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SMの女王様から孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。ズタ袋をかぶった美脚の怪物役は恋する女の子の気持ちで

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

 本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。

 これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。

「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影

気になるあのズタ袋の中はどうなっている?

 前回(第三回はこちら)は、「鋼-はがね-」の撮影現場の舞台裏を明かしてくれた菜 葉 菜。

 もう少しだけ同作の話を続けたい。

 ズタ袋をかぶってほぼ全力疾走に近い形で走ったり、柄本佑が演じる関口を脚だけで誘惑したり……。袋をかぶったままでさまざまなアクションをみせてくれるが、あの袋の中はどんなことになっていたのだろうか?

「中は、まずなにかあったら大変なので頭を防御するためにヘルメットをかぶっていました。

 あと、手は前で肘をかかえるような形で固定していましたね、確か。

 で、あのズタ袋は2枚かぶっていて。生地が粗いので一応、うっすらと外が見える感じでした。

 まったく見えないことではなかったです。それでも視界はかなり限られていましたね。

 オーディションのときから、簡易的なズタ袋をかぶせられていたので、なんとなくこういう中でお芝居をしないといけないことは想像できていました。

 ただ、実際に撮影が始まってやってみるとかなり違ってくる。

 まず、すでにお話ししたように撮影する場所は川や工場など、どこもひどく寒かった。

 ただ、袋の中は演じているとだんだんと熱気を帯びてきて、蒸し風呂のようになってくる。

 あと、麻ってちょっとすれると毛羽立って、なんか埃っぽいんですよ。

 息をするたびに走るたびになんか埃っぽいもの吸い込む感じになって、余計に息苦しくなる。

 変に体力を奪われる感じで、めちゃくちゃきつかったです。

 だから、クランクインの前は、『なんでわたしはアスリートを目指しているわけではないのに、こんなアスリート並みのトレーニングを1カ月もしなければならないのか』と思ったわけですけど、インをして納得でした(苦笑)。『あのハードトレーニングは、このためだったんだ』と思いました(苦笑)」

「鋼-はがね-」(※オムニバス『コワイ女』より) (C)2006「コワイ女」製作委員会 
「鋼-はがね-」(※オムニバス『コワイ女』より) (C)2006「コワイ女」製作委員会 

あまり化け物と考えず、普通に恋している女の子として演じていました

 鋼は、ホラークイーンと呼べる恐怖を感じさせつつ、脚だけながらエロティックさも漂わす。

 なにか表現する上で留意した点などはあったのだろうか?

「とにかくいまだかつて存在したことのないようなキャラクターじゃないですか。

 だから、もうそこは鈴木卓爾監督を信じてついていった感じでした。

 足で文字を書くとか、ちょっとふつうは考えつかないですよね。

 やることがほぼ初めてのことだらけで。足で文字を書くとか、ふつうはないじゃないですか(笑)。

 なので、常に卓爾監督と試行錯誤してどうすればベストなのかを探していった感じでした。

 でも、通常ではないことにチャレンジできたのはシンプルに面白かったです。

 そもそも鋼は人間なのか、それとも化け物なのかわからないところがある。

 そして、鋼は感情を口にはしないし、袋をかぶっているから表情で見せることもない。

 ある意味、その存在のすべてがわかりかねるところがある。

 『どうしようか?』と当然考えるわけですけど、そのときに、卓爾監督が『鋼は、感情はすごく女の子。でも、かといって完全な人間ではない。そのバランスは難しんだけど、でも、人間っぽい女の子の部分をちゃんと表現してほしい』と言われたんです。

 ちょっとすすり泣いたり、声が入るところがありますけど、そこもちゃんと人間の感情が感じられるように表現してほしいと言われて。

 だから、わたしとしてはあまり化け物と考えていなくて、わりと普通に柄本佑さんが演じた関口に恋している女の子として演じていましたね。

 で、一方的に関口に鋼は愛憎を抱くようになるんですけど、そのとき女の子の部分が垣間見える瞬間がいくつかある。

 そこがエロスにつながっているところがある。これはもう卓爾監督の卓越した演出のたまもので。

 わたしもみたときに思いました、『化け物で怖いんだけど、なんとなくエロティックになってる』と。

 演じているときは、どうみえるのかわからなかったので、びっくりしましたね」

若いときに、こういうことを体験できたことはわたしにとって大きかった

 では、改めて「鋼-はがね-」は自身にとってどんな作品になっているだろうか?

「いい意味で、『鋼-はがね-』の現場は、わたしに役者としての自信をつけさせてくれた気がします。

 当時、デビューしてまだ3~4年ぐらい。まだまだ新人で駆け出しだったわたしにとって、この現場はひとつの大きな試練でした。

 それをどうにかこうにか乗り越えることができた。

 そして、以前、お話ししたとおり、その後、『あの撮影をくぐりぬけたから、もうなにがきても怖くない』という、どんな現場であっても『大丈夫』と飛び込むことができる大きな自信をくれました。

 まだ若いときに、こういうことを体験できたことはわたしにとって大きかったです」

 いまだカルト的な人気があることも素直に「うれしい」という。

「頑張ってよかったなと思います。

 繰り返しの話になるように、脚だけの出演なんですけどね(笑)。

 ほんとうに、いまだにたまに言われることがあるんです。どなたも何かでみて、わたしに会ったときに『あの作品は面白かったですよね』と。

 それぐらいみた人の中には強烈な印象が残るみたいで(苦笑)、やってよかったと思います。

 あと、公開したときも話題になって、スピンオフ作品『鋼ちゃん』も生まれてたんですよね。

 当時、キャラクターとしてちょっとブレイクした。これもうれしかったです。

 それと『鋼-はがね-』は鈴木卓爾監督でしたけど、スピンオフは井口昇監督が手掛けられて。

 ここでの出会いが、井口監督の『片腕マシンガール』への出演につながっていく。

 そういうご縁も『鋼-はがね-』はいただいた作品でした」

(※第五回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist

<女優 菜 葉 菜 特集>

「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)

「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)

「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)

「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)

「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)

「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)

「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)

「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)

「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)

「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)

「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)

「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)

以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!

開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)

横浜・シネマノヴェチェント

<トークイベント決定>

9月16日(土)14:00~「赤い雪」

ゲスト予定/菜葉菜、永瀬正敏、甲斐さやか監督

9月17日(日)12:30~「モルエラニの霧の中」

ゲスト予定/菜葉菜、菅田俊(「夏の章」出演)、坪川拓史監督

9月18日(月・祝)14:00~「夕方のおともだち」

ゲスト予定/菜葉菜、村上淳、廣木隆一監督

9月23日(土・祝)11:30~「夜を走る」

ゲスト予定/菜葉菜、足立智充、佐向大監督

14:30~「どんづまり便器」

ゲスト予定/菜葉菜、小栗はるひ監督

9月24日(日)11:30~「百合子、ダスヴィダーニヤ」

ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)

14:00~「雪子さんの足音」

ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)

9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」

ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督

10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」

『ワタシの中の彼女』

ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督

14:30~「ハッピーエンド」

ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督

詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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