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SMの女王様から孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。ラブコメのヒロイン役に始めは「わたしで大丈夫?」

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

 本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。

 これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。

「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催される菜 葉 菜   筆者撮影

わたし、ラブコメのイメージないと思うんですけど大丈夫ですか?

 前回(第四回はこちら)まで、俳優としてのキャリアが始まったばかりのころの2006年公開「鋼-はがね-」の話が続いたが、その前年の2005年には「YUMENO」で映画初主演。このころから出演作が増え、「インディーズ映画の女王」と称されるようにもなる。

 そういうだ中にある2008年に公開されたのが「ハッピーエンド」だ。

 この映画は、ある意味、当時の菜 葉 菜の新たな一面をみせてくれた1作であり、今振り返るといい意味でイメージを覆す1作だったかもしれない。

「まあ、いまもあまりかわらないんですけど(苦笑)、キャリアの初期から、どこか陰のある役が多くて。出演作を見てもらえればわかると思うんですけど、作品自体がかなりヘヴィーな内容の映画が多い。

 そのことに対して、特に不満はありませんでした。

 まだ俳優としてのキャリアを踏み出したばかりでしたから、どの役も初めての挑戦みたいな感じで新鮮。なにを演じても楽しかったし、いい経験と思えました。

 だから、ダークな役柄が多いなとは気づいていましたけど、もっと明るい子をやってみたいといった不満はなかったんです。

 ただ、ダークな役柄が続くことにほんの少しだけ違和感はあったんですよ。

 というのも、いまでいう陰キャの役柄が多かったわけですが、自分で言うのもなんですが、わたし自身はどちらかというと陽キャで。

 良く知る友人からは言われます。『本来の性格と違う役が多いよね』と。

 だから、ダークな役が多いのがちょっと不思議でした。『本来のわたし、どちらかというと明るいんですけど、自分は周りからどう見えているんだろう』って(笑)。

 そんなころで出合ったのが山田(篤宏)監督の『ハッピーエンド』で。

 まず、ラブコメディということに驚きました。『わたし、ラブコメのイメージないと思うんですけど大丈夫ですか?』と(笑)」

「ハッピーエンド」より  (C)2010山形国際ムービーフェスティバル運営委員会
「ハッピーエンド」より  (C)2010山形国際ムービーフェスティバル運営委員会

桃子はいま振り返ると初めて等身大で演じられた役だったかも

 演じた桃子は、映画オタクの女の子。だが、ラブコメだけは大嫌いで、ラブコメのような恋愛などありえないと、ラブコメを完全否定している。

 作品は、そんな彼女がラブコメ的なことに次々と巻き込まれていくことになる。

 つまりラブコメ映画で、ラブコメが大嫌いだけど、ラブコメ的な恋に落ちる女の子を演じている。

 この桃子という役について、菜 葉 菜はいま振り返ると初めて等身大で演じられた役だったかもしれないという。

「さきほど話したように、陰のある役が多かったのですが、わたし自身はわりと明るい性格で。

 ある意味、本来の自分とは性格的には逆の役を演じることが多かった。

 でも、桃子に関しては、わたし自身としてそこに立てばいいような感覚がありました。

 まず、ほんとうにありがたいことに山田監督が、出演が決まった段階ぐらいからわたしを想定してくださって、いわゆるあてがきをしてくれたんですよね。

 もともと山田監督がアメリカで映画を学んでいたこともあって、当時、ラブコメがブームになっていたこともあって、そういう作品を作ってみたい気持ちがあったみたいで。その中で、『ハッピーエンド』のオリジナルのストーリーが生まれたんですけど、桃子の人物像をわたしに寄せていってくださったところがあった。

 だから、けっこうわたし自身が反映されていて。

 たとえば桃子はラブコメ映画が大嫌い。『あんなハッピーエンドなんて信じられない』と毒づいている(苦笑)。

 当時のわたしもそうで、わりと内容が暗い映画を好んでみていたので、キラキラしているラブコメディは苦手でした。

 桃子はかわいげがなくて、ちょっとつんとしていますけど、当時のわたしもそうで、なんか周りに負けたくなくて、ちょっと突っ張っているところがあった(笑)。

 桃子といっしょで『ラブコメディのように恋愛があんなハッピーエンドで成就することなんてないでしょう』と、社会を斜めから見るようなひねくれた感じでした。キラキラした女の子になれないひがみですよね(苦笑)

 そういういろいろなところが『わかる』と思って、すごく桃子はいままでになく共通項のある女の子だなと感じましたし、めちゃめちゃわたしに近い女の子だなと思いました。

 だから、すごく無理なく役に向き合えたというか。すっと役に入っていけた記憶があります。

 ほんとうに素の自分に近い役で。等身大で演じた初めての役だったと思います」

(※第六回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist

<女優 菜 葉 菜 特集>

「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)

「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)

「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)

「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)

「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)

「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)

「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)

「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)

「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)

「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)

「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)

「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)

以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!

開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)

横浜・シネマノヴェチェント

<トークイベント決定>

9月16日(土)14:00~「赤い雪」

ゲスト予定/菜葉菜、永瀬正敏、甲斐さやか監督

9月17日(日)12:30~「モルエラニの霧の中」

ゲスト予定/菜葉菜、菅田俊(「夏の章」出演)、坪川拓史監督

9月18日(月・祝)14:00~「夕方のおともだち」

ゲスト予定/菜葉菜、村上淳、廣木隆一監督

9月23日(土・祝)11:30~「夜を走る」

ゲスト予定/菜葉菜、足立智充、佐向大監督

14:30~「どんづまり便器」

ゲスト予定/菜葉菜、小栗はるひ監督

9月24日(日)11:30~「百合子、ダスヴィダーニヤ」

ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)

14:00~「雪子さんの足音」

ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)

9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」

ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督

10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」

『ワタシの中の彼女』

ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督

14:30~「ハッピーエンド」

ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督

詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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