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ウクライナ戦で1万1千人のうち3千人以上兵力を失った北朝鮮はロシアに10万人まで派兵するのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の特殊部隊(朝鮮中央テレビから)

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾や韓国旅客機事故などの重大ニュースで蚊帳の外に置かれた感のある北朝鮮だが、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は先週(12月23~27日)開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会で演説を行っていた。

 筆者が最も関心を寄せていた国際情勢について金総書記は「自主勢力圏の成長と躍進が際立ち、覇権勢力圏の立場が急激に弱化、衰退した」との認識を示し、「我が共和国は厳しい地域情勢と流動的な国際関係構図の変化に機敏かつ巧みに対応する」と一言述べただけだった。ウクライナ戦争やロシアへの派兵について触れることはなかった。ロシアの「露」の字もなかった。

 その一方で、金総書記宛てのプーチン大統領からの新年の賀状は総会中の27日に早々と公開されていた。賀状には「6月に平壌で行われた我々の会談は露朝関係を新たな質的水準に引き上げた」として「2025年にこの歴史的な条約を履行するための共同活動を大変緊密に行い、現時代の脅威と挑戦に対処するための努力を一層一致させていくものと確信している」と書かれてあった。間接的な表現ながら、北朝鮮の対露露軍事支援継続への期待を表明していた。

 北朝鮮の今後の動きについてクリスマスイブを前に韓国軍合同参謀本部は23日、「北朝鮮軍の動向」と題する資料を公表し、その中で「北朝鮮がロシアに新たな兵力と装備を送る動きが捉えられた」と発表していた。

 無人機については金総書記が11月14日に無人航空技術連合体傘下研究所と各企業で生産した各種の自爆攻撃型無人機の性能試験を視察していたことから供与が間近に迫っていると判断したようだ。しかし、軍の増派については人数を含めて何一つ詳細については明らかにしていなかった。

 奇しくも同じ日、ウクライナ軍の最高司令官会議に出席していたゼレンスキー大統領はロシア領、クルスク州での北朝鮮兵の死傷者数について「3千人を超えた」と述べたうえで「北朝鮮が補充するため兵士や軍の装備を追加でロシア軍に送り込む可能性がある」と、SNSに投稿していた。、

 ゼレンスキー大統領はその4日前の19日にもロシアの軍事侵攻から1000日に合わせて開かれたヨーロッパ連合(EU)議会でオンライン演説し「今は1万1000人の兵士がウクライナとの国境に配置されているが、今後10万人にまで増える可能性がある」と予告していた。

 ゼレンスキー大統領の発表とおり、派兵された1万1千人のうちすでに3千人以上の死傷者が出ているとするならば約3分の1ないしは4分の1にあたる。露朝間に派兵に関する契約や合意があるならば、ロシアは兵力の補充を求め、北朝鮮もそれに供応することになるであろう。

 金総書記は先月(11月)29日に電撃訪朝したロシアのベロウソフ国防相との会談で「国家の主権と領土保全を守るロシアの政策を変わることなく支援支持する」と表明し、続いて開かれた露朝国防相会談では呂光鉄(ロ・グァンチョル)国防相が露朝包括的戦略パートナーシップ条約に基づき「両国軍隊間の戦闘的団結と戦略的・戦術的協同を強化していく」ことを表明していた。

 但し、ロシアがウクライナ侵攻から3年目となる来年2月24日まで、遅くとも対ドイツ戦勝80周年記念日の5月9日までにクルスクを占領したウクライナ軍の完全放逐を目指しているならば、単なる交代や補充にとどまらないであろう。北朝鮮からの「援軍」はゼレンスキー大統領が憂慮しているように約10倍の10万人規模に膨れ上がるかもしれない。

 北朝鮮兵士がウクライナに侵攻し、交戦し、その結果、死傷したのとは異なり、友好国のロシアのクルスク州に滞在中に攻撃され、死傷者が出たとの理屈を持ち出し、ウクライナへの報復、反撃が国際法上許容されるとして今後は公然と派兵する可能性も否定できない。

 古い話だが、ちなみに韓国は同盟国の米国の要請を受け、ベトナム戦争では1964年9月から71年12月までに延べ35万人を派兵(戦死者約5千人、負傷者約1万人)していた。

 なお、ロシアの戦場に派遣されていた人民軍副総参謀長の金英福(キム・ヨンボク)上将、軍偵察総局長の李昌虎(リ・チャンホ)中将特殊作戦軍の申琴哲(シン・グムチョル)少将の3人の将軍のうち1人がウクライナ軍の攻撃によって死亡もしくは負傷したとの情報が一時期、流れたことがあったが、金副総参謀長は今回の党中央委員会総会で党幹部の称号である中央委員候補に選出されていたことで健在が確認された。

(参考資料:ウクライナの米国製ミサイルによるロシア本土攻撃で北朝鮮軍に被害が出れば、北朝鮮は本格参戦する!?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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