インスタ映えの先駆けとなったヒルトンが開催する料理コンテスト「F&Bマスターズ」における5つの注目点
ヒルトングループでも料理コンテスト
ヒルトン東京、ヒルトン東京お台場、ヒルトン東京ベイ、コンラッド東京など、ヒルトングループは食のトレンドを切り開いており、これまでに私も以下のような記事で紹介してきました。
大きな空間にいくつもの料飲エリアを作り出したり、ブッフェをホテルのメインコンテンツとして育て上げたり、インスタ映えをいち早く意識したりと、常にホテルグルメの最先端を走り、町場のグルメにも影響を与えてきたのです。
そして今、このヒルトングループで気になる動きがあります。
それは、料理コンテストに注力し始めたことです。
F&Bマスターズ
私は以下の通り、料理コンテストの記事を書いてきましたが、このヒルトングループで行われている「F&Bマスターズ」も注目するに値します。
ヒルトングループは「F&Bマスターズ」の決勝大会を、第1回目(2015年度)はヒルトン東京ベイで、第2回目(2016年度)はヒルトン東京お台場で行っており、この第三回目(2017年度)は再びヒルトン東京ベイで開催しました。
これまでの2回とは異なり、今回はテーマを設定し、外部からも審査員を加え、より本格的な料理コンテストになっています。
部門概要
では、「F&Bマスターズ」はどういった料理コンテストなのでしょうか。
第3回目は2018年1月23日から24日の2日間にかけて5部門の競技が行われました。競技内容は以下の通りです。
ペストリー(菓子)部門
ブラックボックスの指定食材を使い、3品を2皿ずつ制限時間内に調理、盛り付けをして審査員の前でプレゼンテーション(説明)をする
- チョコレートのデザート(指定食材:チョコレート、ストロベリー)
- ムースのデザート(指定食材:フレッシュクリーム、マスカルポーネチーズ)
- 温かいデザート
カリナリー(料理)部門
ブラックボックスの指定食材を使い、コース料理3品を2皿ずつ制限時間内に調理、盛り付けして審査員の前でプレゼンテーション(説明)をする
- 前菜(指定食材:帆立貝、セロリ)
- メイン(指定食材:サーモン、ビーフテンダーローイン、アボガド)
- デザート(指定食材:チョコレート、ストロベリー)
バリスタ部門
- 筆記試験
- 3種のコーヒーを用意
エスプレッソ+カプチーノを各3杯、フリースタイル(スペシャリティコーヒー)、3つのラテアート
ソムリエ部門
- 筆記試験
- ワインリストのプルーフリーディング(分類と訂正)
- 10種類のフード&ワインのペアリング
- 7ワインのブラインドテスト
バーテンダー部門
- 筆記試験
- 帽子の中からランダムに引き抜いてメモに記されたカクテル1杯(ショートとロングカクテル各5種)
- ブラックボックスから材料を選び1種類のカクテル、シグニチャーカクテル1杯(オリジナルに作成したもの)
ブラックボックス:ここから必ず1種を使う
ベース:ウオッカ、ラム、ブランデー
リキュール:ピーチ、ブルーキュラソー、カシス
フレッシュ:フレッシュクリーム、オレンジ、レモン、マラスキーノチェリー、ミントの葉
ペストリー(菓子)部門、カリナリー(料理)部門、バリスタ部門、ソムリエ部門、バーテンダー部門と5つの部門が同時に行われるのは、大規模な大会であると言ってよいでしょう。
出場者
決勝大会に出場したのは、日本、韓国のホテル(コンラッド・ホテルズ&リゾーツ、ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ、ダブルツリーby ヒルトンの 3 ブランド)で予選を勝ち抜いた15ホテル(日本13、韓国2)総勢64名でした。
その内訳は次の通りです。
ペストリー部門
12名
カリナリー部門
15名
バリスタ部門
11名
ソムリエ部門
13名
バー部門
13名
最も出場者が多いカリナリー部門は15名にも上り、最も参加者が少ないバリスタ部門でさえも11名もいます。競技や審査に2日間もかかるのが理解できる規模の大きさでしょう。
採点項目
採点項目は非常に細かくなっていますが、全ての審査項目が発表されているわけではありません。ここでは、公表されているものだけを記載しています。
ペストリー部門
カリナリー部門
- 料理・調理のテクニック
- 技術
- 創造性
- プレゼンテーション盛り付け
- 付け合わせや飾り物ガーニッシュ
- セールストーク・ストーリィ作り
- 味
などの項目
ソムリエ部門
- テクニカルな知識
- ワインテイスティングの技術
- フードとワインのペアリングテスト
バーテンダー部門
- スペシャルカクテルのプレゼンテーション(実技)
- カクテルの創造性・クリエイティビティ
- セールストークとカクテルのストーリィ
- アロマ・香り、味、フレーバー・風味
バリスタ部門
- 一貫性、風味、味のバランス
- 視覚的・ビジュアルプレゼンテーション
- クリエイティビティ・創造性
などの項目
