Yahoo!ニュース

「民主主義の定義は? 君はコミュニストか」とトランプ支持者に凄まれた件 右傾化する米国

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
共和党は一般投票でも20年ぶりに民主党を凌いだ。画像:2024 AP

 米大統領選で、トランプ氏が激戦州7州全てを制覇した。

 7州の中でもミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州の3州は伝統的に民主党が強かったが、今回は総崩れとなった。ミシガン州出身の映画監督マイケル・ムーア氏は9月、大統領選ではハリス氏が勝利するとの予測を出し、「トランプは終わりだ」とも述べていたが、希望的観測で終わってしまった。

民主党の牙城でも善戦したトランプ氏

 トランプ氏が善戦したのは激戦州だけではない。民主党の牙城カリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州でも、同氏は得票率を伸ばした。

 NBCニュースによると、筆者が住むカリフォルニア州の場合、2016年の大統領選ではヒラリー・クリントン氏が62%、トランプ氏が33%を得票、2020年の大統領選はバイデン氏が64%、トランプ氏が35%を得票したのに対し、今回、ハリス氏の得票率は58.2%と60%を切り、トランプ氏は逆に38.9%と得票率を伸ばした。近くの大通りでは、TRUMP旗を掲げた10台ほどの車が、クラクションを鳴らしながらクルージングし、トランプ氏の勝利を祝う光景も見られた。

 以前取材したマンハッタン・リパブリカン・パーティーからは「ニューヨーク州は明らかに、もはやブルーではなく、パープルになりました。トランプはニューヨーク州で2020年よりも約12%ポイントいいパフォーマンスをしました」と書かれたメールが送られてきた。

 青い州を含め、全米的に右傾化が見られた大統領選となった。

アメリカから成功や自由ややる気が失われた

 右傾化した民主党の牙城だが、筆者は、それを予感させる出来事に遭遇していた。

 投票日前日のこと、サンタモニカの海岸近くの大通りに「TRUMP 2024」と書かれた大きな旗をはためかせているBMWが駐車していた。民主党支持者がマジョリティーのロサンゼルスにも、当然だがトランプ支持者はいるから不思議ではない。しかし、ロサンゼルスの中でもリベラルな地域で、「People's Republic of Santa Monica(サンタモニカ人民共和国)」と呼ばれることもあるサンタモニカに駐車しているからか、通りを歩いていた人々はちょっと奇異な視線を投げかけていた。ある女性は通り過ぎ様、「トランプが大統領になったら、アメリカは大惨事になるわよね」と筆者に同意を求めるような一言を投げ、肩をすくめた。

ロサンゼルスでもリベラルな地域であるサンタモニカの公園で、TRUMP旗を掲げて、トランプ氏を応援していたヒスパニック系のパブロさん。筆者撮影
ロサンゼルスでもリベラルな地域であるサンタモニカの公園で、TRUMP旗を掲げて、トランプ氏を応援していたヒスパニック系のパブロさん。筆者撮影

 どんな理由でトランプ氏を支持しているのか。運転席に座っている男性に声をかけた。見ると、男性が着ている黒いTシャツにも大きなTRUMPの文字。男性は南米から移民してきたヒスパニックのパブロさん(45歳)。投資関係の仕事をしているという。パブロさんはトランプ氏を支持する理由をこう話す。

「アメリカに移住して、機会が与えられ、やりたいことをやって、一生懸命働いてきた。しかし、今ではそんなことができなくなっている。人は政府の助けに依存し、アメリカから自由の精神がなくなっている。自由に自己実現することができなくなっていると感じるんだ。トランプが大統領の時のような成功や自由ややる気がアメリカから失われている。それを取り戻したいからトランプを応援しているんだ。彼なら今のアメリカを救うことができると思う。

 トランプ時代はアメリカは良い方向へ向かっていた。人はトランプ時代が良かったことを覚えているはずだ。それがこの4年で失われてしまった。この4年、アメリカの人々は幸せを感じなくなっている。食品の値段は3倍になった。ガソリン価格も急騰した。不法移民も多数流入している。今のシステムでは問題に対処できない。ヒスパニックは確かに民主党に投票する傾向はある。しかし、それはメディアが作り出したことだ。彼らはヒスパニックや黒人は民主党に入れると決めつけている。そんなことはないんだ。ヒスパニックはアメリカの人々のようによく働く。よく働く人々は共和党を支援したいと思っているはずだ。今年ほど、ヒスパニックや黒人が共和党に投票する大統領選はないだろう。僕は2016年から毎回トランプに入れている。彼はビジネスで成功し、愛されていた。それなのに、彼はメディアによって人種差別主義者や悪人にされてしまった」

民主主義の定義は?

