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トランプ氏は「レイプ犯で徴兵逃れの卑怯者」と高校教師が授業中に暴言 生徒は支援 米大統領選の余波

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ批判の暴言を吐いて休職処分となった教師を支援する生徒たち。画像:KTLA

 大統領選で圧勝し、第47代米国大統領に就任するトランプ氏。しかし、アメリカには、今、トランプ氏圧勝の余波が打ち寄せている。

 カリフォルニア州リバーサイド郡のヴァレー・ヴュー高校の歴史教師マキシミリアーノ・ペレス氏が、トランプ氏が勝利後の11月6日、授業中に、トランプ氏のことを「レイプ犯で徴兵逃れの卑怯者」と批判する暴言を吐いたことが波紋を呼んでいる。生徒に録音されたペレス氏の暴言は、保守系のコメンテイターのコリー・デアンジェルス氏(下)により“X”で拡散され、現在、表示回数は1,660万回を超えている。

 デアンジェルス氏は投稿で「速報:トランプ氏が勝利したため、カリフォルニア州の公立学校の教師が授業中にパニックに陥った。彼はトランプ氏をヒトラーに例え、子供たちに強制収容所行きになるかもしれないと告げ、彼らを特権階級と呼び、カマラ氏は人種差別や性差別のせいで負けたなどと述べた」と説明しているが、ペレス氏はどんなことを話したのか?

トランプ氏はヒトラーの考えを体現

 同氏は、問題のヒトラーのくだりで、以下のように言及している。

「生きている間に強制収容所に入れられる可能性はあるか? ある。人権を奪われる可能性はあるか? ある。あなた方もそうだろうか? おそらくないだろう。それは良いことだが、ドナルド・トランプはヒトラーの言葉を引用したか? イエスだ。彼はヒトラーの考えの一部を体現しているだろうか? イエスだ」

 また、白人女性や黒人男性や褐色人種の男性がハリス氏に投票しなかったからトランプ氏は勝ったのであり、ラティーノの男性は自分たちの父親がトランプ氏にレイピスト呼ばわりされたのにトランプ氏に投票したと言及している。

「ドナルド・トランプが勝ったのは、投票率が低かったからだ…白人女性がカマラ・ハリスに投票に行かなかったからだ。黒人男性と褐色人種の男性がカマラ・ハリスに投票に行かなかったからだ。言っておくが、このキャンパスにはドナルド・トランプを愛しているラティーノの成人男性や男子学生がたくさんいる。トランプは彼らの母親をレイプ犯と呼んだ、父親をレイプ犯と呼んだが、彼らはトランプに投票した」

子宮を持っているハリス氏には投票しない

 また、ラティーノの男性たちは白人になりたがっており、自分たちを抑圧した男性(トランプ氏のこと)に投票すると述べている。

「白人になりたいと願っているラティーノの男性をたくさん知っている。彼らはそうとは認めていないがね。あなた方の父親の多くがそうだ。あなた方の叔父の多くがそうだ。あなた方の祖父の多くがそうだ。彼らは白人になりたがっているが、決して白人にはなれない。私はそんなくだらないことが大嫌いだ。家族の中の女性や自分の娘を抑圧するラティーノの男性が大嫌いだ。そして、彼らは、自分たちを抑圧した男性に投票する」

 さらに、ペレス氏は、メラニンや子宮を持つ女性のハリス氏に人々が投票しないことはわかっていたと訴えている。

「ジョー・バイデン氏が撤退し、カマラ氏が引き継いだとき、私は1週間ずっと泣き続けた。なぜなら、国で最高の候補が褐色肌の女性なので、人々は彼女に投票しないことがわかっていたからだ。白人や非白人の男性たちが、メラニンや子宮を持つ人以外なら誰にでも投票することはわかっていた」

生徒たちは教師の復職を求めて抗議

 ペレス氏はこれらの暴言により休職処分を受け、12日には、ヴァレー・ヴュー高校が所属するモレノ・ヴァレー統合学校区理事会で同氏の処遇が議論された。一部の保護者は、ペレス氏の不適切で人種差別的な発言は厳しい懲戒処分に値するとして、同氏の解雇を要求。 “X”でも「即刻解雇だ」「教師は自分の政治的信念を生徒に押しつけてはいけない」「言論の自由を絶対的に支持しているが、この教師は生徒を洗脳しようとして行き過ぎた行動をとった」などの厳しい声があがっている。

 一方、一部の生徒たちはペレス氏は生徒のこと気遣う献身的な教師だと支援し、学校の前では、授業をボイコットした数十人の生徒たちが抗議行動を起こしてペレス氏を復職させるよう学校側に訴えた。

 change.orgでも、生徒が「ペレス氏を呼び戻せ」とペレス氏の復職を要求する嘆願書を載せ、2,000名近くがそれに署名している。

プロフェッショナルの行動とは言えない

 ちなみに、カリフォルニア州では、2018年に、ある大学教授が、バーバラ・ブッシュ元大統領夫人の逝去に際し「あの鬼婆が死んで嬉しいわ」とツイートして非難を浴びた。しかし、ペレス氏の場合、未成年の生徒たちを前にした授業中での暴言である。保護者から厳しい声が出て当然だろう。

 嘆願書を載せた生徒も、その中で「ペレス氏の行動はとてもプロフェッショナルなものではなかった」と同氏の発言は問題だったと認めつつも、「私たちは彼の行動を擁護しているのではなく、ある男性(ペレス氏のこと)の人生と高校の生徒と教師の安全を守ろうとしているのだ」とペレス氏の復職を求め、デアンジェルス氏のツイートが拡散されたことで高校が危険に晒されていると訴えている。

トランプ氏圧勝に対する怒りか

 今回の大統領選では、2020年の大統領選時にトランプ氏が敗北を認めなかったのとは違い、バイデン氏はトランプ氏に対し平和的な政権移行をすると約束した。しかし、その影では、トランプ氏が圧勝したことに不満や怒りを抱き、フラストレーションを抱えている米国民も少なくないことだろう。ペレス氏はそんなフラストレーションを抑えきれず、生徒たちにそれをぶつけてしまったのかもしれない。

 青い州のカリフォルニア州の住民の中にもフラストレーションを抱えている者が数多くいることだろう。実際、嘆願書に署名した人々の署名理由を見ると「彼はまともな意見を述べたのだから休職にされるべきではなかったと思う。たとえ彼が教室で言ったことが間違いだったとしてもだ。この国の一部の人々は、今回の選挙について(ペレス氏と)同じことを考えている」とペレス氏の暴言に同意する声や「彼は情熱的で、トランプ氏の選挙運動での演説とは違い、彼の発言は正確だ。多分言いすぎだったとは思うが、彼の授業科目(歴史)からするとOKだろう。この国が34件の重罪を無視できるのなら、僕たちは語られた真実にどう反応すればいいのか」とトランプ氏に科された34件の重罪と比較する声があがっている。

 果たして、ペレス氏はどんな処遇を受けることになるか? 

 今回の大統領選では、激戦州7州のうちミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州の3州では民主党が敗北し、青い州から赤い州へと転換した。

 各州を構成している郡の中にも、青い郡から赤い郡へと転換する動きが見られた。カリフォルニア州でも、58ある郡のうち10の郡が、青い郡から赤い郡へと転換した。この高校があるリバーサイド郡も赤い郡へと転換した郡の一つだ。保守化した同郡のモレノ・ヴァレー統合学校区理事会はペレス氏を解雇するのか、それとも復職させるのか、同郡の判断に注目したい。

(飯塚真紀子・著 米大統領選関連記事:Yahoo!ニュース エキスパート )

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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