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レストランで「香水の強い客を離れた窓際に案内」で物議 外食では絶対に香水をつけたらダメ?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

ウェイトレスの投稿

レストランのウェイトレスによる、Threadsでの香水に関する投稿が気になりました。

接客中、香水がとても強いゲストがいました。

他のゲストからのクレームになりかねないと考え、他のゲストから離れた窓際の席に案内したといいます。以前、客の多いスペースに香水の強いゲストを案内すると、他のゲストからクレームがあったということです。

空気清浄機のパワーを強めたり、換気を行ったり、デザートをサービスする代わりに席を移動してもらったりするしかないと述べ、どのような対応が正しい行動なのかという、問いかけで締められていました。

投稿への返信を確認してみると、飲食店の関係者が多く、苦慮されているところが多いようです。

質問への回答

質問に対する回答を挙げるとすれば、香水の強い匂いを空気洗浄機や換気で排除するのは難しいので、離れた席や個室に移動してもらうのがベスト。

ただ、迷惑をかけるゲストが得をしてしまうのはよくない構造なので、料理の香りを大切にしているというレストランの考えも共有できるとよいです。

入店よりも前に、予約時にキャンセルポリシーなどの連絡とともに、香水についても伝えておくのも有用。最低でも、公式サイトや予約サイトに記載しておけば、ある程度は改善されるはずです。

香水の弊害

料理を楽しむ時に、香りは非常に重要な役割を果たします。

肉を藁や木のチップで燻製したり、料理に白トリュフをスライスしたり、素材にスパイスやハーブをまぶしたりするのも、全て香りを楽しむためです。

味は食べてからでないと知覚することができませんが、香りは食べる前に知覚されるので、その後の食味に影響します。鼻をつまんで食べてみると、味がよくわからなかったり、違いが判別できなかったりします。

香りを感じることで、昔の記憶がよみがえることもあります。香りは体験を記憶に刻みつけるための楔にもなっているのです。

件のゲストのように、隣のテーブルにまで漂ってしまうくらいの強い香水は、悪い影響を及ぼします。

まず、同席者や周りにいる他の客が料理を味わうことを邪魔します。次に、サービススタッフの料理やワインに対する感度を下げてしまいます。最後に、最も影響を受ける人物として、本人の食体験も損ねてしまうのです。

料理のカテゴリーの違い

料理のカテゴリーによって、香りの受け取り方に違いがあります。

フランス料理は香りや味わいを大切にする料理が多く、ワインやソースの香りを楽しむことも重要視されます。強い香りやスパイシーなニュアンスをもつ香水は特に避けるべきです。イタリア料理やスペイン料理などもフランス料理とほぼ同様。

日本料理は、素材そのものの風味や香りが特に大切とされ、料理の食味が繊細なため、香水は推奨されません。鮨では、ネタやシャリの幽香を損なうので、香水はご法度。天ぷらでは油の香ばしさ、鉄板焼では目の前で焼ける匂いを邪魔しないため、やはり香水は控えられるべきです。

中国料理は香辛料や調味料の香りが豊かで、強い香りの料理が多いので、ぶつかり合う可能性のあるスパイシーな香りでなければ、ある程度は香水に寛容かもしれません。ただそれでも、そもそも料理の香りが最も大切なので、香水は付けないに越したことがありません。

ラーメンなどのカジュアルな飲食店であれば、香水が制限されることもありませんが、上品なスープを提供するラーメン店ではその香りを殺してしまうことになります。

食事を最大限に楽しめるように

レストランでの香水のメリットをあえて挙げるとすれば、香水もファッションの一部であり、自己表現の一環として使えることです。もしも、レストランの雰囲気や料理に合った香りをチョイスできれば、迷惑をかけず、空間に調和できることもあるかもしれません。

ただやはり、食事の体験を損ねてしまう以上のメリットにはなりません。香水アレルギーや強い香りが苦手な人がいる場合には、健康に悪影響を及ぼすこともあります。

レストランでの食事は、非日常を体験できる貴重な機会です。その場にいるすべての人が最高の食体験を共有できるように、香水を控える心遣いが求められます。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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