女優がセルフで自らのヌードを撮る。写真の枠組みを超えた新たな挑戦の次に向けてフランス・パリへ
女優として映画、舞台、テレビ、ラジオなどを主な活動の場にしてきたが、コロナ禍をきっかけに写真を撮り始め、現在は写真家としても活動する花澄。
彼女については写真家として歩み始めるとともに、初のヌードでの濡れ場にも挑んだ主演映画「百合の雨音」の公開時(2022年)に初めて取材し、女優自らが写真家として、自らのヌードを撮るという、前例のないセルフ・ポートレートの写真集「Scent of a...」(セント・オブ・ア...)と、本写真集の完成とともに新宿 北村写真機店で開催された初の写真展、そして映画「百合の雨音」について話を訊いた。
それから約1年半後になる今春には、出演作の映画「ゴールド・ボーイ」が公開へ。同作では北村一輝が演じる打越一平の妻・遙を熱演。同時期には新たな写真展「世界に、なにを見よう」を開催し、さらには日本の写真公募展でもトップクラスの知名度と応募人数を誇るJPS展で見事奨励賞を受賞する吉報も入った。
その際も話を聞いたが、その中で、次なるチャレンジとして写真からさらに表現の場を広げようと<亀山トリエンナーレ>への参加を控えていることを教えてくれた。
それから早いもので数カ月を経て、<亀山トリエンナーレ>が10月27日(日)に開幕。
三重県亀山市で開催される<亀山トリエンナーレ>は現代芸術の祭典。今年は国内外より81組のアーティストが参加し、亀山市内一帯を展示場所に平面、立体、インスタレーション、映像、パフォーマンス、ワークショップなど様々なアート作品が展示された。
その中で、花澄が生み出したのは写真をメインにしたインスタレーション作品。「君恋し」とタイトルのつけられた本作は、どんな過程を経て生まれたのか?
初めての芸術祭への参加を前に彼女に話を訊いたインタビューを開催に合わせて届けた。
今回は、それ続く番外編へ。開催終了後、改めて彼女に話を訊いた。番外編全四回/第四回
パリ・フォト開催中のパリへ
前回(第三回はこちら)まで、初めて取り組んだインスタレーション作品「君恋し」と、初参加になった芸術祭「亀山トリエンナーレ」について振り返ってくれた花澄。
ただ、亀山トリエンナーレの開催中のさなかに、もう次に向けて動き出したという。
「フランス・パリのグラン・パレで11月7日〜10日まで開催されていたパリ・フォト(※毎年パリで開催されている写真に関する国際的なフェア。展覧会とは違い、写真作品や写真集などの販売を目的にした展示会で、世界中からギャラリーや美術商、写真関係の出版社が参加し、コレクターやアートファンが集まる)に行ってきました。
一度行ってみたいと思っていたんですけど、今回、思い切って行ってみることにしました。
会場に行くと、もう圧倒されたといいますか。
世界中からありとあらゆる写真、それこそ往年の名フォトグラファーの作品から、新進気鋭の写真家の作品まで、大小さまざまなギャラリーや出版社など膨大な数のブースが軒を連ねている感じで、見ても見ても見終わらない。
そういえば、会場の真ん中あたりには、杉本博司さんの作品を扱ったブースがどんと構えていました。日本人として嬉しかったです。
世界中のありとあらゆるタイプの写真作品が集まっている感じでした」
写真を浴びるように見て、大いに刺激を受ける時間に
そこで、大いに刺激を受けたという。
「個人的にびっくりしたのは写真のクオリティもさることながら、その幅広さといいますか。
写真作品も意外ともう現代アートに近い領域まできている。けっこう攻めている作品が多い。
たとえば、鏡みたいなものに印刷してある作品や、まるで紗(しゃ)のような半透明のアクリル越しに見る作品、折り畳んであるものや、一度分解してから再構築したものなど、おもちゃ箱のようで。写真というと、フレームに収まっている感じですけど、ぜんぜん収まっていない作品がけっこうあったんですよね。
主題選びのほかに無限のアウトプット方法がある、というのは新鮮でした。形もこんなにいろいろでいいんだと。
こういう柔軟なアイデアを写真に取り入れるのもおもしろいかもとかいろいろと気づかせてくれる時間になりました」
見続けていたらもうお腹いっぱいに
ゆえに、パリ・フォトをめぐるのは早く切り上げたのだとか。
「見続けていたらもうお腹いっぱいになってしまったというか。
こんなにもいろんなアプローチで撮っている人が世界にはいるのか!と殴られたような気持ちになり、だからこそ、自分の立ち位置を丁寧に確認するような作業にもなって。
