Yahoo!ニュース

スーパーの買い物カゴの戻し方 中国で最も感じた日本とのマナーの違いだったが……

中島恵ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

日本のSNS上で「スーパーの買い物カゴの戻し方」が話題になっているという。一部の顧客が、会計後に買い物カゴを元の位置に戻す際、取っ手が交差していたり、カゴの上段が斜めになっていたりして重ねられず、次の人が使いづらい、乱れているケースが増えており、そうしたマナー違反について店員が投稿しているという内容だ。

私はこの投稿と、スーパーやコンビニ店員歴のある投稿者に関する記事を読んで、自分が中国で経験し、この問題について痛感したことがあったことを思い出した。それは、中国ではカゴ(中国では主に買い物カート)を元の位置に戻さない人のほうが圧倒的に多いということだ。

そのため、日本のSNS上でこの問題が議論になること自体、日本は中国とは大きく異なること、日本社会があまりよくない方向に変化していることを感じた。

中国の買い物カゴ置き場は……

私は中国に滞在中、取材を兼ねて、必ず複数のスーパーに行くようにしている。どんな商品が売られているか、店員の様子はどうかなど、そこから中国社会の変化やトレンドが垣間見られるからだ。

中国でも買い物カゴは入り口に置かれており、そこから取って店内に入っていくシステムだが、中国では大きなスーパーではカゴがなく、日本の外資系スーパーにあるような、大きな買い物カートのみの場合もある。

しかし、その買い物カート置き場は、多くの場合、めちゃめちゃな状態なのだ。だいたい同じ場所に置かれてはいるものの、カートの向きは一定ではなく、使ったあと右向きや左向きなど、適当に放置されている。日本のように同じ方向に重ねられているわけではない。

そのため、次に使う人はあちこちに置かれたカートの中からどれかを取っていくしかない。また、幼い子どもが土足で買い物カゴに乗るため、土がついていたり、カゴの中に野菜の葉が残っていたりした。最近はだいぶよくなってきており、都市部であればあるほど、きちんと置く人が増えている傾向があるが、これまではそういうことが常態化していた。

自分が使ったあと、2~3のカゴをきちんと重ねて置いても、何十個もあるカゴの全部を直すわけではないので、結局は乱れたままで、買い物カートは整頓されず、また次に来た人が適当に置いていく。たまに店員が整理しているのを見かけるが、使う人が多いので、間に合わないのだ。

日本で増えてきた迷惑行為

この問題について、以前、中国人に聞いてみたことがあるが、多くの人はそれが問題であるとは思っておらず、私の質問に「日本人らしい細かい質問」「そういうことはあまり気にしていなかった」と答えた。

次に使う人が使いにくいこと、ささいなことだけれど公共の場では大事なマナー、社会のルールであること、という認識を持っている人は少なく、私はいつも中国のスーパーに行くたびに、日本との違いはここだ、と思った。

日本でも徐々にマナーが悪い人が増えているとはいえ、こういうところはきちんとしている、と感じていた。また、自分が日本に帰国してスーパーに行き、日本の整然とした買い物カゴ置き場を見るたびに、ささいなところに“違い”が現れる、とも感じたものだった。

しかし、最近、日本でも買い物カゴをきちんと元に戻さない人が増えていて、店員や次に使う人が困っていること、他人の迷惑を考えない人が増えていることを知った。

自宅の近所のスーパーではまだあまり感じないが、今回、店員によるSNSの投稿に多くの読者が反応を示したのも、彼らが日本でもマナー違反をする人、身勝手な人が増えてきたことを認識しており、日本の劣化や危機感を覚えているからだろう。こうした議論から、自らの行動を顧みて、周囲の人のことも考えられる人が増えればいいと思う。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

中島恵の最近の記事