【クッキングコンテストの今】実力ある若手料理人を辞めさせず育成するには?
若手料理人が辞めてしまう
料理の世界で「シェフ」は「料理長」を意味します。大きなレストランでは「セクションシェフ」といって、前菜や魚料理といった各セクションごとに責任者を立てています。基本的に、シェフやセクションシェフでなければ肩書きもなければ名刺もありません。料理の世界では、昔ほど強い徒弟制度になっていませんが、年功序列の面が強いので、若手料理人が表に出にくい傾向があるのです。
実力ある若手料理人に「我慢」「忍耐」を強いるのは現代の日本にはあまり馴染まず、モチベーションを削いでしまうことになっています。その結果、外食産業では離職率が高くなっているのです。実際に、私が連載や企画に携わっている全日本司房士協会の会報誌「東京CHEFS」では、若手料理人の離職率が高いという相談を受けて、少しでも改善できないかと「142人のアンケートが語る調理場の現実」という特集を組んだことがあります。
グループホテルのメリットを生かしたコンテスト
実力がある若手料理人にモチベーションを維持してもらうために、ホテルやレストランでクッキングコンテストが行われることがあります。少ない場合では1店舗だけが、多い場合でもせいぜい5~6店舗が参加するといった状況です。
しかし、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンが行ったクッキングコンテストでは、25ものグループホテルの料理人が参加しました。同一グループによるコンテストでは参加ホテルが非常に多いといえるでしょう。全国から25ものホテルが参加していれば、様々な料理人が集まって高いレベルでの争いを期待できます。
ここまで大きなコンテストを行っているのは、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンが単に「インターコンチネンタル」や「ANAクラウンプラザホテル」というブランドを管理するだけではなく、グループ規模での人材育成にも力を入れているからでしょう。その証拠に、コンテストは人事が中心になって執り行われており、コンテスト実施期間中にグループホテルの人事が集まってグループ規模での人材開発も行われているのです。
私も審査員として参加したので、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンが行ったクッキングコンテストをご紹介しましょう。
応募者273名の中から6名が最終選考会に
2014年1月27日に「第3回 クッキングコンテスト」がANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービューで行われました。25の各ホテルで一次選考(応募総数273)を行った後、国内5地域で二次選考を行い、開催ホテル代表1名と合わせて6名が最終選考会に出場しました。
作品規定
テーマ:健康 ~1日の始まりに元気が出る朝食~
提供シチュエーション:朝食ブッフェ
原価:チェーフィング1台10~15人で1000円
優勝作品
- グループホテルのメニューとして採用
- IHG・ANAの特別研修等を贈与
選考方法
審査員6名が全作品を試食して採点し、合計点数が最も高かった作品が優勝。
審査項目は味50点、テーマ性20点、創造性20点、プレゼンテーション力10点で、合計100点。
各作品と寸評
最終選考会に残った6名の作品は以下の通りです。出場者と作品、私からの寸評をご紹介します。
北日本地区
冨田充祥氏(札幌全日空ホテル)
鰯と梅の元気御飯 ~食べくらべ~
一日の始まりは朝に、ご飯を食べて元気の源に。バランスの取れた朝御飯。野菜嫌いな人でも野菜チップで食べ易く。お粥餡・茶漬け・そのままでも三通りの食べ比べで食の楽しさを味わえる
三通り食べられる楽しさがあったり、野菜チップを添えたりとちょっとした工夫がみられます。朝食は慌ただしいので、取り易すいのもよいでしょう。ご飯以外の食材について動機付けが欲しいところです。
関東地区
小幡大地氏(ANA インターコンチネンタルホテル東京)
健身糯米飯 もちごめを使った中華風薬膳炊き込みご飯
