってくれた菜葉菜。
浜野監督からの熱い思いを受けて、湯浅芳子を演じることになったが、喜んだのは一瞬で、すぐにプレッシャーを感じたという。
「出演が決まって、うれしかったですけど、喜んだのは一瞬で、次には気を引き締めていましたね。
というのも、この前お話ししたように、浜野監督が長年温めてきた企画で。
お会いしてお話しをして浜野監督から湯浅芳子のことを彼女の物語を伝えたい気持ちがひしひしと伝わってきました。
その思いをわたしは引き継いで、湯浅芳子を演じなければならない。それはプレッシャーでしたね。
心して取り組まないとと思いました」
役作りはどのように進めていったのだろうか?
浜野監督が『わたしは信じているから大丈夫』と背中を押してくれた
「まず、実際にいらっしゃった方なので、史実をもとに湯浅芳子という人物を掘り下げていかないとと思いました。
それで自分のできる範囲で、いろいろと調べて理解を深めようと思いました。
でも、調べても調べても、浜野監督の湯浅芳子への深い理解には追いつけていない気がして……。
そう不安を覚えると、『自分は演じられるのか』とさらにプレッシャーがかかってくる。
もうプレッシャーに押しつぶされそうで……。
で、浜野監督と食事をご一緒することになって、そこで思わずいってしまったんです。『すごいプレッシャーを感じていて、どう演じればいいかすごく悩んでいます』と。
そうしたら、浜野監督が『菜葉菜さんのまんま、思うままやってくれたらいいから。わたしはそれを信頼しています。大丈夫』とおっしゃってくれたんです。
湯浅芳子はこういう人で、こんな性格で、こんな人柄でとか説明するわけでも、こんな感じで演じたらとか、こんな感じて演じてほしいとか、言うわけでもない。『わたしは信じているから大丈夫』とわたしに湯浅芳子を任せてくださった。
その一言で、勇気をいただいて、すごく気持ちが楽になりました。『まずは失敗を恐れずに自分が感じたまま演じればいいんだ』とふっきれました」
最後は迷いなく演じることができました
そこからプレッシャーから解き放たれ、あまり細かいことにとらわれず、『湯浅芳子』という人物と向き合い、自分が感じたことをそのまま出して演じようと思考が変わったという。
「浜野監督の一言でプレッシャーが解けて、いい意味で自然体で現場に立つことができました。
とはいっても、迷うことはどこかで出てくる。
ただ、そのときは、素直に浜野監督に質問をすると、的確な助言をくださる。
なので、最後は迷いなく演じることができました」
湯浅芳子を演じて役者として初めて体験したこと
この役ではこのような体験もしたという。
「よく役者さんが『憑依する』というじゃないですか。その役と一体化してしまう。その役になりきってしまう。
残念ながら、わたしはそういうタイプの役者ではない。
もちろん自身と考え方や性格が似ている役はある。でも、それでもやはり距離があって、完全なリンクを感じることはない。
ただ、湯浅芳子という役に関しては違いました。
これが『憑依した』というのかわからないんですけど、湯浅芳子という人物にわたしが入り込んで一体となっている感覚がありました。
事前にお墓参りをしたり、彼女の人生を調べられるだけ調べたりしたからか、わからないですけど、わたしではなくて、『湯浅芳子』になっている感覚が現場でありました。
だから、演じている感覚があまりないというか。
たとえば、もう芳子の心の内が痛いほどわかって感じているから、このセリフをいうときは、こんな心境でいるとわかる。
すると、セリフも自然にすっと出てくる。
ほんとうに自然に湯浅芳子として立つことができていた。
後にも先にも、こういう感覚になった役はないですね」
きれいごとで済ませそうなことを、きれいごとで済ませない
改めて、2011年に公開された小栗監督の「どんずまり便器」と浜野監督の「百合子、ダスヴィダーニャ」との出会いは大きかったという。
「役者としてひとつふっきれて、『こういう役を演じてみたい』と思っていたら、ほんとうに出合うことができた。
そんなうまいことなんて、そうそうあるわけないじゃないですか。だから、自分は恵まれているなと思います。
奇跡といっていいこの2作との運命的な出合いに感謝しています。
あと、小栗はるひ監督と浜野佐知監督と出会えたことも大きかったです。
タイプは違いますけど、どちらの監督も、女性を本質的なところで嘘偽りなく描こうとなさっている。
女性が隠れ蓑にさせられて、きれいごとで済ませそうなことを、きれいごとで済ませないで描こうとしている。
そのお二人の社会に対する眼差しや世界との向かい方は、見習うべきところがいっぱいある。
そういうことも含めて、お二人のことは尊敬していますし、それからおこがましいんですけど、同志と思っています」
(※第十一回に続く)
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第七回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第八回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第九回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】
<女優 菜 葉 菜 特集>
「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)
「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)
「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)
「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)
「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)
「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)
「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)
「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)
「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)
「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)
「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)
「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)
以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!
開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)
横浜・シネマノヴェチェント
<トークイベント決定>
10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」
『ワタシの中の彼女』
ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督
14:30~「ハッピーエンド」
ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督
詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home