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麻薬と抗争の地区にある学力最底辺校がトップクラスへ!型破りな教師と生徒が起こした感動実話を映画化

水上賢治映画ライター
「型破りな教室」より

 本国メキシコで300万人を動員すると2023年No.1 の大ヒットを記録した映画「型破りな教室」は、メキシコの学校で実際に起きた実話の映画化だ。

 舞台は、アメリカの国境近くにある町マタモロスのホセ・ウルビナ・ロペス小学校。

 同町は麻薬と殺人がはびこるいわゆる危険地域。子どもたちは常に危険と隣り合わせでギャングの抗争に巻き込まれて命を失う子もめずらしくない。

 家庭状況によってヤングケアラーのような状態の子や、児童労働せざるえない子もいる。

 学校の勉強についていけず、不登校になる子も少なくない。

 メキシコのひとつの教育の指針となる、ENLACE(公立・私立ともに3.4.5.6.9.12年生の全生徒が受験する数学・科学・国語の国家試験)の成績は全国最下位という状態だった。

 ただ、これは子どもたちだけのせいではない。

 学校側も問題が山積み。教育設備は決して満足いくものとはいえず、なにか生徒が調べものをできるパソコン一台すらない。

 教育に熱心な教師もほとんどいない。

 決められたカリキュラムを淡々とこなすのみ。創意工夫して子どもたちに学びの楽しさや面白さを伝えるような授業をする教師は皆無だった。

 そんな治安も学力の最低の学校に、教師のセルヒオ・フアレス・コレアは赴任する。

 彼が担当することになった担任が出産で学校を辞めた小学校6年生のクラス。

 そこで彼は、教科書にとらわれない型破りな授業を実践する。

 瞬く間に子どもたちの心をつかむと、探求する喜びを知った生徒たちの学力は飛躍的に上昇。

 パロマという女の子のスペシャルな才能を見出すことになる!

 作品は、ひとりの教師と未来ある子どもたちが成し遂げたひとつの奇跡を単に英雄視するのではなく、厳しい現実があることを交えながら描き出す。

 子どもにとって学びの場はどうあるべきなのか?

 学びの場がすべての子どもたちに開かれたものであることがいかに重要なことなのか?

 メキシコの物語ではあるが、どの国にも当てはまる「学校」及び「教育」について深く考えさせる一作となっている。

 綿密なリサーチをもとに本作を作り上げたクリストファー・ザラ監督に訊く。全五回/第二回

クリストファー・ザラ監督
クリストファー・ザラ監督

教育についてもちょうど関心を寄せている時期だった

 前回(第一回はこちら)、今回のプロジェクトに参加するまでを明かしてくれたクリストファー・ザラ監督。

 「わたしが一番共鳴したのは、セルヒオの存在です。

 彼は教職に情熱を感じていた。でも、ある失敗をして自信を教師をしていく自信を失ってしまう。でも、これまでとは違う手法でもう一回頑張ってみようと立ち上がって奇跡を起こした。

