「運航会社に殺されるところだった。問題を口外しないよう口止めも」潜水艇専門家 タイタン沈没事故公聴会
アメリカでは、9月16日から、昨年6月に、豪華客船タイタニック号の残骸見学ツアーに向かう途中で爆縮し、5名の乗船者が亡くなった潜水艇タイタンの事故を審理するための公聴会が行われており、タイタンを運航していたオーシャンゲート社の元関係者たちが証言している。
オーシャンゲート社に殺されるところだった
9月24日は、オーシャンゲート社CEOストックトン・ラッシュ氏の友人で、潜水艇専門家のポール・スタンレー氏(ロアタン深海探査研究所のオーナー)が、2019年4月に、バハマで、タイタンのプロトタイプに乗船した際の出来事について証言して注目された。
スタンレー氏は乗船に際し、プロトタイプで単独で潜水したばかりというラッシュ氏に「これは音がするよ、覚悟して」と警告されたという。そして、実際に割れるような音を聞いた。
スタンリー氏は「カーボンファイバーの船体は音を立て、深く潜るにつれて割れるような音は大きくなった。水面に近づくにつれ“割れるような音がグランドフィナーレ”を飾った。振り返ってみると、潜水中には多くの“危険信号”があった」と述べた。同氏は、割れるような音はカーボンファイバーのバンドが切れる音だと推測している。
音を問題視したスタンリー氏はラッシュ氏とメールでやり取りし、あるメールで「船体にはフランジのあたりに欠陥があり、それは悪化するだけだと思う。問題は、船体が壊滅的に破損するかどうかだ」と懸念を伝えている。同氏はまた、タイタンは客を乗船させる前に少なくとも50回テストをすべきだと主張したが、ラッシュ氏は安全性を確保するのに十分なテストをしていると主張、さらには、スタンリー氏に、音について口外しないよう口止めしたという。スタンリー氏は口外しないことに同意したものの、その後のメールでラッシュ氏に「潜水中に聞こえた音について口外しないように言われたことは、多くを物語っている」と書いている。このメールのやり取りを機に、両氏の関係は悪化したという。
ちなみに、この潜水の1ヶ月後、このプロトタイプの船体に亀裂が見つかったことから、この船体自体はタイタニック号の残骸に向けての潜水には使用されなかった。それでも、スタンリー氏は、タイタンの事故を知った時、タイタンは100%爆縮したと確信したという。
また、同氏は、ラッシュ氏がオーシャンゲート社を始めた意図について「歴史に足跡を残したかったからではないか」と述べ、「オーシャンゲート社に私は殺されるところだったし、私のビジネスだけでなく業界全体にも深刻な影響を与えた」との考えも示した。
財政状況の悪化で給与の支払いを延期
24日の公聴会では、オーシャンゲート社元運営ディレクターのアンバー・ベイ氏も証言した。先週の公聴会では、同社の元コントラクターのアントネラ・ウィルビー氏がベイ氏に「あなたは態度が悪い。探検家の心構えがない。私たちは革新的でカウボーイだ。多くの人はそれに耐えられない」と言われたと証言したが、ベイ氏はこの証言を否定した。
また、ウィルビー氏は、スタッフは懸念を表明できない企業文化があったと指摘したが、これに対してもベイ氏は「オーシャンゲート社のスタッフはラッシュ氏に安全上の懸念を表明することに抵抗を感じていなかったと思う」と否定。両者の見方には矛盾が見られる。
ベイ氏はまた、2023年の初め、オーシャンゲート社の財政状況は非常に厳しくなり、スタッフへの給与の支払いを一度延期したと証言した。
ちなみに、23日の公聴会では、オーシャンゲート社元エンジニアリングディレクターのフィル・ブルックス氏が「オーシャンゲート社はスタッフに、年明けの給料を補填するという約束で、一定期間、給与支払いを自主的に放棄するよう求めた。会社が経済的に非常にストレスを抱えていたことは明らかで、その結果、安全性があまりにも損なわれるような決定や行動をしていたと感じた。経済問題と安全性の問題が、オーシャンゲート社を退職する原因になった」と証言していることから、ベイ氏の証言はブルックス氏の証言を裏付けている。
船体は放置され、メインテナンスも行われず
ブルックス氏は、タイタンの事故の1年前の2022年夏にタイタニック号への潜水終了時に聞こえた大きな音についての証言もしている。この音については、ラッシュ氏も懸念していたというが、同氏はその音は潜水艇を囲むフレームが潜水艇に適合するために生じる音だと考えていたという。音の問題を懸念したブルックス氏は船体の検査を求めたが、結局、数か月間、カーボンファイバーの船体の潜水艇はニューファンドランドのセントジョンズにある埠頭近くの駐車場に放置されて風雨に晒され、2022年から2023年2月まで船体のメインテナンスやテストは行われなかったという。
タイタンが爆縮した原因の1つとして、潜水による累積的な影響と風雨への露出によりカーボンファイバーの船体、または、船体と潜水艇のチタン製エンドキャップの間のシールが弱くなったことにより、深海の圧力に対して潜水艇が脆弱になった可能性があることが示唆されているが、ブルックス氏の証言はこの示唆を裏付けているようだ。
潜水艇を自社で建造するつもりはなかった
カーボンファイバーを採用した経緯については、オーシャンゲート社の共同設立者ギレルモ・ソーンライン氏が証言している。同氏によると、当初、オーシャンゲート社は「自社で潜水艇を建造するつもりは全くなかった」という。しかし、手頃な潜水艇でタイタニック号のある深度まで乗船者を運ぶことを目指していた同氏とラッシュ氏は、そのような潜水艇を建造できる潜水艦メーカーがないことに気づき、自社で独自に建造することを思い立つ。その素材として両氏が着目したのがカーボンファイバーだった。
カーボンファイバー使用のリスク
もっとも、アメリカ船級協会の技術者ロイ・トーマス氏は、船体にカーボンファイバーを使用するリスクについてこう証言している。
「船体は外圧に耐えうる丈夫な材料で作られることが重要で、その材料には鋼鉄、アルミニウム、チタン、窓用のアクリル樹脂が含まれる。カーボンファイバーは外圧に晒されると耐久性が悪く、疲労損傷を受けやすい。また、損傷は隠れたままになる可能性がある。製造上の欠陥も懸念事項だ。現在、人が乗船するためのカーボンファイバー製の船体に関して認められている国内基準や国際基準はない」
同協会は、船舶が特定の基準に準拠していることを確認する等級認定サービスを提供しているが、オーシャンゲート社は同協会に等級認定のリクエストをしなかった。
公聴会は残すところあと数日だが、どのような証言が出てくるのか、引き続き注目したい。
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