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兵士ら多数が死亡…金正恩父娘向け「コメディ」の笑えない場面

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮軍の降下訓練で兵士たちがからまっているように見える(朝鮮中央テレビ)

ウクライナ検事総長室によれば、ロシア軍が昨年12月末から2月末にかけて使用した北朝鮮製弾道ミサイル約50発のうち、半分ほどが空中で爆発し意図した目標に到達できなかったという。

北朝鮮軍の「ハリボテぶり」を示す情報はほかにも枚挙にいとまがないが、甚だしくは兵士の人命被害さえ生んでいる例もある。

金正恩総書記は3月15日、軍の航空陸戦兵部隊(空挺部隊)の訓練を指導した。北朝鮮メディアが公開した写真からは、名前が「ジュエ」とされる娘が同行したことが確認できる。

この訓練で、兵士に多数の死傷者が出たとの情報があることは、以前、本欄でも指摘したとおりだ。

(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道

韓国SBS放送で北朝鮮問題を専門とするアン・ジョンシク記者は番組で、朝鮮中央テレビの映像を示しながら、その場面を次のように解説した。

「風が強く吹いており、軍人たちが輸送機から飛び降りるやいなや、パラシュートがほぼ水平方向に飛んでいくのを見ることができます。このように強風の中で降下したため、所々、パラシュートが絡まっているような様子が見えます」

軍がこうした悪条件で訓練を強行したのは、ひとえに、金正恩親子が視察する「重要行事」だったからだろう。だが、こうまでして行った訓練は皮肉にも、北朝鮮軍の「現実離れ」を示す結果につながったようだ。

韓国の軍事専門家、イ・イルウ自主国防ネットワーク事務局長は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、同訓練について次のように解説している。

「兵士の装備や戦術はコメディでした。空挺作戦は敵後方作戦なので、パラシュートのほかにも個人の携帯軍装品目が多くならざるを得ません。ところが、北朝鮮の宣伝写真に写っている将兵のうち、侵入作戦を遂行するために必要なリュックサックや追加物資、さらには遠距離通信のための通信装備を携帯した人は1人もいませんでした。

敵の後方で孤立して作戦を行う特殊部隊は、味方の戦車や航空機の火力支援を受けにくいため、1つの分隊・チームに小銃はもちろん、軽機関銃や狙撃銃、榴弾発射機、対戦車兵器など複数の火器が一緒に編成される必要がありますが、写真の中に登場した軍人はすべて88式小銃だけを持っていました。一部の隊員がGP25 40mm榴弾発射機を銃身の下に装着した様子が識別できましたが、面白いのは榴弾発射機を携帯した隊員も一般の小銃手と同じ戦術ベストを着用し、予備の榴弾用のポーチをたった1個も持っていなかったことです」

北朝鮮軍が、こうした「常識」をまるで理解していないとは思えない。実際には必要な知識と戦術を備えていながら、対外向けの宣伝用訓練では不要と判断して省いたものと思われる。

ということはつまり、決死の覚悟で強行された訓練はやはり「コメディ(ショー)」だったのだ。全員無事にそれを遂行したならむしろ、北朝鮮軍の実力を証明したのかもしれないが、結果は無残なものに終わってしまったのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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