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米コロナ対策の元トップ、退職後に血税23億円相当の身辺警護を受ける マスク氏は起訴するよう主張

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
民間人となったファウチ博士だが、背後には、身辺警護人と思われる男性たちの姿も。(写真:REX/アフロ)

 第47代米国大統領に就任するトランプ氏により「米政府効率化省」のトップに任命されたイーロン・マスク氏。マスク氏は2兆ドル(約308兆円)の歳出削減を目標に掲げており、その実行可能性については疑問視する声もあがっているものの、早速、“X”で、報酬ゼロで週80時間以上、コスト削減に取り組むことができるIQの高い人材を募集した。

 マスク氏はどのような歳出を削減しようとしているのか? 同氏は14日、連邦政府が税金の無駄使いをしていることを批判してきた共和党上院議員のランド・ポール氏が作成した、900ビリオンドル(約139兆円)に及ぶ税金の無駄使いがされた2023年のプロジェクトのリスト(下)を“X”に投稿した。このリストの中で、ポール氏が問題視しているのは、医療研究プロジェクトや対外援助プロジェクト、公共情報プロジェクトへの歳出だ。医療研究プロジェクトでは、ポール氏は、米国立衛生研究所や国立アレルギー感染症研究所への歳出も問題視している。

上院議員のランド・ポール氏が作成した、2023年に税金が無駄使いされたプロジェクトのリスト。出典:paul.senate.gov
上院議員のランド・ポール氏が作成した、2023年に税金が無駄使いされたプロジェクトのリスト。出典:paul.senate.gov

民間人になったファウチ博士の身辺警護に23億円

 その国立アレルギー感染症研究所の元所長で、コロナ禍、新型コロナウイルス対策のトップとして対策を率いてきたアンソニー•ファウチ博士に関する新事実が浮かび上がり、保守系のメディアが報じている。

 米政府の支出を調査し、オンラインで公開しているNPO「オープン・ザ・ブックス」によると、2022年12月に国立アレルギー感染症研究所を退職したファウチ博士は、退職して民間人になったにもかかわらず、2023年1月4日から2024年9月20日の間、1,500万ドル(約23億円)相当の身辺警護サービスを受けていたというのだ。米国民の血税が同博士の身辺警護に充てられていたわけである。

 同サイトで公開されている覚書(MOU)には「この覚書は、国立アレルギー感染症研究所所長アンソニー・ファウチ博士の連邦職務からの引退前および引退後の身辺警護サービスに関する、米保健福祉省(HHS)、国立衛生研究所(NIH)、および米連邦保安官局(USMS)の義務と目標についての理解を規定するものである」と記されており、身辺警護サービスの推定コストとして1,500万ドルと記されている。

 大統領は退職して一市民になった後も身辺警護サービスを受けるが、元連邦職員の中にはファウチ博士のようなハイレベルの警護を受けている人は他に見つからなかったと、同サイトでは指摘されている。

身の危険を感じていたファウチ博士

 ファウチ博士が身辺警護サービスを受けたのは身の危険を感じていたからだろう。ファウチ博士は当初は「新型コロナ対策の顔」として米国でもてはやされていたが、マスク政策や社会的距離政策、ワクチン政策、ロックダウン政策など同氏の新型コロナ対策が問題視されたり、新型コロナ研究所流出説が浮上し研究所の安全性が問題視されたりしたことなどから批判の対象へと変わって行った。共和党下院議員の中からは「米コロナ対策の元トップは大量殺人罪で裁かれるべき」という声まであがり、6月に行われた、共和党主導の下院新型コロナウイルス感染症特別小委員会では、ファウチ博士は殺しの脅迫を受けたと以下のように吐露している。

「殺しの脅迫があり、2人が逮捕された。明らかに私を殺そうとしている人物がいたため、身辺警護が必要だった。妻と3人の娘が巻き込まれているため、とても困っている」

高額の給与と年金

 もっとも、「オープン・ザ・ブックス」は米国民の血税がファウチ博士の身辺警護にあてられたことを問題視しており、同博士が得ていた多額の給与や支払われている年金の額について「2019年から2022年まで、ファウチ博士は連邦職員としては最も高い給与を得ていた。ファウチ博士は48万654ドル(約7,400万円)という記録的な給与で連邦官僚機構から退職した。2022年のオープン・ザ・ブックスの推定では、彼の年金は年間約35万5000ドル(約5,500万円)で、彼が54年間の政府勤務で蓄積した1,100万ドル(約17億円)というかなりの財産に加算されることになる」と指摘、ファウチ博士の資産を持ってすれば、自身で民間の警護サービスを雇うことができるのではないかと見ているようだ。

 ちなみに、覚書には「この覚書は、両当事者の書面による同意により、将来の会計年度に向けて延長または更新される場合がある」とも記されていることから、今後も、ファウチ博士の身辺警護に多額の血税が注がれる可能性があるのかもしれない。

ファウチ博士の起訴を求める声が高まる

 ところで、トランプ氏が勝利後、MAGA支持者たちはファウチ博士の起訴を求める声を強めている。彼らは、ファウチ博士が新型コロナの起源に関する情報を隠蔽しようとしたり、パンデミックを引き起こした研究に資金提供をしたりしたと主張してきた。

 米保健福祉省長官に任命された、ロバート・ケネディ・ジュニア氏も、2023年にフォックスニュースで「もし彼(ファウチ博士のこと)が犯罪を犯していたら、もちろん私は司法長官に彼を起訴するように言うだろう」とコメントしている。
 マスク氏もファウチ博士の起訴を求める主張をしていたが、今回、1,500万ドルがファウチ博士の身辺警護にあてられたという“X”での投稿に対し、あらためて、同博士の起訴を求める主張を投稿(下)している。

 もっとも、起訴に関してはトランプ氏は言及しておらず、起訴される可能性も低いと思われるが、連邦政府の無駄な歳出にメスを入れようとしているマスク氏にとっては、ファウチ博士は歳出削減のためのかっこうのターゲットと言えそうだ。マスク氏がどのようなプロジェクトを対象にして、歳出を削減するのか注目されるところである。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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