 パブロさんが掲げているTRUMP旗の写真を撮っていると、背後に1台のオートバイがとまった。60~70代と思しき男性が乗っていて、じーっとこちらを見ていた。この男性も筆者同様、反トランプが多いこの地域で堂々と「TRUMP」を支援しているパブロさんに興味を抱いたのだろうと筆者は思った。

 この男性にも話をきいてみようと、声をかけた。男性が筆者にたずねた。「なぜ、車の写真を撮っているんだ?」 筆者が「反トランプが多い青い州で、トランプを支持していることに興味を持って」と答えると男性の表情は曇り、こう言う。「私の父はハンガリーからアメリカに移民してきた。ある出来事が起きたからね。ハンガリーで1957年に起きた出来事を知っているかね?」 はて、何だっけ? 答えに困っていると、男性は「君は歴史を勉強したのか?」とあきれた顔で畳み掛けてきた。

 そして、筆者にきく。「君はここはハリス支持者が多いと言うが、なぜ多いと思う?」 筆者が「ハリス氏は民主主義を守ると訴えているからでしょう」と答えると、男性は攻めるような口調でこうきいた。「民主主義とは何だ? 民主主義の定義を教えてくれ」 民主主義とは? あらためてそうきかれると、即答できない。「民主主義の定義は何だね?」 男性の口調が凄みを帯びてきた。先生に叱られている生徒のような気持ちになった。男性の目は明らかに“今のアメリカに民主主義なんてないだろ”と訴えていた。この男性もパブロさん同様、トランプ氏を支持しているのだ。察した筆者はきいた。「明日はトランプに投票するんでしょうか?」 男性の口調は今にも怒り出しそうな激しいトーンに変わった。「なぜそんなことをきく? どこの国から来た? 君はコミュニストか?」 誰に投票しようが自由だろ。そう言わんばかりに。

トランプ氏を圧勝に導いた、ある思い

 1957年、ハンガリーで何が起きたのか? 帰宅して調べた。それは「ハンガリー動乱」だった。1956年10月23日、ハンガリーで、学生や労働者が民主化やソ連軍撤退を求めて全国規模でデモ行進をしたり、暴動を起こしたりした。ハンガリー政府の要請でソ連軍は鎮圧に乗り出し、それにより約2,700人の市民が犠牲となり、20万人以上が難民となって西側に亡命した。男性の父親も難民となってアメリカに移民してきたのだろう。男性はコミュニストを憎んでいたのだ。

 民主党はしばしば“コミュニスト視”される。トランプ氏もハリス氏のことを「自由な気風の国を共産主義的な国に変えたがっている」と批判していた。パブロさんも、この男性もそう感じていたのだろう。

 選挙演説では民主主義を守る重要性を訴えていたハリス氏。しかし、同氏はリベラル過ぎることが批判されていた。トランプ支持者からはコミュニストとまで極端視されていた。自由の国アメリカをコミュニストに支配させてはならない。そんな思いも、トランプ氏を圧勝へと導いたのかもしれない。

(飯塚真紀子・著 米大統領選関連記事:Yahoo!ニュース エキスパート )

民主主義より“明日のおまんま”か ハリス氏惨敗の決定的要因とは? 米大統領選 #専門家のまとめ

「私はかなりリードしているが、悪いことが起きれば負ける可能性も」トランプ氏 いよいよ決戦 米大統領選

ハリスが国民的テレビ番組に出演、トランプを嘲る 連邦通信委員会委員は「ルール違反」と批判 米大統領選

元インターンが見たハリス氏の“おぞましい一面” 目も合わせられなかった! 暴露記事が指摘 米大統領選

マックでポテトを揚げたトランプ氏に非難囂々 格好が何か変! おわかりいただけただろうか? 米大統領選

「トランプ氏の認知機能の低下は加速している」識者 奇妙な言動にインタビューのキャンセルも 米大統領選

ハリスが負ける4つの理由 トランプを勝利に導く“それ”とは? 民主党選挙工作員が指摘 米大統領選

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事