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タイタン号は潜水地点まで古く安価な小型母船に牽引された 事故背景に運航会社のコスト削減策か 米紙

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
潜水場所まで母船に牽引されて運ばれたタイタン号。出典:express.co.uk

 潜水艇タイタン号沈没事故から1ヶ月。 

 事故原因に繋がる可能性があるものとして、タイタン号を潜水場所まで運ぶのに使用されていた母船「ポーラー・プリンス」の問題が新たに浮上している。その背景には、タイタン号を運航していたオーシャンゲート社のコスト削減策があったようだ。米紙ニューヨーク・タイムズが母船の問題やコスト削減策、船体の形状の問題などについて分析している。

母船に載せられず、牽引されたタイタン号

 母船「ポーラー・プリンス」の問題とは何なのか?

 通常、タイタン号のような潜水艇は、専用の母船に積まれて、潜水地点で大型クレーンを使って海中に降ろされる。しかし、オーシャンゲート社がタイタン号を潜水地点まで運ぶのに借りていた母船「ポーラー・プリンス」は小型だったため、タイタン号をデッキに搭載することが難しく、タイタン号は浮くプラットフォームに載せられ、「ポーラー・プリンス」に牽引されて運ばれたというのだ。タイタニック探検ツアーの出発地点のニューファンドランド島から潜水場所までは3日間もかかる。タイタン号は非常に長い航路を母船に牽引されて運ばれたことになる。

 しかも、タイタン号の扱われ方にも問題があったようだ。5月にタイタニック号探検ツアーに参加したトラベル・ウィークリー編集長のアーニー・ワイスマン氏は「潜水艇とプラットフォームは日々かなり乱暴に扱われていると思っていた」と述べている。

 ニューヨーク・タイムズは、小型母船で運ばれたタイタン号の船体が損傷を受けていた可能性があるのではないかとオーシャンゲート社に問うたが、同社から回答を得られなかったという。

事故の背景にコスト削減策か

 なぜ、オーシャンゲート社は小型母船でタイタン号を牽引して運んだのか? 

 背景には、同社のコスト削減策があると同紙は指摘している。同社は、2023年のツアーは、それ以前のツアーで使用していた母船よりも古く安価な小型母船をレンタルすることで、コストを削減しようとしていたというのだ。

 前述のワイスマン氏も体験談の中で「潜水に関する多くの問題は、初めて、タイタン号が母船のデッキに搭載されるのではなく、母船に牽引されたシーズンだったために生じた可能性がある」と今回のツアーで亡くなった参加者の1人に話している。

 オーシャンゲート社CEOのストックトン・ラッシュ氏は潜水艇の製造コストの削減も図っていたようだ。

 ワイスマン氏はラッシュ氏が「タイタン号の製造に使用されたカーボン・ファイバーはボーイング社から大幅な割引価格で入手したものだ。なぜならそれは航空機での使用期限が切れていたからだ」と話したと述べている。

 通常、船体には高価なチタニウムが使用されているが、ラッシュ氏はタイタン号の船体の中央部分に安価なカーボン・ファイバーを使用することでコスト削減を図ったわけである。

円筒型という船体の形状が問題か

 ニューヨーク・タイムズはまた、船体の設計にも欠陥があったのではないかという専門家の指摘も紹介している。ラッシュ氏は船体の形状には、潜水艇に採用されている球体型ではなく、業界標準からかけ離れている円筒型を採用していた。それについて、金属や炭素繊維の分析を行ってきた法医学金属学者のティム・フェック博士は、タイタン号の事故の背景には、船体の形状を球体から長い筒状に変更したことが関与した可能性があると分析している。

 球体の船体の場合、船体の表面にかかる水圧(1平方インチの面積あたり3トンの水圧がかかる)は均等に分散されるため、タイタニック号の残骸がある水深約3,800メートル地点でも変形しにくいが、球体以外の船体の場合は水圧が不均等に分散されるため変形して壊れる可能性があるというのだ。タイタン号のような円筒型の形状の場合、ソーダ缶が潰れるような壊れ方をする可能性があるという。

 また、タイタン号の場合、5人収容可能な大型の船体だったことから、3人収容可能な小型の船体が受けるのと同じ水圧に耐えるには、船体を厚く、強固にする必要があったともフェック博士は述べている。

異なる素材の接合部が破損か

 船体中央部がカーボン・ファイバー製で船体両端の半球型の部分はチタニウム製というように、船体が異なる素材で結合されていたことも問題視されている。水圧がかかる状況下、異なる素材は異なる速度で形状が変化するため、接合部分が破損する可能性が高くなるというのだ。

 また、水分や海塩が接合部分の接着剤を劣化させた可能性やウィンドウのアクリルとチタニウムの接合部分が破損した可能性もあるという。

 ラッシュ氏は潜水艇の検査にかかるコストも節約していたようだ。

 潜水艇所有者の多くは専門機関に高額なコストを払って潜水艇の検査をしてもらい、安全性の認証を得ているのに対し、ラッシュ氏はイノベーションのために既存の基準に従わず、カーボン・ファイバーとチタニウムを組み合わせるというルール破りをして、潜水艇の安全性の認証を受けていなかった。

 連邦政府の調査員は事故原因の究明には最大18ヶ月かかると話しているというが、決定的な事故原因に辿り着くことができるのか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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