ペストリー部門とカリナリー部門は同じ審査項目となっていますが、ソムリエ部門、バーテンダー部門、バリスタ部門は全く性格が異なるので、採点項目も異なっています。
審査員
審査員は次の方ですが、公表されていない審査員もいます。
ペストリー部門(全3名)
- 中村奈津子氏
田中玲子クッキングスクール校長
- 大森由紀子氏
パティシエ、フランス菓子・料理研究家
- 酒井久義氏
東京ベルエポック製菓調理専門学校 教務部製菓技術責任者
カリナリー部門(全3名)
- 犬養裕美子氏
レストランジャーナリスト
- 飯尾哲司氏
武蔵野調理師専門学校 実習部部長
- 唐澤秀明氏
ホテルフランクス総料理長 千葉調理専門学校講師
- 民輪めぐみ氏
「料理王国」編集長
バリスタ部門(全2名)
- 伊戸川創氏
文際学園 日本外国語専門学校 教育部担当ディレクター
ソムリエ部門(全3名)
- 寺田宗高氏
国際トラベル・ホテル・ブライダル専門学校
バー部門(全3名)
公表者なし
ジャーナリストから編集者、調理学校の指導者など、様々な分野の人が関わっています。特定の媒体や組織に依存せず、多くの立場の方が審査するのは好ましいことでしょう。
結果
全ての審査が終わった後、出場者や審査員などが揃って参加するガラディナーの場で結果発表が行われました。通常はすぐに結果発表や表彰式が行われるだけに、このようなハレの場が改めて設けられることの方が珍しいでしょう。
そして、5部門の優勝者と作品は次の通りでした。
ペストリー部門
ボナフス ギオム氏(ヒルトン大阪)
- チョコレートのアシェットデゼール
- ムースのデザート
- 温かいデザート
カリナリー部門
山本紗希氏(コンラッド東京)
- 前菜:ホタテのセビーチェ色々なアクセントを添えて
- メイン:アーモンドをまとったテンダーロイン 焼きアボカド、ジャガイモとサーモンのリゾット
- デザート:苺とチョコレートパルフェ香ばしい風味のメレンゲと軽いチョコレートのパウダー
バリスタ部門
中分亜子氏(ヒルトン小田原リゾート&スパ)
- オリジナルドリンク名:Mocha Aranccino(モカアランチーノ)
ソムリエ部門
小澤祐季氏(ヒルトン東京)
バー部門
山本豊和氏(ヒルトン東京お台場)
- オリジナルドリンク名:Gourmet Cosmopolitan(グルメ コスモポリタン)
ヒルトン小田原リゾート&スパを除いた優勝者は、東京や大阪のシティホテルに所属していま。ホテルの料理コンテストでは、シティホテルに所属する出場者が優勝したり入賞したりすることが多いので、特に偏っているようには思いません。
カリナリー部門とバリスタ部門で女性の優勝者が現れたのは、様々な価値観を提供するという観点から、素晴らしいことでしょう。
特徴
ここまで「F&Bマスターズ」を紹介してきましたが、他のホテルの料理コンテストに比較すると、どういった特徴があるのでしょうか。
私は以下の点に注目しています。
- スポンサー
- ビバレッジ
- 筆記試験
- ビデオ中継
- ガラディナー
スポンサー
ホテルの料理コンテストにしては珍しく、しっかりとスポンサーが付いていました。しかし、スポンサーに関連のある食材を使わなければならないということはなく、競技は競技としてしっかり行われていたのは好ましいことです。
ヒルトングループくらいの規模になると、アジア地域で本格的な料理コンテストを開催するのは大きな費用がかかるでしょう。それだけに、協賛を取り付けて少しでも予算を小さくすることは、これから継続的に開催するにあたって大きな意味を持つはずです。
ビバレッジ
ビバレッジが充実していることも非常に特徴的でした。通常はカリナリー部門やペストリー部門が中心となり、ビバレッジに関しては、コンテストが行われなかったり、別の日に開催されたりします。しかし、「F&Bマスターズ」では同じ日に開催されていました。
それに加えて、バリスタ部門、ソムリエ部門、カクテル部門と3部門も実施されていたことは驚きです。食の体験は、料理や菓子だけではなく、飲み物も大切であるだけに、ヒルトングループが、ビバレッジに対しても力を入れているのは素晴らしいことであると思います。
筆記試験
ビバレッジの3部門に関しては筆記試験も行われていました。予選大会であればまだしも、決勝大会で行われることは珍しいです。
コーヒー、ワイン、カクテルの提供を行うのは、基本的にサービススタッフであり、実技だけではなくコミュニケーションも重要になります。いくら腕前がよかったとしても、味覚や嗅覚が優れていたしても、コーヒー豆の特徴を分かり易く説明できなかったり、ワイン産地の知識に偏りがあったり、カクテルの論理を話せなかったりすれば、客の満足感は低くなってしまうでしょう。
決勝大会であえて、正確かつ豊富な知識を有しているのかを吟味するのはよい試みであると思います。
ビデオ中継
カリナリー部門の審査会場がとても画期的でした。その理由は、大きな宴会場が用いられていたこともそうでしたが、キッチンの様子をビデオカメラで中継していたからです。
