Yahoo!ニュース

SMの女王様から毒母、孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。衝撃のトイレシーンは「いまでもやれます(笑)」

水上賢治映画ライター
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。

 いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。

 本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。

 これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。

「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影 
「女優 菜 葉 菜 特集」が開催中の菜 葉 菜   筆者撮影 

もう踏ん張り女優ですよ(苦笑)

 前回(第八回はこちら)、「どんずまり便器」のナルミ役では当時の自分にあった負の感情をすべてぶつけて、すべてをさらけだしたことを明かした菜 葉 菜。

 でも、「すべてをさらけだす」と言ったとしてもなかなか引き受けられる役ではない。

 いろいろと衝撃的なシーンがある上、タイトルから想起できるように、決してきれいとはいえないトイレシーンもある。

「今回の特集のフライヤーの解説に『ナルミは狂暴で男にだらしないどんずまり女』と書いてありますけど、もう最高じゃないですか。

 当時のわたしはあらゆるものが敵に見えていたところがありましたから、余計にナルミに共感したんでしょうね。

 だから、ほんとうにナルミを演じることにためらいはなかったです。

 ただ、よくあんなことしたなとは思います。とりわけ最後のトイレのシーンはすごいですよね。

 詳細は伏せますけど、あんな踏ん張って、踏ん張って。もう踏ん張り女優ですよ(苦笑)。

 あんなシーンを演じた女優さん、たぶんいないんじゃないですか。ふつうは断るのか(笑)。

 わたしは、いまでもやれといわれれば全然平気で演じますけどね。

 ふだんはできないことを役の中ではできるのが役者の醍醐味でもあるので」

「どんづまり便器」より (C)2011トラウマサーカス
「どんづまり便器」より (C)2011トラウマサーカス

小栗監督は女性をか弱い存在にしない。

自分の道を力強く歩いて行ける存在であると描く

 改めて「どんずまり便器」をこう振り返る。

「ここまでの話を合わせると、ナルミはとんでもなく常軌を逸した人物と思われるかもしれません。

 でも、彼女もひとりの人間で、大きなトラウマを抱え、愛を失いながらも必死に生きようとしている。

 毒づき卑屈になりながらも、前を向いて力強く生きていこうとする。

 その彼女の強さに目を向けてほしい。

 映画におけるヒロインはか弱く男性に守られる存在と描かれることが多い。

 でも、小栗監督は女性をか弱い存在にしない。自分の道を力強く歩いて行ける存在であると描くんですよね。

 わたしはそれがすごくかっこいいと思っていて。だから、わたしはナルミの強さに憧れます」

自分が『これは共有できる』と思える女性同士の恋愛物語に出合えないか

 少し話を戻すと、前々回(第七回のリンク)、デビュー10年を数えた2011年に公開された「どんずまり便器」と浜野佐知監督の「百合子、ダスヴィダーニャ」は、菜 葉 菜が役者としてひとつ殻を打ち破った後に取り組んだ「重要な作品ではないかと思える」と触れた。

 「百合子、ダスヴィダーニャ」について訊くと、「どんずまり便器」と同様にこの作品との出合いは大きかったという。

「このころ、ひとつ自分の中でふっきれて、『こういう作品にチャレンジしてみたい』とか『こういう役に取り組んでみたい』とか、役者としての意欲が高まったとお話ししました。

 で、いままでみたことのないヒロインで、自分がすべてをさらけだせるような役を求めていて、出合ったのが『どんずまり便器』のナルミでした。

 それともうひとつチャレンジしたいと当時考えていた作品がありました。

 それが女性同士の恋愛を描いた作品だったんです。

 なぜ、女性同士の恋愛物語に取り組みたかったかというと、さきほどいったように当時、役者への意欲が高まり、それに伴いいままで以上に映画を見るようになっていました。ほんとうに時間が許す限り、新旧、国内外関係なく見ていました。

