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阪神・鳥谷敬選手のように―福井の背番号1・松本友選手はNPBで鉄人を目指す《2018 ドラフト候補》

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
試合後、さわやかスマイルでファンをお見送りする

■“ラストオーディション”で猛烈アピール

相手は菊沢竜佑投手
相手は菊沢竜佑投手
カウントは2ボール
カウントは2ボール
バックスクリーンへのホームラン!
バックスクリーンへのホームラン!

 「ズドン!」―。東京ヤクルトスワローズ・ファームの本拠地、戸田球場のバックスクリーンにボールが吸い込まれた。福井ミラクルエレファンツ松本友選手が第3打席で振り抜いた打球だ。

 ルートインBCリーグ選抜チームがNPBのファームに挑む4試合は、BCリーガーにとってはドラフト前の最後のアピールの場となる。

 まず初戦のスワローズ戦で松本選手は、122mある中堅まで飛ばせるパワーを見せつけた。それだけではない。第2打席のセカンドゴロも判定こそアウトになったが非常にきわどく、俊足をアピールできた。守備でもシーズン中のショートではなくセカンドでも軽快な動きを見せた。

 翌日の横浜DeNAベイスターズ戦は雨天中止、阪神タイガース戦はBCリーグチャンピオンシップと重なり出場できず、残された“オーディション”はオリックス・バファローズ戦のみとなったが、そこでも松本選手は魅せた。

 第2打席にヒットで出塁すると、すかさず初球で盗塁を決めた。「3番・ショート」で先発出場し、途中からセカンドに回ったが、ソツなく動いた。

 「去年の選抜は全然ダメで今年に懸けてたんで、悔いなく終われてよかった」。選抜2試合を振り返った松本選手は白い歯をこぼした。

■2年と期限を決めてのBCリーグ入り

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 今年までと腹をくくっている。そもそも福井に入団するとき、「2年」と決めていた。

 プロへの夢を抱いて東福岡高から明治学院大へと進んだ。1年時に首位打者とベストナインに輝き順風満帆に進むかと思われたが、2年3年で思うような成績が残せなかった。森山正義監督阪神タイガースロッテオリオンズ)の「3年までにスカウトの目に留まらなければプロにはいけないぞ」という言葉が頭をよぎった松本選手はすっかり気落ちしてしまい、4年時に浮上することはできなかった。

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 「もう無理だな…」。プロにいくことがモチベーションだったため、「プロにいけなけりゃ、野球をやっても意味がない」と野球はきっぱり諦めて就職活動をし、企業から内定ももらった。

 そして地元の福岡に帰り、中学時代にお世話になった方々に辞める報告をした。すると返ってきた答えは一様に「まだ諦めるのは早い。オマエには可能性がある。若いうちにしかできないんだから、挑戦したほうがいい」と現役続行を勧めるものばかり。それは松本選手の心の奥底の野球熱を大いに刺激するものだった。

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 完全に消火できていたわけではなかった。小さな種火はくすぶり続けていたのだ。それを無理やり封じ込めようとしていた自分に気づかされた松本選手は、その場で内定を辞退する電話を入れた。

 もう一度野球をやろうと決意し、森山監督に相談すると、あるOBを紹介してくれた。当時BCリーグ・福井でプレーしていた中溝雄也さん(現在は千葉ロッテマリーンズのブルペン捕手)だ。福井の練習に参加させてもらい、そこで当時の吉竹春樹監督阪神タイガース西武ライオンズ―、元福井ミラクルエレファンツ監督、現在は日本経済大学助監督)に見初められ、晴れて独立リーグからNPBを目指すという道が開けた。

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 だが1年目の昨季は満足いく結果は残せなかった。打率こそ3割にギリギリ乗ったが目立った数字はなく、選抜試合でもアピールできなかった。

 昨季終了後、続けるかどうか迷ったが、周りに相談もした上で腹をくくった。「もともと2年って決めていたので、最後の1年頑張ろうと思って臨んだ」。もしNPBの指名がなかったら「消防士になる勉強をします!」と宣言した。

