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井上尚弥に勝って再戦になれば15億円稼げると豪語するグッドマンの勝算

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
サム・グッドマン。21年の豪州フェザー級王座決定戦より(写真:フェイスブック)

スーパーフェザー級上位とスパー

 12月24日、東京・有明アリーナで行われるスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)vs.挑戦者IBF&WBO1位サム・グッドマン(豪州)のクリスマスイブ決戦までひと月あまりとなった。所属ジムでメキシコからパートナーを招へいしスパーリングに余念がない井上。そのうちの一人セバスチャン・エルナンデスは井上戦から復帰を目指して始動したルイス・ネリと手合わせした新鋭。激闘が展開されたネリ戦でコネクションが生まれたのではないかと勘ぐってしまうが、とにかく王者は調整に怠りはない。

 一方グッドマンは豪州メディア「ザ・オーストラリアン」によると、地元ニューサウスウェールズ州を離れて北上。ブリスベンでキャンプを実行している。こちらも実戦練習(スパーリング)が中心。ヘルプするのはジェイソン&アンドリューのマロニー双生児兄弟とスーパーフェザー級ランカーのリアム・ウィルソン(いずれも豪州)。2020年に井上に挑戦した前WBO世界バンタム級王者ジェイソン、昨年ラスベガスで中谷潤人(M.T)とWBO世界スーパーフライ級王座を争い、痛烈なKO負けを喫したアンドリューと日本でも知名度があるパートナーを起用。そして2階級上のスーパーフェザー級でWBO王者エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)に挑戦し健闘したウィルソンを相手に決戦に備えている。

 中でもウィルソンの存在は大きいと思われる。井上のパワーはスーパーフェザー級並み、もしかしたらライト級でも通用するともいわれるだけにグッドマンと陣営にとっては頼もしい。またジェイソンは来日して、井上の弟、井上拓真(大橋)からWBA世界バンタム級王座を奪取した堤聖也(角海老宝石)をサポートするなど日本選手の特徴を熟知しているのもプラス材料だ。

 ただ、これらの豪州人ランカーとのスパーリングでモンスター対策が十分かというと定かではない。すでに日数的に限りがあるが、新たに日本からパートナーを呼び寄せるプランがあるかもしれない。あるいは以前触れたように、米国へ渡り、優秀な選手たちを相手に最終調整を敢行することも想定される。または早めに来日して現在、真夏の豪州から日本の冬の気候に慣れながらコンディションを整えるのも妙案か。

ジェイソン・マロニー(左)とグッドマン(写真:フェイスブック)
ジェイソン・マロニー(左)とグッドマン(写真:フェイスブック)

サンタクロースになる!

 それでもグッドマンがどれだけ粉骨砕身の特訓を行っても井上の圧倒的な強さの前には無力に終わる結末が濃厚。それはグッドマンでなくともスーパーバンタム級すべての選手に指摘できることだが、当然のごとく彼は自身の勝利を信じて疑わない。

 「人々はイノウエは無敵だと言う。でも私は、ただ倒されるために行くのでない」「彼がどれだけ偉大な選手かわかっている。でも現状の戦力より強くなることはない」「彼に勝てば一夜にして人生が変わる」「これまでこのチャンスのためにすべてを捧げてきた」

 グッドマンは7月に地元で行ったチャイノイ・ウォラワット(タイ)とのノンタイトル12回戦で左拳を骨折。井上挑戦が不安視された。しかし本人は「完治した」と強調。同時に「(骨折は)2ヵ所だった」と明かしている。26歳の豪州人をヤル気にさせる最大の動機はズバリ、ファイトマネーだ。

 「クリスマスイブに私は自分でサンタクロースになる。イノウエに勝って比類なきチャンピオンになれば、イノウエとのリマッチが組まれるだろう。その試合で1000万ドルの報酬が得られる」

 1000万ドルとは今のレートで約15億円。チャンピオン、しかも4団体統一王者になってそれだけ稼げるとグッドマンは信じているのだ。

 一方で海外メディアも関心が高い井上のファイトマネーは前回のTJ・ドヘニー戦で推定約9億3000万円に達したと伝えられる。その3戦前のスティーブン・フルトン戦は井上が推定6億4000万円、フルトンが同じく3億8000万円といわれる。2団体統一王者だったフルトンは挑戦者(井上)よりも低額だったが、それまで最高額の3倍以上を得たと推測されるフルトンの報酬も破格だった。この金額が井上が対戦した外国人選手の最高額だろう。

見果てぬ夢かビッグサプライズか

 今回、指名挑戦者としてリングに上がるグッドマン(19勝8KO無敗)は長くそのポジションをキープしていることもあり、対戦交渉で強気に出たと思われる。それが一度交渉が流れ、ドヘニーにお鉢が回ってきた理由ではないだろうか。もし9月に井上に挑戦していたら、グッドマンの報酬は100万ドル(約1億5000万円)ぐらいだったといわれる。それが再交渉で上積みされたと推測される。だが、それはチャンピオンだったフルトンが得た額より少なく、おそらくその中間ぐらいだろう。ざっと見積もって150万ドル(約2億2500万円)周辺か。

 グッドマンと陣営が豪語する1000万ドルはその6倍から7倍の額。チャンピオン、それも井上を下して一気に比類なきチャンピオンに昇り詰めれば、それだけの値打ちがあるとアピールしている。捕らぬ狸の皮算用、見果てぬ夢に終わる可能性が大きいとはいえ、これ以上のモチベーションアップの手段はない。

 果たしてグッドマンは自身でサンタクロースになれるか?対決まで残された調整期間は正味1ヵ月。「ミスター指名挑戦者」で終わるか、井上を超えるリッチなボクサーに到達できるか。“ザ・ゴースト”(グッドマンのニックネーム)は幽霊のように消えてしまうのか、“モンスターバスター”が誕生するか。挑戦者の熱情がサプライズを呼び込む予感も漂う。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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