調理の様子が採点項目に含まれており、キッチンを視察することは珍しくありません。しかし、キッチンを視察しに行っても調理の一部しか見ることができませんし、審査会場とキッチンを何度も往復しなければならないので、あまり効率的でないのです。
しかし、ビデオカメラで中継し、審査会場で調理風景を見られるようにすれば、より長い間キッチンの様子を見られるようになりますし、効率的にもなります。システムを作り上げるのは簡単ではないかも知れませんが、新しくて素晴らしい試みであるといえるでしょう。
ガラディナー
審査結果の発表は、同じくヒルトン東京ベイにある宴会場に場所を移して、ガラディナーの最中に行われました。ガラディナーの始めに、ステージでショーが演じられ、食事が進むにつれて1部門ずつ発表が行われたのです。審査員、関係者、メディアだけではなく、出場選手も参加して一体感に溢れていましたが、このような形で発表されることはほとんどありません。
その理由は、費用がかかったり、オペレーションが煩雑になったりするからです。ほとんどのホテルの料理コンテストでは、審査を終えたら、できるだけ早く発表して表彰します。
料理コンテストの目的は、才能を開花させたり、新たな能力を発掘したり、商品開発に結び付けたりすることです。しかし、これらにも増して重要となるのは、食の担い手のモチベーションを上げることです。
従って、料理コンテストが試練の場であることに加えて、入賞するしないに関わらず、料理コンテストに携わった人々がガラディナーを通して新たな人間関係を作り出したり、楽しいひと時を過ごしたりすることも大切なのです。
気になった点
特筆するべき点を述べてきましたが、いくつかだけ気になる点もありました。
- 料理のジャンル
- 優勝者のみ発表
- 審査項目と審査員の一部非公表
料理のジャンル
料理に関してはカリナリー部門と一括りにされていますが、もう少し細分化して、西洋料理、中国料理、日本料理と分けてもよかったのかも知れません。理由は、カリナリー部門が最も応募数が多いであろうということ、さらには、決勝大会でも15人と他の部門に比べて出場者が多かったことです。
指定食材は料理ジャンルによって有利不利も生まれ易いですが、細分化することで、その心配もなくなります。ただ、近年の料理は融合化が進んできているので、あえてジャンルを分けないという考え方も、決して間違いではありません。
また、ビバレッジが充実していることを鑑みると、ペストリー部門だけではなく製パン部門があってもよかったでしょう。
いずれにせよ、部門が増えると、キッチンや会場が余計に必要となり、オペレーションも大変となるだけに、簡単に対応できないことであることは理解できます。
優勝者のみ発表
ガラディナーでの結果発表の際にも、その後のプレスリリースにも、各部門の優勝者しか公表されませんでした。決勝大会まで残ることはそれ自体が名誉なことであり、しかも、出場者が10人以上と多いだけに、3位くらいまでの入賞者を発表した方がよかったのではないでしょうか。
そうすれば、入賞者はもっとやる気がでますし、今後メディアに出演する際にも箔がつきます。
これに関連して、入賞者の採点結果も分かるようならば、より透明性が高くなるのでよいです。ただ、そこまで採点の詳細まで発表している料理コンテストは少ないので、点数までは公表できなくてもよいかも知れません。
審査員と審査項目の一部非公表
審査員と審査項目が全て公表されていればよかったと思います。
審査員は審査結果に大きな影響を与えるので、どういった方が審査しているかは重要です。審査員を公表することによって、公平性や透明性を明示できますし、著名な方が参加されていれば、料理コンテストが拡散されて、より知られるきっかけにもなるでしょう。
審査項目とそれぞれが何点の配分であったかも、審査結果を左右する要素です。出場者が何を評価されたのかを知ることによって、入賞者の方向性を把握できますし、審査項目を発表することによって、しっかり審査したことを印象付けることもできます。
料理コンテストの決勝大会であれば、審査員と審査項目を全て公表することが多いです。どちらとも、公表することによるリスクは見当たらないだけに、より多くの人に興味を持ってもらうためにも、今後は公表されることを望みます。
食に力を入れているヒルトングループ
ヒルトン 日本・韓国・ミクロネシア地区 運営最高責任者のティモシー・ソーパー氏が「ヒルトンでは一流の飲食とサービスの提供が礎石となっている」と述べるように、「F&Bマスターズ」の規模の大きさや最先端の演出を鑑みると、ヒルトングループが食に力を入れていることが改めて伝わってきます。
ヒルトンは日本に上陸した外資系ホテルの先駆けであり、メディアにも頻繁に取り上げられているので、外資系ホテルの中でも多くの日本人が名前を知っているホテルでしょう。
「F&Bマスターズ」はまだ歴史が浅いですが、ヒルトングループは日本の食を知悉しているだけに、最新の要素を取り入れた「F&Bマスターズ」を通して、ますます食の分野で存在感を示していくことになると思います。