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兵庫県知事選で県内22市長が稲村和美氏支持を表明するも落選 法的責任は? #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

兵庫県知事選は斎藤元彦前知事が失職からの劇的な返り咲きを果たしました。一方、落選した稲村和美・前尼崎市長を巡っては、市長会有志による投票3日前の異例の支持表明が改めて問題視されることでしょう。県内22人の市長が稲村氏支持を表明した上、うち7市長が県庁で記者会見を開いたというものです。この件を巡る法的責任について、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「市長会会長(中略)丹波篠山市長(中略)は(中略)『混乱を収束し新たな県政を前に進めるのは稲村和美さんが適任である』と話した」
出典:産経新聞 2024/11/14(木)

「公務員(中略)は、その地位を利用して、選挙運動はできません。また、地位利用による選挙類似行為もできません」
出典:加古川市 2019/12/23(月)

「地元の首長が(中略)支持しているとなれば、有権者も(中略)なびく可能性は大きい」「投票に大きな影響を与える」
出典:FLASH 2024/7/24(水)

「県選管は(中略)公職選挙法には抵触しないとの見解を取材に明らかにした」「他の公務員や業者らに投票を呼びかけた地位利用ではない」
出典:JCASTニュース 2024/11/15(金)

エキスパートの補足・見解

公職選挙法では公務員の地位を利用した選挙運動が禁止されています。違反したら最高で禁錮2年、罰金だと30万円以下に処されます。7月の都知事選を巡る小池百合子知事や10月の衆院選を巡る福岡県議会議長らのように市民から刑事告発された例もあります。22市長らも同様に刑事告発されることが予想されます。

その場合、「地位を利用」すなわち市長の権限に基づく影響力や便益を利用するなど、職務上の地位がその行為と結びついているといえるか否か、また、「選挙運動」すなわち稲村氏の当選に向けた票集めとして、直接・間接に必要で有利な行為といえるか否かが捜査の焦点となります。

県選管はそれらにはあたらないと述べていますが、行政解釈にすぎないので、もし刑事告発されたら、市長らによる行為の実態を踏まえた上で、検察において改めて違法性の有無を検討する必要があります。

たとえ不起訴になっても、検察審査会に審査を申し立てられることでしょう。市長らは県政の混乱を収束したいと述べていましたが、法的責任とは別に彼らの政治責任を問う声もあり、かえって混乱の様相を呈する結果となりそうです。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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