 その中で、たまたま男性監督が手掛けた女性同士の恋愛を描いた作品、日本だと百合系といいますけど、そのタイプの作品をけっこう見てたんですけど……。

 なにかしっくりこない。海外の作品ではしっくりくるものある。でも、なぜか日本の映画でしっくりくる作品に出合えない。

 わたしは恋愛対象が同性ではないのでほんとうのところはわからないのかもしれない。ただ、それにしても、たまたまかもしれないですけど、なにか自分の中でピンとくるような内容の作品に出合うことがなかった。

 で、あくまで願望ですけど、自分が『これは共有できる』と思える女性同士の恋愛物語に出合えないかなと思っていたんです」

「百合子、ダスヴィダーニヤ」より (C)2011旦々舎
「百合子、ダスヴィダーニヤ」より (C)2011旦々舎

湯浅芳子を描きたいという浜野監督の並々ならぬ意欲を受けて

 そこに、話が伝わってきたのが、ロシア文学者で翻訳家の湯浅芳子と小説家、中條百合子との恋愛を描いた沢部ひとみのノンフィクション小説を基にした映画『百合子、ダスヴィダーニャ』だった。

「別の事務所の方で、わたしのことを気にかけてくださっていた方がいらしゃって。

 その方から『いまこういう企画が進んでいる。この役はあうんじゃないか』と話をいただいたのが『百合子、ダスヴィダーニャ』だったんです。

 事務所の社長からまず読んでみてといわれて、脚本と原作、両方読んだんですけど、実在した人物の物語で、まず、『この時代にこんな二人の女性がいたんだ』ということに感動を覚えました。

 そこから読み進めていくと、当時のわたしが出合えないかと思っていた女性同士の恋愛物語と完全に合致する。

 で、最初の時点で、のちに演じることになる芳子さんの気持ちが手にとるように伝わってくる。

 同性愛にほぼ理解のない時代、芳子さんが歩んだのはいばらの道だった。それこそ常に逆風をうけながらの日々だった気がします。

 そこで芳子さんが受けた苦しみや悲しみは、わたしには計り知れないこと。ほんとうの意味で、理解できることはできないのかもしれない。

 ただ、読めば読むほど、芳子さんへの思いが募って。彼女の苦しみを悲しみをわかってあげたい、彼女の気持ちを伝えたいと思う。

 すぐに事務所の社長に伝えました。『これチャレンジしたいです。オーディション受けたい』と。

 で、オーディション面接ということで浜野佐知監督とまず一度お会いすることになったんです。

 お会いすると、浜野監督の並々ならぬ意欲が伝わってくる。

 長年温めてきた企画で、どうしても湯浅芳子を描きたい、この人の強さと弱さと悲しみを描きたい、といった説明を熱く語ってくださった。

 その熱を帯びた言葉を受けたらわたしも本心を言うしかないな思って。当時感じていた、男性監督が作る女性同士の恋愛映画への違和感を率直にお話ししました。

 すると、浜野監督も『そうなのよ』と同意してくださって。

 そこで、もうわたしとしては浜野監督と意気投合して、『これは思い描いていた作品に出合えて、思い描いていた監督に出会えて、絶対にやりたい』と思いました。

 ただ、オーディションだったので、どうなるかわからない。

 後日、通知がくるんだろうなと思いながら、一応、一通りの面接が終わって帰ろうとした。

 すると、そこで浜野監督から言われたんです。『お願いしますね』と。

 ありがたいことに浜野監督が『菜葉菜さんだと思った』とおっしゃってくれて、その場で『決まり』ということで、『ぜひ、お願いします』とお答えして、芳子役に取り組むことになりました」

(※第十回に続く)

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第七回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第八回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】

【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist 
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist 

<女優 菜 葉 菜 特集>

「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)

「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)

「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)

「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)

「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)

「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)

「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)

「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)

「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)

「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)

「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)

「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)

以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!

開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)

横浜・シネマノヴェチェント

<トークイベント決定>

9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」

ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督

10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」

『ワタシの中の彼女』

ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督

14:30~「ハッピーエンド」

ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督

詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事