430万回再生の「親友の風呂にポテト200人前」動画が賛否 “冷凍して全部食べる”と主張もダメな理由
親友宅の風呂にポテト
残念な動画を目にしました。
「親友の風呂にポテト200人前詰めてみたww」と題した動画が投稿されており、Xで物議を醸しています。
親友がいない間に、親友宅の風呂いっぱいにフライドポテト(フレンチフライ)を詰めて、親友が帰宅した時の反応を面白がるという趣旨です。親友が帰宅する時間を逆算して、5時間で200人前のポテトを揚げたといいます。
とても一度で食べ切れる分量ではないので、冷凍庫に保存して、全て食べると締め括られていました。
YouTubeで430万回再生、17万の高評価、1200件のコメント、TikTokで38万のいいね、2000件のコメントと、大きな反響を呼んでいます。Xでは批判的な反応が多いですが、動画サイトのコメントを確認すると、好意的に受け取られているようです。
フライドポテトの容量
フライドポテトは全部でどれくらいの分量になるのでしょうか。
フライドポテト1人前の分量に明確な決まりはありません。全部で200人前とあるので、1人前を100グラムとすれば20キログラム、200グラムと多めに見積もれば40キログラムとなります。
しかし、風呂いっぱいに詰められていたことを考えると疑問が生じます。
一般的な家庭の風呂の容量は、小さくても200リットルくらいです。
ギュッと詰めたシューストリングの冷凍フライドポテトは、400グラムで1200ミリリットル程度。揚げると重さが70%強になることを鑑みれば、フライドポテト100グラムの容量は約400ミリリットルと想定されます。
形状や詰め方によって変わりますが、200リットルの風呂いっぱいのフライドポテトは、50キログラムくらいあると考えてよいでしょう。
200人前という言葉よりも、風呂いっぱいに詰められていた事実を優先して、以降は200リットル、50キログラムとして考察していきます。
冷凍スペース
冷凍保存して、全て食べるとありますが、本当に可能なのでしょうか。
風呂いっぱいにフライドポテトが詰め込まれているので、保存するには、当然のことながら同じ容量の冷凍スペースが必要です。
冷蔵冷凍庫の容量は、一人暮らしであれば、自炊をする人は150〜250リットル、自炊しない人は150リットル以下が目安です。冷凍室の容量は全体の40%もあれば大きい方なので、250リットルの冷蔵冷凍庫であれば、せいぜい60リットルの容量。これだと200リットルのフライドポテトを保存することはできません。
ただ、動画では、フライドポテトは冷蔵冷凍庫ではなく冷凍専用の冷凍庫に保存されていました。幅が40~50センチ程度ながらも高さは160センチ以上もありそうな中型サイズの冷凍庫です。一人用の小型冷凍庫は100~150リットルですが、これくらいの大きさであれば、200リットル程度の容量があると推定されます。
また、冷凍室の中には、フライドポテトしか入っておらず、他のものは見かけられませんでした。
以上のことから、200リットルのフライドポテトが冷凍されたことを、嘘だと否定できません。
ボリューム感
200リットル、50キログラムのフライドポテトは、どれくらいのボリューム感でしょうか。
マクドナルドの「マックフライドポテト」は以下のような重量とされています。
Sサイズ:約74g
Mサイズ:約135g
Lサイズ:約170g
50キログラムのフライドポテトで換算したのが次の通りです。
Sサイズ:約676パック
Mサイズ:約370パック
Lサイズ:約294パック
Lサイズを毎食1パックずつ食べたとしても、完食するのに98日もかかります。3ヶ月間毎食食べ続けるのは、なかなか難しいことではないでしょうか。
健康面のリスク
フライドポテトは健康面で懸念があります。
フライドポテト1日分の重さは、Lサイズ3パック分で、510グラム。フライドポテトの熱量は、100グラムで237キロカロリーもあるので、1日で1200キロカロリーにも上ります。
長期間にわたって過剰摂取すれば、脂質が多いので体重増加や肥満のリスクが、塩分が高いので高血圧や腎機能障害のリスクが増加。心血管疾患につながるトランス脂肪酸や、発がん性のある有害物質のアクリルアミドが多く含まれている可能性もあります。