 一度挫折を味わいながら立ち上がったセルヒオの姿に、いまの自分を重ねることができました。

 そこでこのプロジェクトに取り組む決心を固めました」ということだったが、同じころ、教育についても関心を寄せていたという。

「お話ししたように、いったん仕事をストップして、グアテマラの湖畔の家に生活の場を移すことにしました。

 そして、子どもができたことで自然と教育にも関心を寄せるようになりました。

 というのも、生活の場を移したグアテマラは、義務教育は6年生で終了してしまうんです。

 そこから先は、個人の自由といえば自由ですが、もしもっと学びたかったら子ども自身が学ぶ機会を得るために道を切り拓いていかなくてはいけない。

 ただ、実際はほとんど子どもたちが進学することはないというか。

 教育にあまり力を入れていないので、子どもたちにも大人たちにも学校は単純労働の生活が始まる前の耐えるべき場所のような受けとめになってしまっている。

 学校での学びが将来や未来を切り開くもの、いまの生活とはまったく違う世界に連れて行ってくれるもの、と思われていない。

 だから、教育によって自分はもしかしたら何者かになれるかもしれない、といった考えに至らない。

 子どもたちが子どもでいられない厳しい現実があって、夢や希望を抱くことすらできない子どもたちが大半なんです。

 そのことがショックで世界各国の教育について興味を抱くようになっていた時期でした。

 そのときに、プロデューサーのベン・オデルから連絡をもらって、セルヒオ・フアレス・コレアの存在を知ったんです。

 教師のセルヒオは、画一的なカリキュラムとENLACEの成績をあまりに気にし過ぎた教育が、年々生徒たちの学ぶ意欲を低下させていると感じていた。

 でも、どうすればいいのか見当がつかない。気が病むほどセルヒオは困り果てていた。

 そんなときに、無料動画配信プロジェクトのTED(テッド)の講演で、新しい子ども向け学習方法を語るスガタ・ミトラに出会あった。

 その学習法を自分なりの方法で実践することで、子どもたちが学ぶことの楽しさに気づき、自発的に学ぶ方向へと導いていった。

 言うのは簡単ですけど、凝り固まった教育現場の中で、その勇気ある一歩を踏み出すことは大変だったと思います。

 セルヒオはすばらしい教育者でヒーローといっていいでしょう。

 一方で、彼に導かれて学ぶ楽しさを知った子どもたちもまたヒーローだと思うんです。どんな子どもにも実は無限の可能性がある。

 ただ、その才能を伸ばす、きちんとした学びの場がなければどうにもならない。

 逆を言えば、きちんとした学ぶ機会と教えがあれば子どもたちは自分たちの才能を伸ばすことができる。

 そのことをセルヒオと子どもたちの起こしたひとつの奇跡は物語っているのではないでしょうか。

 ですから、ベン・オデルから連絡をもらって、セルヒオの記事を読んだときはすごく興味持ちました」

「型破りな教室」より
「型破りな教室」より

作品の最大のお手本となるセルヒオと子どもたちはちゃんといるわけですから、

彼らに直接会わずして映画は作れない。

 そういった深い関心を寄せながら本格的に映画化に向けてプロジェクトを始動させたのこと。

 ザラ監督のもとに話が来る前の段階で、プロデューサーのベン・オデル氏は現地にジャーナリストを行い綿密なリサーチを行った。

 でも、それに満足することなくザラ監督は自身でさらなるリサーチをすることにしたという。

「そうですね。

 セルヒオと子どもたちは確かにヒーローといっていい存在なのだけれど、作品を単なる英雄伝のような形でとどまらせてはいけないと考えました。

 子どもたちにとって教育がいかに大切なものか、学ぶ機会がいかに大事か、そういった自国の教育について関心をもって改めて考える機会になるような作品にしなければならないと考えました。

 そのためにも、もっと実際にあったこと、現地はどのようなところなのか、そういったことをきちんと知らなければならないと考えました。

 文字や情報といった文字や映像上だけではなくて、フィールドワーク的なアプローチをして自分の身をもって現場感覚をもって考えて描かなければならないと思ったんです。

 しかも、セルヒオも子どもたちも過去の人物ではありません。いままさに彼らは生きている。現在も物語は進んでいる。

 実在する人たちを映画で描く機会ってそうあることではない。

 もう作品の最大のお手本となるセルヒオと子どもたちはちゃんといるわけですから、彼らに直接会わずして映画は作れない。

 ですから、それまでベンがきちんとした下調べをしてくれてはいたんですけど、改めて僕自身でリサーチして、セルヒオや生徒のパロマにも実際に会うことができました」

(※第三回に続く)

【「型破りな教室」クリストファー・ザラ監督インタビュー第一回】

「型破りな教室」ポスタービジュアル
「型破りな教室」ポスタービジュアル

「型破りな教室」

監督・脚本:クリストファー・ザラ

出演:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホほか

公式サイト https://katayaburiclass.com/

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

写真はすべて(C)Pantelion 2.0, LLC

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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