とりわけ食べておくべきホテルの肉料理3選とその理由
ホテルで肉業態がオープン
昨今の肉ブームは、パンケーキと同じようにブームというよりも既に成熟し、定番化している感があります。
健康面への配慮やさっぱりとした食味から赤身肉が注目されると、そこから熟成肉へと進み、肉イタリアンや肉ビストロといった、肉料理を売りにしたジャンルが現れ、さらには、焼肉でもステーキでもなく、肉そのものを様々に調理して楽しむ肉料理店が人気を博すようになりました。
ホテルでは、ステーキハウスやグリルレストランが以下のように相次いでオープンしています。
- 2016年12月9日
ANAインターコンチネンタルホテル東京「ザ・ステーキハウス」
- 2016年12月31日
ヒルトン東京お台場「グリロジー バー&グリル(Grillogy Bar & Grill)」
- 2017年8月5日
グランドニッコー東京 台場「The Grill on 30th(ザ グリル オン サーティース)」
- 2017年9月1日
ホテル雅叙園東京「ニューアメリカングリル カナデテラス(New American Grill KANADE TERRACE)」
- 2017年12月1日
ザ ストリングス 表参道「BAR & GRILL DUMB(バー&グリル ダンボ)」
- 2017年12月1日
浅草ビューホテル「GRILL DINING 薪火」
- 2017年12月13日
品川プリンスホテル「TABLE 9 TOKYO」のエリア「Grill&Steak」
肉という観点で言及すれば、ホテルのファインダイニングとして価値の高い鉄板焼も重要であり、以下の記事でも紹介してきました。
他にはない肉料理
このように多くのホテルが肉に力を入れており、競争が激しくなっている中で、他にはない取り組みを行っているところがあります。
それは、以下のホテルです。
- 新しいブランド和牛/グランド ハイアット 東京
- 本格的なジビエ/帝国ホテル 東京
- 桜ウッドプランク・グリル/ヒルトン東京
何がどう新しいのか、何が他と違うのかを紹介していきましょう。
新しいブランド和牛/グランド ハイアット 東京
黒毛和牛のブランド牛と言えば、何を思い浮かべるでしょうか。海外では断トツで知名度が高い「神戸ビーフ」、次に知名度のある「飛騨牛」はもちろん、「松坂牛」や「近江牛」、「前沢牛」や「仙台牛」も挙げられるでしょう。
近年では、5年に1度行われ、和牛のオリンピックとも称される「全国和牛能力共進会」で史上初めて「内閣総理大臣賞」を3大会連続で受賞した「宮崎牛」も評判が高くなっています。
そのような状況にあって、特に注目したいのが「けやき坂 ビーフ」です。
しかし、牛肉通の間でも「けやき坂 ビーフ」を知っている人はまだ少ないのではないでしょうか。
何故ならば、「けやき坂 ビーフ」は、グランド ハイアット 東京の鉄板焼「けやき坂」が2017年11月から提供を始めたばかりの新しいオリジナルブランド和牛だからです。
「けやき坂」はこれまでも、以下のように新しい鉄板焼を創り出してきましたが、今度は独自のブランド牛を生み出しました。
「けやき坂 ビーフ」とは
<日本初の子牛ブランド八重山郷里牛は和牛の値段高騰を解決できるのか?>でも紹介したように、和牛は繁殖農家で生まれて育てられた後で、肥育農家に買われて育てられ、肥育農家のブランドとして売り出されます。
「けやき坂 ビーフ」は、東京都で唯一のブランド和牛であり、あきる野市菅生にある「竹内牧場」で飼育され、年間約140頭しか出荷されない「秋川牛」をもとに育て上げられました。
「けやき坂 ビーフ」の特徴は以下のように説明されています。
ここには記載されていませんが、「秋川牛」の素牛は岩手県産の牛です。
