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女優がセルフで自らのヌードを撮る。写真の枠組みを超えた新たな挑戦を経て痛感したこと

水上賢治映画ライター
「君恋し」より

 女優として映画、舞台、テレビ、ラジオなどを主な活動の場にしてきたが、コロナ禍をきっかけに写真を撮り始め、現在は写真家としても活動する花澄。

 彼女については写真家として歩み始めるとともに、初のヌードでの濡れ場にも挑んだ主演映画「百合の雨音」の公開時(2022年)に初めて取材し、女優自らが写真家として、自らのヌードを撮るという、前例のないセルフ・ポートレートの写真集「Scent of a...」(セント・オブ・ア...)と、本写真集の完成とともに新宿 北村写真機店で開催された初の写真展、そして映画「百合の雨音」について話を訊いた。

 それから約1年半後になる今春には、出演作の映画「ゴールド・ボーイ」が公開へ。同作では北村一輝が演じる打越一平の妻・遙を熱演。同時期には新たな写真展「世界に、なにを見よう」を開催し、さらには日本の写真公募展でもトップクラスの知名度と応募人数を誇るJPS展で見事奨励賞を受賞する吉報も入った。

 その際も話を聞いたが、その中で、次なるチャレンジとして写真からさらに表現の場を広げようと<亀山トリエンナーレ>への参加を控えていることを教えてくれた。

 それから早いもので数カ月を経て、<亀山トリエンナーレ>が10月27日(日)に開幕を迎える。

 三重県亀山市で開催される<亀山トリエンナーレ>は現代芸術の祭典。今年は国内外より81組のアーティストが参加し、亀山市内一帯を展示場所に平面、立体、インスタレーション、映像、パフォーマンス、ワークショップなど様々なアート作品が展示される。

 その中で、花澄が生み出したのは写真をメインにしたインスタレーション作品。「君恋し」とタイトルのつけられた本作は、どんな過程を経て生まれたのか?

 初めての芸術祭への参加を前に彼女に話を訊く。全五回/第四回

「君恋し」ポスタービジュアル
「君恋し」ポスタービジュアル

アイデアが閃いた後も、あらゆる場面で試行錯誤の連続!

 前回(第三回はこちら)は、自身にとって初めてのインスタレーション作品「君恋し」のアイデアが浮かぶまでの試行錯誤の日々を振り返ってくれた花澄。

 その中で、和風版『アリス・イン・ワンダーランド』のようなおとぎ話、夢かうつつかわからない世界に迷い込む形で、亀山の地で生きたある女性の心模様を一緒に体験するような空間にできたらどうだろうというアイデアが閃いた。

 そこからインスタレーション作品「君恋し」は生まれた。

 ただ、アイデアが閃いた後も試行錯誤の連続だったという。

「空間全体を使ってどのような表現をすればいいのか、なかなかアイデアが浮かばなくて苦労したわけですけど……。

 ポン、ポンと駒を進めるように、ロウソクの灯りと赤い糸をたどっていく仕掛けを閃いて、まず最大の難関はクリアすることができました。

 ただ、やはり難関はそれだけではなくて、そのあとも試行錯誤はいろいろとありました。

 たとえば、写真のサイズ。

 はじめは、写真のサイズもある程度、大きい方が見栄えもしてかっこいいのではないかなと思ったんです。

 『大きさと数は正義』みたいなことはほかの芸術祭でも感じていて。やっぱり圧倒されるんですよ。

 いままで写真をそこまで大きくしたこともなかったので、いいチャンスかもしれないと思ったところもあって、ダミーでポスター品質で大きなサイズのものを作って置いてみたんです。

 でも、まったく合わない、なんか大味になってしまうといいますか。

 この家にかつて住んでいた女性が誰かを思い、その思いがその人に届くのか、届かないのか、そんな人が人に恋焦がれるストーリーを感じられるものにしたいのに……。

 夢かうつつかわからない、妖しくも艶やかな世界観にしたいのに……。

 そういう艶っぽさや色気がまったく出てこないんですよ。

 あと、写真が大きくなると当然、当てる照明も大きくしなければならない。そうすると照明がすごく目立ってしまって、空間全体もどうしても明るくなってしまう。

 そうなると空間自体にも色気がなくなってしまう。

 それから、小さく灯った恋心や願いといったことが見えてこない。写真のインパクトが強すぎて、むしろそこに物語を見出せなくなってしまう。

 ひと目で目に入りすぎてしまって、物語を辿っていくような形にもならない。

 それで『全然ダメだ』と思って。

 一旦すべて更地に戻して一からやり直しました。まず、この物語を伝えるには、どのぐらいのサイズがフィットするのか。さまざま試して、A3サイズぐらいと答えを導き出したんです。