あまりに強烈なインプットだったので、半ば強制的にギュッと圧縮されながら、わたしの好きなもの、撮りたいものは『これです!!』と宣言させられた気持ちになったんです。
それでたまらずパリ郊外に飛び出し、深呼吸しました。森、白鳥、窓の灯り、と好きなものに向かって走っていったような感じです。
それから、元々わたしは印象派の絵画が大好き。ということで、印象派の作品が多く所蔵されているマルモッタン美術館や、オルセー、オランジュリー美術館などいくつかの美術館に当初から行く予定を立てていました。
そこで改めてモネに恋をしました。前世はたぶん一緒にいたんじゃないかとさえ思いました。『やだ…おんなじもの撮ってる(描いてる)…』『やだ…おんなじこと言ってる…』という答え合わせが何度もあって、涙しました。視線に、視座に、一緒に息をしているような体感になって。ここに今後の創作のヒントがあるな、と確信しました。
『私の絵画について論じる人々は、私が抽象と現実に結つく想像の極致に至ったと結論づける。
だが、私の絵画を、「世界の外のどこかの別の場所」へと遠ざけるのは、行きすぎというものだ。作品の華麗さは、私の源であるところの自然から湧き出る賜物である』とモネは言っているんですよね。
わたしも夢のような雰囲気に撮るんですけど、やっぱり自然という神さまのトレースである、という感覚なので、とてもよくわかりました。
ファッショナブルなパリフォトを見たからこそ、自分の心はファッションになり得ない、という気持ちも強くしました。なので、売れないかもしれません(笑)。
でも、自分にとっての価値は真ん中に置いておきたいですね。
いまは、タンバールという魔法の道具を手に入れたので、このまま我が道を進んでいけばいい、と先人に勇気づけられた気持ちです。
次の予定はまだ決まっていませんが、このパリで撮った写真も含めて、どこかでまた発表できたらいいなと思っています。まだまだ進化、深化しますので、楽しみに待っていただけたらうれしいです」(※本インタビュー終了)
<花澄 最新情報はこちらから>
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※花澄に関する写真はすべて(C)2022 KAZUMI PHOTOGRAPHY. All Rights Reserved.
<花澄本人解説 インスタレーション「君恋し」>(全四回/第四回)
文机に残された本には、一匹の虹色の蝶が止まっている。
燭台には消えたろうそく。
ちなみに蝶は着ていた浴衣の柄でもある。
「炎の光にいざなわれ わたしはあなたの夢を見る」
写真はないが、壁には浴衣が掛かっている。
引き出しを覗くと、ろうそくを辿っていったような形跡が。
出口ののれんには二匹の蝶が写されている。二人は結ばれたのか?
二匹が向かう先がろうそくの炎だとすると、飛んで火に入る…という可能性もある。
美しい最後に見えて、さて、どっちだ?というところは様々に取れる構成にし、鑑賞者の感性に結末は委ねることにした。ハッピーエンドか否かは、観る人による。
ちなみに音楽はコシチャイムと呼ばれるウインドチャイムのような楽器を使い、自身で演奏して録音したものを使用した。
透明感のある、マイナーの少し切ない音階が異世界へと誘う。
と、ここまで作家の言葉が綴られることは珍しいことかもしれない。
わたしが思い描いていた「君恋し」の物語である。
<花澄 前回インタビューの一覧はこちら>
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第一回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第二回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第三回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第四回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第一回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第二回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第三回】
【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第四回】