SMの女王様から毒母、孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。見た目にとらわれていた自分から脱却して
SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。
「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。
いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。
バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。
映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。
横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。
本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。
これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。
実は、眼鏡をかけていた方がかわいい??
前回(第六回はこちら)は2008年の主演作「ハッピーエンド」について振り返った。
次の作品の話に入る前にもうひとつ「ハッピーエンド」のエピソードを。
前回、この作品がきっかけで眼鏡の役が増えた話が出たが、眼鏡をめぐっては現場でこんなこともあったそうだ。
「『ハッピーエンド』を見ていただくとわかりますが、わたしが眼鏡をはずしたときに、長谷川朝晴さん演じる行きつけのビデオ屋の店長・黒田があまりのかわいさにびっくりするというシーンがあるじゃないですか。
あのシーン、実は現場でみんなから『あれ?眼鏡をかけていた方がかわいくない?』と言われたんですよ。ほんとうに失礼なんですけど(苦笑)。
まあ、それぐらい『わたしは眼鏡が似合う!』と受け止めることにしたので、許しますけどね」
ふだんは眼鏡はかけていないんです
でも、それほど眼鏡がしっくりときているのは確か。
似合うというか、日常的にかけている雰囲気がある。
でも、実は、ふだんは眼鏡はしていないのだという。
「ふだんはかけてないんです。だから、なんか似合うと言われるのは不思議です。
でも演じる身としては、ひとつ武器になりうるので、似合う顔でよかったと思っています(笑)」
デビューからしばらくの間は、見た目にとらわれていた
ここからは次の作品へ入るが、2008年の「ハッピーエンド」後も着実にキャリアを重ねて、様々な作品に出演。
2011年には映画デビュー10年を数えることになる。
この年に公開され、今回の特集でも上映される作品が2本ある。小栗はるひ監督の「どんずまり便器」と浜野佐知監督の「百合子、ダスヴィダーニャ」だ。
改めてこの両作品を振り返ると、菜 葉 菜が役者としてひとつ殻を打ち破ったような、ひじょうに重要な作品ではないかと思える。
本人にそのことを直接ぶつけてみると、確かにそのころ、ひとつふっきれたところがあったという。
「いまとなってはちょっと恥ずかしいのですが、デビューからしばらくの間は、見た目にとらわれていたところがあったといいますか。
自分が『美しい』とか、『きれい』とか、『かわいい』といわれるような女優ではないことは、自身がよくわかっているんです。
画面をみると、『なんでこんなわたしはブサイクなんだろう』と思うし、『ほかの子はみんなかわいく映っているのに、なんで自分はこんなひどい顔をしていのか』と愕然とする。
当時は容姿に関してものすごくコンプレックスを抱えていました。
それはどうにもできないことなのですが、まだ若かったころはあきらめきれない。
どうにかしてかわいく見せたい、美しく見せたい、みたいな意識が強くなって。お芝居で自分がいい映りになっているかすごく気にしてしまう。ルッキズムに毒されていた時期でした。いまはもう作品がよくなれば、自分がどう映ろうとどうでもいい、といった感じですけど。
とにかく当時は見た目を気にする自分がいた。
でも、そういう自分からぱっとふっきれた瞬間があったんです。
それは2010年の瀬々敬久監督の『ヘヴンズストーリー』の出演のときでした。
この作品に向き合ったときに、自分がどう見えるかどうかなんてどうでもよくなったというか。
瀬々監督から『うまく見せようとするな』といった指摘を受けて。
とにかく自分という人間をさらけ出して、役をまっとうしなければならないといった考えにかわりました。
逆を言うと、それぐらいの覚悟で挑まないと、演じ切れない、役者としてこの作品には太刀打ちできないと思ったんです。
自身の映りがどうかとか気にしているようでは、本物の役者にはなれないと思いました。
そこでふっきれた気がします。
そう気持ちがふっきれたら、役者をやる意欲もさらに加速したところがあって。
それまではあまりなかったんですけど、こういう作品に出演してみたいとか、こういう役にチャレンジしてみたいとか、自然と積極性も出てきたんですよね。
そのちょうど『もう自分の映りとかどうでもいい、自分をさらけ出してその役を生きてみたい』みたいな意欲にあふれたときに、出会ったのが、小栗はるひ監督の『どんずまり便器』でした。
ナルミという役は、いわゆる汚れ役で。容姿を気にしていたら、演じられない。
少し前の『かわいく映りたい』と言っていたわたしだったら、もしかしたらこのナルミ役は『やりたい』と思わなかったかもしれない。
ふっきれる前だったら、おそらくためらって一歩踏み出せたかわからない。
でも、ひとつふっきれた当時のわたしにとっては、最高に魅力的な役で。これ以上魅力的な役はありませんでした。
また、自分という人間をさらけ出して、はじめて演じ切ることができる役だと思いました。
脚本を読めば読むほど、ナルミというけっしてかわいくない、歪んだ愛情をもつ彼女を『絶対に演じたい』と思いました。
この思いを小栗監督にそのままぶつけました。
で、その思いを小栗監督が受け止めてくださって、ナルミを演じることになりました」
(※第八回に続く)
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】
<女優 菜 葉 菜 特集>
「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)
「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)
「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)
「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)
「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)
「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)
「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)
「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)
「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)
「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)
「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)
「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)
以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!
開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)
横浜・シネマノヴェチェント
<トークイベント決定>
9月23日(土・祝)11:30~「夜を走る」
ゲスト予定/菜葉菜、足立智充、佐向大監督
14:30~「どんづまり便器」
ゲスト予定/菜葉菜、小栗はるひ監督
9月24日(日)11:30~「百合子、ダスヴィダーニヤ」
ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)
14:00~「雪子さんの足音」
ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)
9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」
ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督
10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」
『ワタシの中の彼女』
ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督
14:30~「ハッピーエンド」
ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督
詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home