■福井の安打製造機

戸田球場での守備練習
戸田球場での守備練習

 そうしてシーズンインした松本選手は、開幕からスキルアップした姿を見せた。昨年は3番や5番を任されていたが、今年は「1番・ショート」で固定された。

 開幕試合、いの一番にHランプを灯すと、すかさず盗塁を決めた。この日は三塁打を含む3安打2盗塁。幸先いいスタートだった。

 翌日は4安打し、そこから重ねに重ねた安打数は101。西地区(ADVANCE―West)トップ、リーグ2位の記録だ。とにかく打ちまくった。無安打が3試合と続くことはなく、2試合連続無安打はわずかに4度。それを含めて無安打は12試合のみ。逆に安打を記録した試合のうちマルチ安打は半数の28試合という安打製造機っぷりを発揮した。(シーズン68試合)

ベイスターズ球場の室内にて
ベイスターズ球場の室内にて

 昨年との違いは体の使い方とメンタル面だ。昨年は結果を出そうとしすぎるあまり手打ちになってしまっていたバッティングを、今年は下半身主導で体全体を使って打つという感覚を体に叩き込んだ。田中雅彦監督千葉ロッテマリーンズ東京ヤクルトスワローズ)の指導は、大学時代に森山監督がつきっきりで教えてくれた打撃理論と共通していた。それを思い出したのだ。

昭和の男前…?
昭和の男前…?

 さらに気持ちの面だ。大学時代のリーグ戦のような短期決戦ではなく、BCリーグは日々連戦、長いスパンの戦いだ。

 「その日は打てなくても、ヘコんでも意味ない。また明日は打てるだろうって切り替えが大事。最後のシーズンだし明日、明日、次、次って後悔ないようにやろうって考えるようにした」。

■1番打者として

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 そんな今季は「1番」という打順の役割を大切にしてきた。「特に初回の1番はチームの勢いづけとして重要。塁に出ることも大事だけど、長打もあって振ってくるバッターは怖い。甘い球がきたら初球から思いきり振ってやろうって思ってました」。

 常に初球から打ちにいくための準備をしていた。誰よりも早くからだ。特にビジターでは試合開始のずいぶん前からレガースを装着し、相手投手のブルペンでの投球練習を見ながらタイミングをとっていた。

 「四球も大事だけど、とにかく初球から甘い球は振りにいく気持ちで準備していた。チームを勢いづけるために」。

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 田中監督からも「ヒットを打つのはいい選手だけど、怖いバッター、恐怖を与えられるバッターになれ」と教えられ、とにかく“振る”ことを意識してやってきたという。それは3本の先頭打者弾第1打席のOPSが.964(出塁率.397、長打率.567)という高い数字にも顕れている。

■9月の月間MVP獲得

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 ただ、そんな松本選手にも“プチスランプ”が訪れたことがあった。「ひたすらバットに当たらなくて、めちゃくちゃ悩んだ」。後期に入ってすぐのことだ。3試合連続3三振を含み、8試合で20三振を喫した。

 田中監督によると、原因は「真面目すぎる」ことだという。「遊びがない。いい意味で遊び心をもって打席に立ってみたら?」と、田中監督はずっと練習に付き合ってくれた。

 「ここで諦めるな!」。萎えそうな心を励まし、支えてもくれた。

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 やがて、「ゆったりタイミングをとるように心がけたら、ボールの見え方が変わってきた」と徐々に脱することができ、そこからは“打ち出の小槌”のごとく、またもやヒットを量産した。

