住民税非課税世帯への3万円給付案と「住民税非課税世帯の壁」問題
政府が今月内に策定する総合経済対策で、住民税非課税世帯1世帯当たり3万円(子どものいる世帯には1人当たり2万円加算)を給付する方向で検討に入ったことが報道(低所得世帯へ3万円給付 来年1~3月、電気・ガス代支援再開―補正予算13兆円超、23年度上回る・経済対策(時事通信 2024年11月13日))されると、相変わらず低所得世帯=住民税非課税世帯とみなすことで、基本的には物価スライドで名目額がある程度保障される公的年金という安定的な収入と金融資産を保有する高齢者世帯も「低所得者」とされ、給付金が配られることへの不満が高まり、国民の多くが給付金政策に対して否定的となっています。
低所得世帯への3万円支給67%が評価せず(共同通信 2024年11月17日)
しかし、住民税非課税世帯を低所得世帯とみなすと、その4世帯のうち3世帯が高齢者世帯になってしまうというバグは確かに存在しますが、住民税非課税世帯の中には、当然、子育て中の現役世帯の低所得世帯が含まれるという事実を見逃してはなりません。
政府が物価対策として低所得世帯に給付金3万円を支給する政策ですが、現役の勤労世帯で住民税非課税世帯に該当するであろう年間収入200万円未満世帯にとって給付額が十分であるか、支給対象とはならないものの年間収入が低い世帯との不公平が生じないかという視点で政策の是非を考えることも必要でしょう。
総務省統計局「家計調査」によれば、平均的な勤労者世帯・年間収入200万円未満世帯(ほぼ夫婦と子ども一人弱からなる世帯)では、物価上昇(内閣府「令和6(2024)年度経済見通し年央試算」における2024年消費者物価指数の上昇率2.8%)による負担増加額は年間平均5.3万円程度と推計されますので、給付額は4.5万円(3万円+2万円×0.75人)となり、やや不足もしくはほぼ適切との結果が得られます。
問題は、住民税非課税世帯ではないものの、さりとて年収が十分ではない低年収の世帯とのバランスです。
表2は、先の年間収入200万円未満の世帯に加えて、年間収入250万円未満の勤労者世帯と同じく300万円未満の勤労者世帯のインフレによる負担増加額を試算したものです。
年間収入200万円~300万円未満の勤労者世帯の多くは住民税非課税世帯に該当せず、給付金を受け取ることができませんから、物価高による負担増だけが重くのしかかることとなります。
いま話題の「103万円の壁」や「106万円の壁」と同じく、所得要件が絡むと、どうしても「壁」が発生してしまいます。
今回の給付の件で言えば、住民税非課税世帯に該当する年間収入200万円未満の世帯では給付が受けられる一方、200万円以上300万円未満の勤労者世帯の多くは負担増が大きくても住民税非課税世帯とはみなされないことから給付を受け取れず、さすがに実質収入額での逆転はないものの一種の「住民税非課税世帯の壁」問題が発生することになります。
実際、年間収入に対する負担増加額の比率でみると、この「住民税非課税世帯の壁」は一層際立ち、給付前には年間収入200万円未満、200~250万円未満、250~300万円未満世帯の年間収入に対する負担増加額の比率はそれぞれ3.4%、3.1%、2.7%だったものが、住民税非課税世帯への3万円の給付により年間収入200万円未満の世帯だけ0.5%と著しく軽減されますが、200~250万円未満、250~300万円未満世帯は給付がなく負担増が据え置かれることとなりますから、「住民税非課税世帯の壁」により不公平感が高まることになるものと思われます。
なお、表3として参考までに年間収入階級別・勤労者世帯の物価高による負担増加額及び年間収入に占める負担増加額の割合の試算値を掲載しておきます。