揚げる過程で、ジャガイモに含まれているビタミンCやビタミンB群などの水溶性ビタミンが損失します。
フライドポテトを毎食、食事の中心にして食べ続けるのは、とても褒められた食生活ではありません。
食べたことを免罪符にする
200リットルものフライドポテトを、全て冷凍保存して、なくなるまで食べ終えたとします。しかし、「全て食べた」ことを免罪符にして、食べ物を遊びに使うのは好ましいことではありません。
たとえ食べ切ったとしても、食材を遊びに使う行為は、生産者や食材への敬意を欠いた行為であり、食への敬意を欠いているからです。
「いただきます」の語源は諸説ありますが、最もよく知られているのは、食材である植物や動物の命をいただいていることへの感謝から生まれたという説。植物を育てたり、生き物を育てたり、魚をとったりする生産者、さらにはそれを運ぶ人たちがいて、食材が食べられるようになります。動植物の命をいただいていること、多くの人の手を介することを鑑みれば、食材をぞんざいに扱うことは、動植物や生産者への敬意を欠いていることになります。
もしも、配偶者やパートナー、母親や父親、祖母や祖父など、自分にとって大切な人がつくったと考えたら、その食べ物を粗末に扱えるでしょうか。少し想像力を働かせてみれば、たとえ大切な人がつくったのではなくとも、食べ物を粗末には扱えないものです。
食べ物を粗末に扱うコンテンツ
以前はよく、テレビ番組で、パイを投げあったり、相手の顔に押し当てたりする場面が見掛けられました。こういったパイは食べるためにつくられたパイではありません。
単に紙のパイ皿にホイップクリームが載せられていたり、場合によっては、ホイップクリームですらなくシェービングクリームが使われていたりすることもあります。
もしも、食用ではないフェイクであったとしても、消費期限が切れて食べることが推奨されていない食品であったとしても、粗末に扱うことには賛同できません。なぜならば、視覚的にはまだ食べられる物を粗末に扱っているように見えるため、食への敬意を損なう可能性があるからです。
些細なことから食に対する尊厳は失われていくので、食べ物や食べ物と思われるものを粗末に扱うコンテンツは、つくられるべきではありません。
食育の重要性
食べ物を粗末にする行為は食育に反しています。
食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」です。食育基本法の第一章第三条では「食に関する感謝の念と理解」が記載されています。
・食育/Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9F%E8%82%B2
・食育基本法/e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC1000000063
・食育の推進/農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/
・食育って何?/文部科学省
https://www.mext.go.jp/syokuiku/what/index.html
・食育に関する意識調査/農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/ishiki.html
小さい頃、茶碗に残った米一粒まで食べるように教育された人と、好き嫌いがあって何を残しても注意されなかったりした人とでは、食べ物を大切にする感覚が全く異なります。
食べ物を粗末にすることを何とも思わない人は、簡単な料理さえしないのではないでしょうか。少しでも料理したり、食材に接したりしていれば、食べ物を粗末にしないものです。
農林水産省が2024年3月に行った「食育に関する意識調査」によると、20歳代の男性は食育に「関心がない」と回答した人の割合が42.2%で、全属性の中で最も多くなっています。若年層の男性は、食に対する関心が低く、食材への敬意が欠如しやすい傾向があるのではないでしょうか。
冒頭の動画も20代の男性によって制作されており、コメントでもこの動画を面白く感じている人が少なくありません。
食べ物を粗末にする動画をつくったり、楽しんだりしている人がいる状況を鑑みると、食に対するリスペクト=食育がもっと必要であると思わざるを得ません。