地産地消で貢献
ブランド和牛はたくさんありますが、どうしてわざわざこのような手間がかかることをしたのでしょうか。
料理長である本多良信氏は「黒毛和牛はどれもおいしいが、オリジナルを作り、よりおいしいものを楽しんでいただきたいと考えた。2020年に向けて東京がますます盛り上がるので、東京産にこだわり、地産地消で貢献したいという思いもあった」と明確に答えます。
流通関係者と共に約2年もかけて取り組み、2017年5月に「竹内牧場」から承諾を得られることができましたが、2017年1月の時点で既に「けやき坂 ビーフ」が商標登録されていることからは、何としてでも成し遂げるという本多氏の強い気概が窺えます。
「人間と同じように身体に良いものを牛に与えたい」という考えから、20回以上の試作を経て、昆布パウダー、キヌア、ココアパウダー、ブルーベリーを配合した飼料を完成させたり、月に数回も牧場へ足を運んだりするなど、「けやき坂 ビーフ」へのこだわりは半端ではありません。
脂っぽさがない
本多氏が「理想通りの肉に仕上がった」と自信を持つ「けやき坂 ビーフ」は基本的に「焼き」だけで提供しており、「サーロインでも赤身のような脂でしつこくなくて食べ易い」と評判です。
実際に食べてみると、スーパーフードの影響なのか、A4もしくはA5のランクにも関わらず、サーロインでも脂っぽさがあまり感じられません。
さっぱりとした食味なので、食べ比べの際にはサーロイン、フィレという従来の鉄板焼とは反対の順番で提供したり、フィレを得意のトリュフ入り塩釜焼きにして仕上げたりと、「けやき坂 ビーフ」なりの食べ方を工夫しています。
オリジナル商品も視野へ
今後については「サーロインとフィレの食べ比べ、さらには、他の和牛との食べ比べも考えている。将来的にはレトルトのシチューなど、お土産にできるようなオリジナル商品を開発したい」と、本多氏のアイデアは尽きません。
鉄板焼店のオリジナルブランド牛ではウェスティンホテル東京「恵比寿」の「恵比寿牛」や「うかい亭」の「うかい牛」がありますが、「けやき坂 ビーフ」はより海外の客を意識して「けやき坂牛」ではなく「けやき坂 ビーフ」と命名しました。
世界でも通じる「和牛」=「Wagyu」の新しいブランド「けやき坂 ビーフ」がこれから国内外でどのように認知されていくのか、とても楽しみです。
本格的なジビエ/帝国ホテル 東京
フランス料理では秋から冬にかけて、狩猟によって捕えた天然の野生鳥獣の食肉であるジビエが主役となります。日本では11月15日から2月15日が狩猟解禁期間であり、この時期に町場のフランス料理店を訪れるとジビエを勧められることが多くなります。
しかし、ホテルの場合では、フランス料理店と言えども万人向けを考えているので、一般的ではない珍しい肉を用意することを好まず、ジビエの提供には積極的でありません。ホテルのフランス料理では、ジビエといってもせいぜい鹿肉がよいところでしょう。
このような状況で、一流ホテルのフランス料理店で積極的にジビエを提供しているところがあります。
それは、帝国ホテル 東京「レ セゾン」です。
「レ セゾン」では「シェフ ティエリー・ヴォワザンが贈る "ジビエ"」フェアを行っており、冬のご馳走である「ジビエ」を本格的に楽しめます。
フランス料理の名門店
「レ セゾン」は、フランス・シャンパーニュ地方の名店「ボワイエ・レ・クレイエール」で料理長を務めたティエリー・ヴォワザン氏が料理長として腕を奮っており、2017年12月1日に発売されたばかりの「ミシュランガイド東京2018」でも、引き続き1つ星を獲得しているフランス料理の名店です。
これまでにも以下の記事で紹介してきました。
