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迫害と処刑の危機が迫る芸術家たちに救いの手を。命を救うために迫られた苦渋の決断

水上賢治映画ライター
「子どもたちはもう遊ばない」より

 2023年10月のハマスのイスラエルへの襲撃を発端に始まったイスラエルによるガザへの攻撃はいまだ終わりがみえない。このイスラエルの容赦のない戦闘行為によりガザで命を奪われた人は4万を超える。

 一方、同じ中東のアフガニスタンではアメリカ軍が撤退するとタリバンが政権の座へ。残念ながら一般市民に平和で平穏な日常は訪れていない。

 この世界が見過ごしてはいけない現実に深く言及した2本のドキュメンタリー映画が相次いで公開される。

 イランの巨匠、モフセン・マフマルバフ監督の「子どもたちはもう遊ばない」と、彼の娘で同じく映画監督のハナ・マフマルバフが手掛けた「苦悩のリスト」だ。

 「子どもたちはもう遊ばない」は、モフセン・マフマルバフ監督が「長年続くイスラエルとパレスチナの紛争に解決の糸口はあるのか」を探るため、エルサレムの旧市街へ。街角にひとり佇む老人、パレスチナ系の子どもたちのダンスグループ、ユダヤ系の若者らに出会い、語らう。

 エルサレムの日常から紛争の根本、パレスチナ人の考え、ユダヤ人の考え、和平へのヒントなどいろいろなことが垣間見えてくる。

 一方、ハナ・マフマルバフ監督の「苦悩のリスト」は、2021年5月、アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退を機にタリバンが再侵攻を開始したころの記録だ。

 アフガニスタンを掌握したタリバンから迫害や処刑などを受ける危機に直面したアーティストや映画製作者を救うため、モフセン・マフマルバフ監督はじめファミリーは奔走。

 しかし、約800人の「リスト」を元に受け入れ各所に呼びかけをしていく中、リストから人数を絞らなければならない厳しい現実に直面する。

 どうすればいいのか?悩んでも決断のタイムリミットはまってくれない。

 その苦悩の日々から苦渋の選択までの一部始終が記録されている。

 いずれの作品もいままさに中東で起きている現実を直視。苦境にいる人々の声に耳を傾ける。

 この二つの作品に込めた思いとは?

 <VISION OF MAKHMALBAF/ヴィジョン・オブ・マフマルバフ マフマルバフ・ファミリー ドキュメンタリー2選>と銘打たれて公開される両作品について、モフセン・マフマルバフ監督に訊く。全四回/第一回

モフセン・マルマフバフ監督
モフセン・マルマフバフ監督

わたしはアフガニスタンで多くの映画を作ってきた。

アフガニスタンのアーティストたちの危機を前に、無関心ではいられなかった

 まず監督作品の「子どもたちはもう遊ばない」の話に入る前に、「苦悩のリスト」の話を。

 こちらの作品において、モフセン・マフマルバフ監督はいわば主人公。アフガニスタンのアーティストたちをどうにか救おうと、監督は各所へ働きかけ、受け入れ交渉に乗り出す。

 しかし、受け入れ先は限られ、リストを誰かを選ばざるえない状況に直面する。

 このときはどのような心境だったのだろうか?

「ご存じのように、わたしは家族とともに、つまりファミリーで映画を作っています。

 家族の共通認識として、自分たちには映画人として2つの役割があると考えています。

 一つは、自分たちの創作活動をすること。映画を作ることもそうですし、脚本や本を書くこともそうです。自身の作品を発表していくことが大切と考えています。

 もう一つは、同じ映画人をフォローするというか。わたしたちは、これまでいろいろなところで映画を作ってきましたし、映画作りを教えてもきました。

 その都度、若い才能に出会ってきています。

 彼らが困っているときに手を差し延べる、彼らがよりよい方向に進めるように支援する。そのこともわたしたち家族の大きな役割だと考えているんです。

 わたしはかれこれ40年以上、映画を作り続けていますが、その間に家族のもの含めてアフガニスタンについての映画を10本以上撮っています。

 作品ごとに地元の人々と出会ってきました。現地の子どもたちに映画に出演してもらってもいます。

 それが縁で、学校を作るなどして、彼らの現状が少しでも良くなるよう活動してきました。

 ですから、みなさんご記憶にあると思いますが、アメリカ軍の撤退が決まったとき、タリバンを恐れる市民が国外への脱出を求めて空港に殺到しました。あのニュース映像をみたとき、みなさん、心が揺さぶられたのではないでしょうか?

 離陸しようとしている飛行機に必死にしがみついている人の映像を多くの人が見て、無関心ではいられないと思ったのではないでしょうか?

 わたしたちも同じで無関心ではいられませんでした。なぜなら、いまお話ししたようにアフガニスタンには一緒に映画を作った映画人が大勢いるからです。

 知りあいの芸術家がたくさんいる。

 特にアーティストの存在はタリバンにとっては邪魔で命を狙われることは明らか。

 ですから、なにかしなければならないとわたしたちファミリーは思いました。

 でも、アメリカや多くの国がなにか支援に乗り出す気配はありませんでした。

 そこで、わたしたちは独自にアクションを起こすことにしたんです」

「苦悩のリスト」より
「苦悩のリスト」より

アフガニスタンのアーティストたちを救う活動はまだ終わっていない

 ただ、助け出せる人数は限られ、リストをもとに誰にするのかを選択しなければならない現実に直面する。

 苦しかったのではないだろうか?

「そうですね。

 でも、決断しなければならなかった。

 約300人はフランス、 82人はドイツ 、約20人はアメリカが受け入れてくれました。

 そして、この活動はまだ終わっていません。継続中です。

 いまはイギリスでどうにか受け入れてもらえないか交渉中です。

 タリバンの危険に直面しているアフガニスタンの残された人々をどうにか救おうと、いまも活動を続けています」

(※第二回に続く)

「苦悩のリスト」ポスタービジュアル
「苦悩のリスト」ポスタービジュアル


「ヴィジョン・オブ・マフマルバフ」

『苦悩のリスト』(監督:ハナ・マフマルバフ)

『子どもたちはもう遊ばない』(監督:モフセン・マフマルバフ)

新作ドキュメンタリー2作品同時公開

12/28(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

http://vision-of-makhmalbaf.com/


新作「ヴィジョン・オブ・マフマルバフ」公開記念

マフマルバフ・ファミリー特集

『ワンス・アポン・ア・タイム、シネマ』

『サラーム・シネマ』

『タイム・オブ・ラブ』

『パンと植木鉢』

『私が女になった日』

『独裁者と小さな孫』を上映

12/28(土)~1/17(金)

会場:シアター・イメージフォーラム

写真はすべて(C)Makhmalbaf Film House

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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