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不倫妻から毒母、孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。出演者全員に牙を剥き、敵視したダークヒロイン役とは?

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が組まれた。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

その「女優 菜 葉 菜 特集」は盛況の中、10月1日(日)に無事千秋楽を迎えたが、菜 葉 菜本人に訊く本インタビューはこのまま継続。

ここからは番外編として改めて上映作品とともにこれまでのキャリア、そして今後について彼女に話を訊く。番外編全十回。

「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影
「女優 菜 葉 菜 特集」の開催が無事終了した菜 葉 菜   筆者撮影

ものすごく余白がある脚本で、まず想像を掻き立てられた

 前回までの本編インタビュー(第十二回はこちら)は、浜野佐知監督の「雪子さんの足音」の話で終わった。

 同作が公開されたのは2019年になるが、同年には菜 葉 菜にとって念願が叶った映画があった。

 甲斐さやか監督の「赤い雪」だ。

 まず、この作品との出合いについて菜 葉 菜はこう明かす。

「まず、もう見ていただければわかると思うのですが、演じた早百合が強烈な人物で(苦笑)。

 なかなか周囲から理解されないタイプではあるんですけど、『この役、めちゃくちゃ面白そう!』と思いました。

 それから、甲斐監督の脚本があまり目にしたことがないというか、読んだことがないというか。

 すごく独特のスタイルの脚本で。言葉で説明するのがすごく難しいんですけど……。

 通常の脚本のようにひとつひとつのことが詳細に書かれているわけではない。

 ものすごく余白がある脚本で、まず想像を掻き立てられる。

 それでこと細かく書かれているわけではないんですけど、甲斐監督が描こうとしている世界や作品の全体のテーマといったことが最後にはものすごくこちらに伝わってくる。

 甲斐監督の世界観であったり作家性がひしひしと伝わってくるものだった。

 なので、早百合をまずは演じてみたいと思ったんですけど、同時に、こんな強烈な人物を考えつく甲斐監督の感性に興味を抱きました。

 さらに、この人物にどんな演出をして人物と成立させるのかにも興味を抱きました。甲斐監督の演出を受けるのも楽しみでした」

この方々とご一緒できるのかと思うと、武者震いが

 その後、さらに楽しみが広がったという。

「キャストですよね。

 永瀬正敏さん、井浦新さん、夏川結衣さん、佐藤浩市さんら錚々たる俳優のみなさんの出演が決まっていったんです。

 この方々とご一緒できるのかと思うと、武者震いするというか。心して挑まないとと思いました」

「赤い雪」より  (C)2019「赤い雪」製作委員会
「赤い雪」より  (C)2019「赤い雪」製作委員会

早百合は自分の想像の範ちゅうを越えた負の感情をもっている

 作品は、30年前に一人の少年が忽然と姿を消し、遺体で見つかった事件によって人生が狂った人間たちの物語。

 その少年の兄である一希(永瀬正敏)は、自分のせいだと思い込み、心に深い傷を負い、いまだに立ち直れていない。

 そんなときに、弟の誘拐の容疑者となった女性の一人娘で、事件を目撃している可能性のある早百合が見つかったことを、記者(井浦新)から伝え聞く。

 こうして30年の時を経て、一希と早百合は対峙することになり、思わぬ真実が明るみになっていく。

 菜 葉 菜の演じた早百合は不幸な境遇をたどってきた人物。もはや自らの境遇や人生に絶望するどころか、どうでもいいような状況で、社会にも周囲の人間にも憎悪しか抱いていない。

 この早百合をどう受け止めたのだろうか?

「自分の想像の範ちゅうを越えた負の感情をもっている人物なので、これはどう表現すれば正解なのか、悩みました。

 ですから、甲斐監督といろいろお話しして、早百合という人物の像を詰めていきました。

 わたしは当初、もう少し弱さを抱えている人物ではないかと想定したんです。

 自暴自棄で周囲を敵視するのも強がりで、その裏には弱さや寂しさがあるのではないかと。

 母親から虐待されて親の愛情を感じずに生きてきている人だから、たとえば他者からの好意も素直には受け取れない。拒否するんだけど、心の中ではちょっとは感謝しているというか。荒み切ってはいないと考えていたんです。

 ただ、甲斐監督からは『弱さはいりません』『泣かないでいいです』『モンスターでいてください』といったことを言われたんですよね。

 だから、ちょっと監督とわたしの間には考えの違いがあった。

 でも、作品を見て納得しました。早百合はもう完全にダークサイドに堕ちてしまった人間なんですよね。

 おそらく彼女の魂を救える人はいない。いや、彼女は救ってほしいとそもそも思っていない。

 もう自分に構ってくれるなで、ある意味、孤高の存在。

 これまで負のオーラをまとった役をいろいろと演じてきましたけど、早百合ほど腹の中がどす黒い、真っ黒な人物はいないかも(苦笑)。

 ここまで振り切ってダークサイドの感情を全開にした役はなかった気がする。

 だから、現場に入っている間、ものすごく孤独を感じていました。でも、寂しいじゃないです。

 なにがあっても独りで立っている感じ。周りには頼れないし、周りには流されない。ただ、独りで倒れないように立っている。

 もう早百合と一体化したところがあって、もちろん監督をはじめスタッフ、キャストのみなさんを菜 葉 菜としては信用している。でも、早百合としてはまったく信用してない。全員を敵視していました。

 たぶん共演者が、(佐藤)浩市さんをはじめキャリア豊富な先輩方だったので、温かく見守ってくださいましたけど、ほかだったら、『なんだあいつ』みたいになっていたかもしれません。

 でも、それぐらい周囲に牙を剥く感じになっていました。

 完全に『黒 菜 葉 菜』になっていました(笑)」

(※番外編第二回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第七回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第八回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第九回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第十回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第十一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第十二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル  提供:T-artist

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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