Yahoo!ニュース

お酒が飲めないとダメ? ワインを飲めないと入店不可のイタリア料理店に反発! 日本酒バーも参戦で大激論

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ワインが飲めない人は入店不可

飲食店でワインを飲みますか。私はワインをはじめとするお酒が好きなので、飲食店では必ずお酒を飲みます。

Threadsで投稿された、ある方の投稿が話題になりました。

近所のイタリア料理店の店頭に「ワイン飲めない方入店不可」の貼り紙があり、「ワイン好きな自分ですが行かないです」と述べています。

これに対して、日本酒バーの店主が反論。「この店はワイン飲めない、飲まない人に来てほしくないんだよね?」「店の良さを共感して贔屓にしてくれているお客様へ配慮するのは当たり前だけど何で来て欲しくない人に対して必要以上に配慮する必要があるのだろうか?」「ワイン飲めない、飲まない人に来てほしくないからこの書き方でいいんじゃないの?」と張り紙に賛同します。

反応を見てみると、どちらの投稿に対しても賛否両論があるようです。

飲食店の定番である“アルコールドリンク問題”について考察していきます。

※以上の「」内は原文のまま

ドリンクオーダーの現状

カフェや喫茶店、バーなど、ドリンクが主体の飲食店であれば、ドリンクの注文が必須となります。フードの注文は必須ではありませんが、たとえフードを注文したとしても、ドリンクを注文しなくてはならないケースがほとんどです。そのため、待ち合わせなどで、後から遅れて到着すると、サービススタッフにメニューを渡されて、ドリンクを注文しなければなりません。

ブラッスリーやバル、居酒屋やワインダイニングなどお酒をメインとする業態ではアルコールドリンクが求められます。ファインダイニングでも同様の傾向がありますが、お酒が飲めない、もしくは、お酒を飲まないと伝えると、ノンアルコールワインやモクテル=ノンアルコールカクテル、お茶などのソフトドリンクが提案されるでしょう。水は有料のミネラルウォーターが標準になっています。

飲食店の経営におけるドリンク

売上に占めるドリンクの割合はだいたい、レストランで20%、居酒屋で40%、カフェで80%、バーで85%です。カフェや喫茶店、バーといった業態では、ドリンクが売上の中で高い割合を占めることを前提に設計されているので、ドリンクを注文してもらわなければ経営できません。

料理は注文できる数や食べられる量に限界がありますが、ドリンク、特にアルコールドリンクであれば何杯でも飲めます。アルコールドリンクには、ビールのように利益率が低いものから、ハイボールやサワーのように利益率が高いものまであり、ソフトドリンクでは、手の込んだモクテルやブランドのコーヒーや高級茶でない限り、原価率が低くて利益が多いです。

ドリンクはものによって幅はあるものの、平均的にフードよりも利益率が高い上にすぐ提供できるので、優秀な商品といえます。全体的に利益率が高い上に何杯も飲んでもらえるアルコールドリンクは、飲食店にとってかなり貴重な収益源です。

料理とドリンクのマリアージュ

飲食店で食べ物だけを食べたいという考え方は理解できます。お金を節約したかったり、飲みたいものがなかったりして、ドリンクのオーダーに気乗りしない場合もあるでしょう。

ただ、飲食店であれば、ソムリエが料理とお酒のマリアージュを考えていたり、シェフがお酒に造詣が深かったりするものです。プロフェッショナルが考えた組み合わせの妙味を味わってみるのは、価値ある食体験になります。アルコールドリンクだけではなく、ノンアルコールドリンクであっても同様です。

お酒をはじめとするドリンクを組み合わせれば、食べ物がよりおいしく感じられることもあります。アラカルトであれば、注文する料理に、どのドリンクが合うかを考えるのも楽しいです。白ワインか赤ワイン、日本酒か紹興酒かなど、何を選ぶかによっても、料理の印象はだいぶ違います。何がよいか思い浮かばなければ、スタッフに訊いて、人気のドリンクや料理によさそうなものをチョイスしてもらうのがよいでしょう。

アルコールドリンクはもちろんのこと、ノンアルコールドリンクでも、少しでも安い1杯ではなく、その料理と相性のよいドリンクを選ぶことをお勧めします。

テーブルウェアやコミュニケーション

アルコールドリンクを飲む際に、自宅で取り揃えられないワイングラスなどの酒器が使えるのも、貴重な体験です。オーストリアのロブマイヤーやリーデル、ザルト、ドイツのツヴィーゼル、フランスのバカラといったグラス、江戸切子や有田焼などの酒器で、お酒を飲めるのは優雅なひと時であるといえます。

同席者と、料理だけではなくアルコールドリンクの感想も共有できるのは、また一興です。コミュニケーションの幅も広がり、絆もより一層深まります。

飲食店とは

総務省による日本標準産業分類の定義を拝借すれば、飲食店とは「主として注文により直ちにその場所で料理、その他の食料品又は飲料を飲食させる事業所」。

飲食店を営業するのに主に必要なことは、講習を受けて資格を取得した食品衛生責任者と防火管理者を置き、食品衛生法に基づいた飲食店営業許可を取ることです。

食品衛生法を遵守していれば、営業の自由度が高く、さまざまなルールを決めることができます。

飲めない、もしくは、飲まない

ここまで飲食店や食体験にとってのアルコールドリンクの重要性について説明してきました。

体質や妊娠中、治療や持病などによって身体的にアルコールドリンクを飲めなかったり、宗教やソバーキュリアスなどアルコールドリンクを忌避する信条をもっていたりする方がいます。

そのため、アルコールドリンクを飲めないこと、もしくは、飲まないことは全く問題がありません。

利用者への告知

ただ、飲食店と客のミスマッチはお互いに不幸な結果を生み出すだけです。入店してから知るよりも、入店前にルールや方針を知ることができるのは、むしろよいこと。

同じイタリア料理店でも、どれだけワインにこだわっているのか、どれだけワインを飲んでもらいたいと思っているかは、店によって千差万別です。今回のように店頭で告知するのは、飲食店と客のどちらのためにもなります。公式サイトやグルメサイトに表記したり、予約サービスや予約電話で伝えたりするのも同様です。

冒頭の投稿のように、ワインが飲めるけれども、「ワインが飲めない人は入店不可」と公言する店に行きたくないのも、利用者の自由。冒頭の投稿者は、張り紙があったことによって、あまり好みではない店に誤って訪れる可能性を回避できたといえます。

表現の方法に気を付けて、客を蔑ろにすることさえなければ、飲食店がポリシーやルール、考え方や態度を表明することは、とても意味のあることなのです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事