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「乗船者は転げ回り、逆さ吊りになった」「沈没船に激突」恐るべき証言続々 潜水艇タイタン事故公聴会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米沿岸警備隊海洋調査委員会が公開した潜水艇の残骸。画像:cnn.com

 アメリカでは、9月16日から、昨年6月に豪華客船タイタニック号の残骸見学ツアーに向かう途中で爆縮した潜水艇タイタンの事故を審理するための公聴会が行われている。関係者たちが、潜水艇で起きた問題やタイタンを運営していたオーシャンゲート社CEOのストックトン・ラッシュ氏の態度に関する様々な証言を行っている。

乗船者は転げ回り、逆さ吊りになった

 19日には、オーシャンゲート社の科学部長スティーブン・ロス氏が、タイタンは事故の6日前の6月12日に故障していたと証言した。タイタニック号の残骸があるところから約460マイルの地点で潜水中にプラットフォームが故障したため、乗船者5人が少なくとも1時間、潜水艇の後部に叩きつけられた状態だったという。操縦していたのはラッシュ氏だった。

 ロス氏は「ラッシュ氏は後部隔壁に衝突し、残りの乗船者は転げ回った。私は最後は後部隔壁に立ったが、乗船者の1人は逆さ吊りになり、他の2人は船首のエンドキャップに何とか体を押し込んでいた。負傷者はいなかったが、不快な体験だった」とロス氏は故障時の潜水艇内での様子を述べた。

 プラットフォームの故障の修復にはかなりの時間がかかるため、潜水は中止され、水面に戻ったという。また、ラッシュ氏は、この故障後にタイタンの安全性の評価や船体の検査が行われたかどうかはわからないと話している。

 ロス氏はまた、2022年のタイタニック号の残骸見学ツアーの潜水中に起きた2件の出来事についても説明した。そのうち1件では、浮上中に大きな音が聞こえたので、その音は船体が金属製のクレードル内でズレて元の位置に戻った時に生じたのではないかと乗組員たちと話し合ったという。また、もう1件では、推進機に不具合があったと言及している。

沈没船の残骸に突っ込み、パニック化

 公聴会では、 2018年に解雇されるまでオーシャンゲート社で海洋オペレーションを担当していたデビッド・ロックリッジ氏が17日に行った証言も注目された。同氏は、2016年に、ラッシュ氏が潜水中に引き起こした激突事故とその時にラッシュ氏がみせた態度について説明した。

 この潜水で、ラッシュ氏は、沈没船アンドレア・ドーリア号に向かってサイクロプス1潜水艇を操縦していたが、流れを無視したり、アンドレア・ドーリア号から距離を置いたりなどのミスをしたため、ロックリッジ氏はラッシュ氏を助けようとしたが、ラッシュ氏は抵抗、潜水艇を全速力でアンドレア・ドーリア号の残骸に突っ込んでしまったという。その時のラッシュ氏の様子について、ロックリッジ氏は「彼の態度はプロフェッショナルではなかった。彼はパニックに陥り、最初に『船内に十分な生命維持装置があるのか』ときいた。スタックした、スタックした、スタックしたと彼は言った」とラッシュ氏の慌てぶりについて証言した。

 ロックリッジ氏はラッシュ氏にコントローラーを渡すよう言ったが、ラッシュ氏は拒否したという。ロックリッジ氏はその潜水艇に同乗していたレナータ・ロハス氏の様子についても「彼女はストックトン氏に向かって、コントローラーを(私に)渡すようにと叫んだ。彼女の目に涙を浮かべていた」と述べている。ラッシュ氏はその要求に応じ、プレイステーションのコントローラーをロックリッジ氏に投げつけたが、コントローラーはロックリッジ氏の右側の頭部に直撃したという。

 もっとも、ロハス氏はロックリッジ氏のこの証言について「彼は別の潜水での出来事を話しているのではないか。コントローラーをロックリッジ氏に渡すようラッシュ氏に頼んだのは私ではない」と言って否定しており、ロックリッジ氏とロハス氏の証言には矛盾が生じている。

 公聴会は9月26日まで行われるが、事故原因の究明に繋がる新たな証言が出てくるのか注目される。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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