 こんな感じで細部にわたって思いついたらまずやってみて、違うなぁと首を傾げてということの繰り返しでしたね。

 あと、物語の構成も最後まで悩みました。

 あまり明確にしてわかりやすくしても面白くないし、曖昧すぎるとまったくわからないままで終わってしまう可能性がある。

 いかほどにも解釈していただけて、それぞれのストーリーを見出していただけるような余地をどこまで残すことができるのか、かなり悩みましたね。ハッピーエンドかアンハッピーエンドかはお客様に委ねています。みなさんがどのように受けとめてくださるのか気になります」

「君恋し」より
「君恋し」より

現代アートの作家の方々に改めて尊敬の念を抱きました

 では、その空間全体で表現するインスタレーションというアート表現に取り組んでみて、どんなことを感じただろうか?

「まず、インスタレーション作品に常日頃取り組まれているアーティストの方々に改めて尊敬の念を抱きました。

 いくつかのトリエンナーレを巡る中で、いくつもすばらしい作品に出合って、現代アートのおもしろさや奥深さに気づかされて、もともとリスペクトはしていたんですけど……。

 やはり見るのと実際にその創作に取り組むのは大違い。

 細部にわたって考えに考え抜かなければアートとして成立しないことが今回、身に染みてわかりました。

 改めて現代アートの作家のみなさんの創作のすごさに気づかされましたね。

 わたしの場合、アイデアが閃くまでに時間がかなりかかったわけですけど、これって現代アートの作家のみなさんのあるあるみたいで(笑)。

 きっと年中、こんなことを考えているんだと思います。どうやろうか、何をやろうかと……。

 ほんとうにアイデアがギリギリまで閃かなくて、展示に穴をあけてしまうんじゃないかと恐怖を覚えることがある作家さんはけっこういらっしゃるみたいです。

 わたしもほんとうにアイデアが浮かばなくて、でも日程が待ってくれない。その間にも、どんどん日程は迫ってきて焦りましたから、その気持ちはわかります。

 いまでも閃いたからよかったけど、そうでなかったらどうなったんだろうと思うときがあります」

(※第五回に続く)

<花澄 最新情報はこちらから>

https://www.instagram.com/textisan/

https://x.com/textisan

※花澄に関する写真はすべて(C)2022 KAZUMI PHOTOGRAPHY. All Rights Reserved.

【「君恋し」花澄インタビュー第一回】

【「君恋し」花澄インタビュー第二回】

【「君恋し」花澄インタビュー第三回】

<花澄 前回インタビューの一覧はこちら>

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第一回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第二回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第三回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 番外編第四回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第一回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第二回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第三回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第四回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第五回】

【写真展「世界に、なにを見よう」/「ゴールド・ボーイ」花澄 第六回】

<亀山トリエンナーレ>ポスタービジュアル  提供:亀山トリエンナーレ実行委員会
<亀山トリエンナーレ>ポスタービジュアル  提供:亀山トリエンナーレ実行委員会

<亀山トリエンナーレ>

三重県亀山市内一帯が展示場所に!

国内外より81組のアーティストが参加

(アメリカ、韓国、フィンランド、メキシコ、日本)

会期:11月16日(土)まで

10時〜17時(最終日16時30分まで。展示場所により展示時間に多少の変更あり)
展示会場:亀山市文化会館、東町商店街、明治天皇行在所、

西町民家(旧東海道沿い)、旧舘家住宅、加藤家屋敷跡、

旧佐野家住宅、旧田中家住宅、旧落合家住宅、鈴鹿峠自然の家

入場料/旧舘家のみ500円(※高校生以上)、ほかは無料

詳細は公式サイト https://kameyamatriennale.com/

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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