 残り25試合で41安打(無安打はわずか4試合)。ギアを上げた9月にいたっては、5試合で12安打して今季最後の月間MVPにも輝いた。

■盗塁の極意

チームメイトの片山雄哉選手とダッシュ
チームメイトの片山雄哉選手とダッシュ

 加えて松本選手には足がある。盗塁数こそ20(リーグ10位)と多かったとは言い難いが、ここぞという場面での盗塁、常に先の塁を狙う走塁はレベルの高いものを見せた。

 二塁打16(リーグ7位)、三塁打9(同1位)という数字も、脚力がなくては成し得なかった。

富山の河本光平選手と
富山の河本光平選手と

 松本選手の盗塁の極意とはこうだ。「自分のリードを知っておくことと、構えを大事にしている。それとピッチャーを見るとき、足だけじゃなく全体をボーッと見るようにしている」。

 自身が帰塁可能な最大距離のリードをとり、少し引いた右足に体重をかけて構え、体はややセカンド方向に向かっている。この状態から「いくって決めたらいく。9割はスタートを切っていた」という。盗塁でもっとも重要とされる「スタートを切る勇気」も存分に発揮している。

 加えて、キャッチャーの配球を読むことも重要ポイントに挙げる。

■守備はユーティリティ

ベイスターズの選手の練習を食い入るように見つめる
ベイスターズの選手の練習を食い入るように見つめる

 さらに守備にも自信を持つ。高校、大学時代は内外野ともにこなすユーティリティだった。福井に入団した昨年は外野でスタートし、途中からショートに回った。「NPBには外野じゃいきにくい。ショート1本でいけるように頑張れ」と田中監督から告げられた今季は、遊撃が定位置となった。

 昨年オフ、田中監督の仲立ちで渡辺正人氏千葉ロッテマリーンズ信濃グランセローズ、元石川ミリオンスターズ監督、現在はオリックス・バファローズのスコアラー)に守備のコツを教わる機会があった。「ボールに対しての入り方とかグラブを出すタイミング。あと、母指球に体重を乗せてつま先だけで動くとか…あ、送球のコツも教わりました」。

 一日だけだったが、その後もそれを頭に入れて練習を繰り返し、オープン戦などで実戦を積んでシーズンに臨んだ。守備機会を重ねていくうち、自信は深まっていった。内外野、どこでも守るつもりだ。

■阪神タイガース・鳥谷敬選手への憧れ

背番号1
背番号1
舞洲サブ球場で岩本投手と再会
舞洲サブ球場で岩本投手と再会

 松本選手の守備など、その動きを見た人からは「鳥谷阪神タイガース)に似てるなぁ」という声がよく聞かれる。実際、本人も「めっちゃ好きです」と“告白”する。ただ、憧れてはいるが、動きを真似ているわけではないそうだ。

 「ずっと試合に出続けて鉄人って言われて…。プレースタイルもかっこいいし、顔も雰囲気もすべてかっこいい」。ベタ惚れだ。

 今年の5月まで福井に所属していた岩本輝投手(元阪神タイガース、現オリックス・バファローズ)から「鳥谷さんはシーズン中もウェイトを欠かさない」と聞くや、これまでそんなにしていなかったシーズン中のウェイトトレーニングにも取り組むようになった。その効果は打球にも反映されていると手応えも感じている。

 鳥谷選手に少しでも近づくべく、自身も今季、フルイニング出場を達成した。連戦がきつかった夏場も“鳥谷流”のウェイトを欠かさず続け、交代浴や多めのストレッチなどで乗り切った。

 ドラフト指名を待つ現在、トレーニングを続けながら気持ち的に落ち着かない日々を送る。

 NPBに入ったら―。思いを馳せる。「鳥谷さんのように常に試合に出続けられる選手になりたい。そしてトリプルスリーを狙える選手になりたい」。

 これからも松本友選手はストイックに己の道を突き進む。

(撮影はすべて筆者)

松本 友まつもと ゆう)】

東福岡高⇒明治学院大

1995年2月5日(23歳)/福岡県

180cm 80kg/右投左打/O型

松本 友*今年度成績】

68試合 安打101 打点60 二塁打16 三塁打9 本塁打7 盗塁20 打率.326 出塁率.386 長打率.503

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CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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