この「レ セゾン」では、2017年11月初旬から12月下旬までは5皿、6皿、7皿と3種類のコースを提供し、2018年1月から2月まではアラカルトでジビエを提供しています。
7皿コース
今年の7皿コースのメニューは以下の通りです。
- 猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて
- 山ウズラのヴルテと甘く仕上げた玉ねぎのロワイヤル
- 金目鯛をソースシャンパーニュで ポロネギにリコリスを香らせて
- オマール海老とピジョンラミエのロティ レンズ豆を合わせて
- 雷鳥のインぺリアル風
- ベルナール アントニーさんのチーズ
- 栗の花から採ったハチミツのクレームブリュレとレモン フロマージュブランのソルベ
- カフェとショコラ
魚料理とデザートを除き、全てにジビエが使われているのは圧巻でしょう。猪(サングリエ)、山ウズラ(ペルドロー)、山鳩(ピジョンラミエ)、雷鳥(グールーズ)と、野生の鳥獣の肉が使われています。
ちょっとした食通であったとしても、この全てを食べたことがある日本人は多くないはずです。1つのコースでいくつもの珍しい肉を食べられるので、まさにジビエ尽くしと言ってもよいでしょう。
ジビエ料理の特徴
「猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて」は北海道産の猪をゼリー寄せにして、獣肉ならではの臭みを感じさせず、食べ易くしています。セルクルで棒状にして、美しいモンブランに見立てており、マロンやイチジクのコンポート、カシスのジャムに合わせていますが、ジビエと甘い味わいはもとから合うものなので、決して奇を衒っているわけではありません。
「オマール海老とピジョンラミエのロティ レンズ豆を合わせて」はオマール海老と山鳩を合わせた意欲的な一皿です。創作料理では、山の幸と海の幸を一皿で提供するコスモポリタン風の料理は珍しくありませんが、「レ セゾン」のようなミシュラガイドで星を獲得し続けている本格的なフランス料理店でとなると珍しいです。本来は出会うはずのないオマール海老の旨味と山鳩の独特の風味が出会うのは、感慨深いものがあります。
「雷鳥のインペリアル風」は、雷鳥の肉や内蔵などを網脂で包み込み、旨味を逃していません。しっかりとしたソースや根セロリのピューレと合わせ、雷鳥独特の風味をゆるやかにしています。雷鳥は日本では天然記念物に指定されており、狩猟できないだけに、食べられる機会はそうそう訪れるものではありません。
フランス文化を伝える
ホテルでジビエフェアが行われるのは珍しいことですが、「レ セゾン」ではヴォワザン氏が料理長に就任した2005年から行われていました。
ヴォワザン氏は「ジビエを調理するには、独特の技術が必要なので、簡単に提供することはできない。ジビエは私にとって自然を尊重すること。生きているものを捕獲していただくので、生産者や食材に深く感謝しなければならない」と真摯に話します。
新しくなった点については「今年はメリハリを考えて、オマール海老と山鳩の料理を加えた」と説明します。
最後にどのジビエ料理が一番お勧めかを尋ねると「自分の子供の中で、誰を一番愛しているのか決められない。それ同じように、どのジビエにも優劣は付けられない。どれもが最高のジビエ料理」と笑顔で答えます。
ジビエを始めとしたあらゆる食材や生産者に敬虔の念を抱き、「おいしいのは当たり前。いかにエレガントにするか」と語るヴォワザン氏が、伝統ある帝国ホテルのメインダイニングで、毎年本格的なジビエ料理を提供することは、フランス文化を伝えるという意味で重要であり、ホテルのフランス料理でもジビエが当然のように提供されるようになることを期待したいです.
