Yahoo!ニュース

「フリーフォールやスピンが発生。タイタニック号の残骸にも絡まった」乗船者 潜水艇タイタン事故公聴会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 アメリカでは、9月16日から、昨年6月に豪華客船タイタニック号の残骸見学ツアーに向かう途中で爆縮し、5名の乗船者が亡くなった潜水艇タイタンの事故を審理するための公聴会が行われており、タイタンを運航していたオーシャンゲート社の元関係者たちが証言している。

実験船で、危険なことは明らかだった

 9月20日は、タイタンで2回潜水したミッション・スペシャリスト(オーシャンゲート社は乗船者をそう呼んでいた)のフレッド・ハーゲン氏が証言した。同氏は、潜水の際、タイタンが実験船で、認証を受けていないことはわかっており、深海への潜水にはリスクがあることを理解していたとして、こう述べている。

「タイタンで深海まで潜るのを安全だと感じていた人は、錯覚していたか、妄想に陥っていたのだ。タイタンは実験船であり、危険であることは明らかだった。タイタンでの潜水は安全ではなかったし、安全であるはずもなかった」

 さらには、「(深海への潜水は)飛行機から飛び降りるようなものだ。人は安全だから飛び降りるのではなく、アドレナリンが出るから飛び降りるのだ」と深海に潜る行為を飛行機から飛び降りる行為に準え、「私はまた潜っただろう。私たちは安全を求めて潜っていたのではなく、冒険と探検を求めて潜っていた」と潜水は冒険のために行っていたとの考えを示した。

フリーフォールやスピンが発生

 リスクがあることを承知の上で潜水したというハーゲン氏は、実際、いくつかのトラブルに直面している。2021年のこと、潜水の数日前、クレーンのオペレーターが突然手を離したため潜水艇がデッキに叩きつけられ、その衝撃から複数のボルトが弾丸のように飛び出し、チタン製のドームが落下した出来事があったという。同氏は、重量3,500ポンドのチタン製のドームには18本のボルトのうち4本しか取り付けられていなかったことや、潜水中にタイタンがバランスを崩し、約2時間半、フリーフォールしたことにも言及した。また、通信が不安定なためタイタンがコースを外れ、コースに戻るために推進機を作動させたところ、右舷の推進機が故障し、クルクルとスピンしたという。

 また、同氏は、2022年に、タイタニック号の残骸を見るために潜水した際に、タイタンは、1〜2分間、タイタニック号の残骸に絡まってしまったとも述べた。

 しかし、同氏は「ラッシュ氏は、危険度の高い環境で安全を順守するために努力をしていた」とラッシュ氏を擁護する姿勢も見せた。

認定を受けていないことを懸念

 オーシャンゲート社に潜水艇を販売していた、トリトン・サブマリンズ社CEOのパトリック・レイヒー氏は、同社が潜水艇の認定をしてもらっていないことを懸念していたと証言した。2019年3月に、バハマでタイタンを見た際に、重りを固定するためのやり方が素人っぽく見えたことから「潜水には人を乗せないだろうと思ったが、明らかに私は彼らの不退転さを過小評価していた」と回想している。

 レイヒー氏はまた、ラッシュ氏は、潜水艇の認定は時間の無駄で、イノベーションの妨げになると感じていたと言及、「人は、実験用ではなく、認定された機械で深海を探索し続ける必要がある。深海に実験用機械を置く余地はない」と潜水艇が認定を受ける重要性を訴えた。

懸念を無視する企業文化

 オーシャンゲート社のエンジニアリングのコントラクターだったアントネラ・ウィルビー氏は、2022年7月、タイタニック号の残骸に向けて潜水中、タイタンの航海システムと音響通信システムの一部が故障した出来事について証言した。うるさい音がするという乗船者の懸念を同社に提起した同氏は「態度が悪い。君は探検家としての心構えがない。私たちは革新的でカウボーイだが、多くの人はそれを受け入れられない」と言われ、最終的には通信・航海チームから外されたという。同氏は「この業務のどの側面をとっても安全とは思えなかった。具体的な質問に対して、実際の設計上の決定やデータ、分析ではなく、会社の創設者が欲していることだけを答えるのは危険信号に思えた」と懸念を無視する企業文化を問題視している。

ガラス球の使用をめぐって対立

 オーシャンゲート社にエンジニアリングのサポートをしていたワシントン大学応用物理学研究所のデイブ・ダイアー氏も証言した。同氏は、オーシャンゲート社のエンジニアと仕事上の対立が起きたため、協力関係を解消した。タイタンのガラス球にはモーターコントローラーが収納されており、圧力容器の外側にあったが、対立の一つは、ガラス球をタイタンに使用することをめぐって起きたという。

 ダイヤー氏は「ガラス球は業界で使用されており、優れていて信頼性が高いが、予期せぬ故障が起きることがあり、それは通常かなり深い場所で発生する。有人船にガラス球を使うことは、彼らが潜水しようとしている深度には好ましくなかった。その深度でガラス球が破裂すれば壊滅的になるだろう」と述べた。実際、同氏は、深海での作業にガラス球を使った研究者から、ガラス球が故障して船体全部が損なわれたという話を聞いていたという。

 次々と明るみに出されるタイタンやオーシャンゲート社が抱えていた問題。これらの問題はタイタンの事故原因に繋がるのか? 今週も引き続き行われる公聴会での証言も注目されるところだ。

(潜水艇タイタン沈没事故関連記事)

「乗船者は転げ回り、逆さ吊りになった」「沈没船に激突」恐るべき証言続々 潜水艇タイタン事故公聴会

乗船者は死ぬとわかって恐怖に襲われていたのか? 潜水艇タイタンからの“最後の通信”が明らかにしたこと

「死ぬとわかった乗船者は恐怖と精神的苦痛に襲われていた」 潜水艇タイタン号事故で73億円損害賠償訴訟

「運航会社CEOはタイタン号の悲惨な運命がわかっていた。歴史に名を残したかった殺人者」友人が激白

タイタン号は潜水地点まで古く安価な小型母船に牽引された 事故背景に運航会社のコスト削減策か 米紙

潜水艇タイタン号に起きたことを再現した3D動画、YouTubeで1000万回超再生

「緊急事態のタイタン号が発見されなかったら、とにかく死ぬね」運航会社CEOは事故を予言していた!?

「360度スピンし、生還できないと思った」乗船者 タイタン号は推進機トラブルで制御不能に陥っていた!

恐るべし! タイタン号運航会社は来年のタイタニック探検ツアーを今もウェブサイトで宣伝中!?

「通りを渡るより安全」とタイタニック探検ツアー参加を促した運航会社CEOの“ヤバ過ぎる危機意識”

潜水艇専門家がタイタン号できいた“ヤバい音”を、運航会社CEOは「惨事が迫るものでは全然ない」と軽視

「タイタン号に使用したのは大割引で入手した使用期限切れの航空機用素材」運航会社CEOが生前言及 米誌

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事