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不倫妻から孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。死に憑りつかれた男女の物語を前にして考えたこと

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が組まれた。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

 その「女優 菜 葉 菜 特集」は盛況の中、10月1日(日)に無事千秋楽を迎えたが、菜 葉 菜本人に訊く本インタビューはこのまま継続。

 ここからは番外編として改めて上映作品とともにこれまでのキャリア、そして今後について彼女に話を訊く。番外編全十回。

「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影
「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影

追い詰められた人間から「生と死」が浮かび上がってくる

 前回(番外編第七回はこちら)に続き、鎌田義孝監督と17年ぶりにタッグを組んだ今年2月公開の「TOCKA [タスカー]」の話から。

 同作は、実際に起きた嘱託殺人未遂事件をモチーフにした人間ドラマ。

 脚本の印象をこう明かす。

「なんともいえない気分になりました。

 社会の闇が垣間見えてくるようで、まったく口当たりがいい物語ではない。

 『YUMENO ユメノ』は、家族を殺されて失ったサイドに焦点を当てていますけど、今度は殺されることを望む人間とそれを託されて殺しを求められた男女に焦点を当てている。

 監督いわく、『YUMENO ユメノ』と対のような関係でひとつのアンサーになっているとおっしゃってましたけど、人間のダークなところを突く内容。もう希望も未来も抱けない、追い詰められた人間から『生と死』というテーマが痛烈に浮かび上がってくる。

 『生死』ということに鎌田監督の主眼があることを感じました。

 また、このダークな人間模様は、鎌田監督ならではだなと思いました」

登場する人物たちの気持ちを、『わかる』といってしまっていいのか

 作品は、ある理由から死を望む章二が主人公。自死ではなく誰かに殺されることを願う彼は、ある問題を抱えた早紀にそのことを頼み、そこに廃品回収業の青年・幸人も加わり、死に場所を探し、彷徨うことになる。

 死に憑りつかれてしまったような人間たちの物語になっている。

「どう受けとめていいか、わかりませんでした。

 登場する人物たちの気持ちを、『わかる』といってしまっていいのか、言いよどむし……。

 かといって、彼らの気持ちが『わからない』といってしまうのも、見捨てた感じになってしまうので違う。

 彼らの行いを正当化することも、否定することもちょっとできない。

 すごく難しいんですよね。

 ある意味、自分の人間性を試されるところがあって、はじめはどう受けとめたらいいか戸惑いましたね」

「TOCKA[タスカー]」より (c)2022KAMADA FILM
「TOCKA[タスカー]」より (c)2022KAMADA FILM

鎌田監督はどんな人間の存在も決して否定しない

 そこからどうやって物語を紐解いていったのだろうか?

「よく読んでいくと、鎌田監督のあたたかな視点が随所に入っていることに気づいたんです。

 たとえば、章二にしても、早紀にしても、幸人にしても成功とは無縁。いずれも苦境に立たされている。

 幸人など金に困って盗みもしているから決してほめられた人間でもない。

 ただ、鎌田監督はそういう人物もちゃんと愛情を注いでいて、存在を決して否定しない。存在を認めている。

 そういうことが脚本の端々に感じられるところがあった。

 これにはわたしもまったく同感で。すごく共感しました。

 たとえば、章二は死を望んでいる。そのこと自体は肯定できないのだけれど、でも章二という人物は認めてあげようということが脚本をよく読むと伝わってくる。

 また、監督とお話してもそのことがよくわかったんですね。

 その時点で、物語と登場する人物たちをきちんと受け止められた気がします」

彼女の苦しみや悲しみはしっかりと表現したい

 演じた早紀は、歌手になる夢破れて、いまは故郷に戻り、芸能とは関係ない仕事をする日々。死にたくなるところをぎりぎり踏みとどまっているぐらい生きる希望を失っている。

 彼女をどう考えただろうか?

「彼女のような境遇は見過ごせないというか。

 死にたいとまではいかないけど、生きる意味を見出せなくて、と思い悩んでいる方はけっこういらっしゃると思うんです。

 その彼女の苦しみや悲しみはしっかりと表現したいと思いました。

 一方で、早紀は章二と幸人との出会うことで、自分の生きる目標が見えたところがあって、そこから変わっていく。

 『生』というものを取り戻していくところがある。

 この『生』というものもしっかり彼女から感じられるものにしたいと思いました」

問題提起をすることを描くことはすごく勇気がいる

 作品についてこう振り返る。

「こういうひとつ問題提起をすることを描くことはすごく勇気がいることだと思います。

でも、いまの日本社会で実際にあったことであり、こういうことが起きても不思議ではない現実がいまある。

 そこから目を逸らしてはいけないし、現実としてあることをうけとめないといけない。

 わたし自身、生きるとは、死とは、生きる意味とは、人生とはなど、この作品を通して、いろいろと考える機会になりましたね」

(※番外編第九回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】

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【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】

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【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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