桜ウッドプランク・グリル/ヒルトン東京
冒頭で、ホテルではグリルレストランやステーキハウスがとても多くなっており、人気を博していると述べました。
ステーキはフライパンなどの鉄板に食材を載せて焼き、グリル料理は網の上に食材を載せて焼きますが、どちらともその分かり易さや豪快さが大きな魅力です。
実は最近、グリル料理で新しい焼き方が注目されています。
それは、ヒルトン東京「メトロポリタングリル」で2017年10月から提供されている「桜ウッドプランク・グリル」です。
ウッドプランクとは
「ウッドプランク」は「木の板」を意味し、「桜ウッドプランク」は「桜の木の板」を意味しています。「メトロポリタングリルでは」、この「桜ウッドプランク」をグリル台の上に載せて焼いた肉料理を提供しているのです。
ウッドプランクにワインやブランデーなどを自由に染み込ませておけば、その匂いで食材が燻されて独特の風味や味わいが加わります。アメリカでは既に話題となっており、日本でもバーベキューなどで利用され始めているなど、注目の肉料理なのです。
「メトロポリタングリル」では、備長炭と桜の薪でゆっくりと焼くことにより、桜の独特の香りを含み、スモーキーでありながら風味豊かな仕上げています。
驚くべきことは、この「桜ウッドプランク・グリル」を、全てのアラカルトグリルメニュー(肉料理)で、追加料金なしでオーダーできることです。
桜ウッドプランク・グリル
では、具体的にどういったアラカルトグリルメニューを「桜ウッドプランク・グリル」にできるのでしょうか。
- US産ニューヨークストリップロイン 250g
- オーストラリア産ブラックアンガス テンダーロイン 250g
- 和牛 A5 サーロイン 200g
- 和牛 A5 テンダーロイン 150g
- オーストラリア産ブラックアンガス トマホーク 1.5kg
- 40日間熟成 国産ビーフサーロイン 250g
- バーボン香熟成 Tボーン
以上のように、赤身肉がおいしい外国産の牛肉から、脂がしっかりとした黒毛和牛、さらには熟成肉も「桜ウッドプランク・グリル」にできます。
特にお勧めしたのは、ヒルトン東京の副総料理長を務めるトーマス氏が考案する「バーボン熟成 Tボーン」です。桜の香りとバーボンの香りが複雑な風味を醸し出しており、従来のグリル料理にはない新しい食味を体験できるようになっています。
また「バーボン熟成 Tボーン」ではフランスの名門ナイフである「フォルジュ ド ライヨール」や「ラギオール アン オブラック」といったラギヨール村のナイフを自由に選ぶことができるので、肉料理を食べる楽しみがより広がることでしょう。
桜ウッドプランク・グリルが生まれた背景
「桜ウッドプランク・グリル」は、まだ他ではあまり行われていない試みですが、どのようにして生まれたのでしょうか。
トーマス氏は「ニューヨークでウッドプランクが人気を博してきている。グリル料理は日本でも愛されているので、最先端のトレンドが受け入れられると考えた」と述べます。
桜の木が使われた経緯については「最初は楢の木で試したが、香りが強過ぎて日本人には合わないと感じた。桜の木であれば、マイルドに仕上がりながらも、ワンランク上の風味になるので、こちらを使うことにした」と説明します。トーマス氏が述べた通り、桜ウッドプランク・グリルはスモーキー過ぎず、心地よい香りがします。
調理する際の注意点を尋ねると「木が焼けないようにするため、使用する前に、24時間水に漬け込む必要がある」と準備が必要であると答えます。
桜ウッドプランクを使って次は何を考えているのかを訊くと「イベリコ豚の豚トロにケイジャンスパイスをつけて焼き、最後に桜ウッドプランクで仕上げたグリル料理を考えている。いつも新しいグリル料理を創り出すことを考えているので、是非とも楽しんでいただきたい」と笑顔で話します。
グリルレストランも革新的
ヒルトン東京については、最近では以下のような記事で紹介しました。
ヒルトン東京のレストランは常に新しい試みを行っています。「マーブルラウンジ」ではデザートブッフェの先駆けでありながらも芸術性のあるブッフェや物語性のあるブッフェを創り出して「インスタ映え」の元祖となりました。中国料理の「王朝」では老舗であるにも関わらず、中国の歴史をテーマにした創造性溢れるコース料理を紡ぎ出しています。
「メトロポリタングリル」では、薪を使うグリルカウンターを中央に配し、ガラス張りにすることで魅せるグリルを標榜したり、世界各地から集めたコンディメントを用意したりと、新しいグリル料理のあり方を提示していますが、この「桜ウッドプランク・グリル」も他のグリルレストランに大きな影響を与えるのではないでしょうか。
心に残る肉料理
肉料理がもはや一つのジャンルとして確立した今、ホテルでもこれまでよりずっと力を入れていますが、差別化となるとそう簡単にはいきません。
そういった中で、グランド ハイアット 東京「けやき坂」のようにオリジナルのブランド和牛を生み出したり、帝国ホテル 東京「レ セゾン」のように本物のジビエ料理を提供したり、ヒルトン東京「メトロポリタングリル」のようにトレンドとオリジナリティを合わせた手法を考案したりすれば、一過性ではなく、ずっと人々の心に残るような肉料理になるのではないでしょうか。