朝から元気になるにはやっぱり"ごはん"だ!という思いから作ったのがこの炊き込みご飯です。中華の干しエビ干し貝柱のダシでそれぞれ炊き、オイスターソース、梅、オリーブで仕上げました。健身という言葉には「身体を鍛える」という意味があり、中の具材は薬膳の考え方からそれぞれ効能があり、特に今の季節、体を温める効果のある鶏肉や肺の機能を高め咳を抑えるギンナン、同じく肺に潤いを与え水分を保つクワイなどの材料を集めました。このご飯を食べて「体を丈夫にする」活力を高め「今日一日頑張ろう!」と思って作りました
干し物の香りが食欲をかきたてます。一つ一つが小さいので食べ易いです。もち米の弾力が眠気覚ましのよい刺激となっています。必ず3つが1セットになっているので、見た目や味でもっと分かり易い違いがあれば印象もさらに強くなります。
西日本A地区
久保幸生氏(岡山全日空ホテル)
もち豚のジャンボンペルシー 黒酢のラヴィゴットソース
※久保幸生氏は1週間前に事故があり、代わりに上長である中山公人氏が出場
「美肌効果」「ヘルシー」「元気」をキーワードとして、コラーゲンがたっぷりのジャンボンペルシーに、疲労回復効果のある黒酢の効いたラヴィゴットソースを合わせました
ラヴィゴットソースに黒酢を合わせていて少し変化があります。朝から「美肌効果」など、キーワードが明確なのはよいですし、見た目も引かれます。もう少し取り易くすると共に、作品名にコンセプトが含まれているとよいでしょう。
西日本B地区
芦塚豪氏(ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒル)
旬の食材を使った焼きリゾットお茶漬け仕立て ~地方の特産品と一緒に~
朝食の定番である「お米」を使った温かい料理。料理を提供するホテル(土地)の特色を、具材や出汁にを替えることで出すことができる。ランチやディナーで残った冷飯を利用できる
リゾットはチーズが非常に香り立ちますが、重たくありません。リゾットをお茶漬け仕立てにするだけでも新しさが感じられます。地域色を出せるのもよいですが、「決め」の一品に仕上げた方がインパクトはあったでしょう。
沖縄地区
中居孝元氏(ANA インターコンチネンタル石垣リゾート)
エッグベネディクト
一日の始まりの朝食で、頭と体と心を元気にする料理。様々な食材を使うことで、この一品で多くの栄養を摂って頂けると供ともに、召し上がって頂く際に、好奇心やワクワク感を味わっていただけるよう、工夫を施しています
エッグベネディクトは朝食として定番化していますが、色を付けたり食材を重ね合わせたりと、新しさがあります。作品名にも凝って欲しかったです。朝からポートワインの風味は、欧米人にはよいですが、日本人には合わないかも知れません。
主催ホテル枠
照屋佑馬氏(ANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービュー)
迷称老少豆腐(型どった豆腐の蒸し物 翡翠ソースで)
老若男女みんなが「一日の活力になる」。豆腐を主菜に蝦のすり身も入れ旨味かつヘルシー、タンパク源をしっかりとれる料理に仕上げました。青豆のソースで見た目とあっさり感を出しました
豆腐の優しさは朝にちょうどよいです。海老の旨味を隠し味にしています。高さがあって、翡翠色も美しいので、プレゼンテーション力は高いです。多層で柔らかいため、崩れ易く、取りにくいのが弱点。
審査結果
全体的に合計点数の幅が狭く、かなりの接戦となりました。見事優勝をものにした作品は、照屋佑馬氏の「迷称老少豆腐」。見た目にインパクトがあり、食味のバランスもよかったことが、頭一つ抜き出た理由です。照屋氏は主催ホテル枠で最終選考会に出場しましたが、もともと沖縄地区予選で優勝した実力者だったので、最終選考会で優勝したことは全く不思議ではありません。
クッキングコンテストが広がることを期待
若手料理人の離職率が高くなっている昨今、能力を発揮する機会を与えてモチベーションを高めることは非常に大切です。こういったコンテストを行うだけでもよいことですが、翌日にはシェフワークショップも行われました。
沖縄調理師専門学校校長、沖縄の食文化・琉球料理研究家である安次富順子氏を招き、「沖縄に学ぶ健康長寿食などに関する沖縄の食文化と歴史」というテーマで講演を行ったのです。グループホテルの優秀な若手料理人に対して、その土地の食材や歴史を学ぶ機会を設けるのは、とても意義あることです。
ワークショップまで実施できなくても、他のホテルも、できるだけ多くのグループホテルを巻き込み、より実践的な要綱を盛り込んで、コンテストを実施できるとよいでしょう。料理人の成長を促すと同時にメディアからも注目されるイベントが増えていくことを期待します。