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ネリはめげず。「ドームが埋まったのは俺のおかげ。イノウエとの再戦はいつでもOK」

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥vs.ルイス・ネリ(写真:Naoki Fukuda)

俺はフルトンとは違う

 スーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)に挑み、ダウン応酬の激戦の末、6回TKO負け。大事を取って会場から病院へ直行したルイス・ネリ(メキシコ)だが、ホテルへ戻ると早速インタビューに応じ、ダメージもどこ吹く風。得意の“ネリ節”を全開させた。

 メキシコでネリをプロモートする「サンフェル・ボクシング」の公式フェイスブック・ページに出演したネリ。美人レポーターから「素晴らしい試合を演じ、ハートを誇示しましたね。試合を振り返ってください」と言われると「とても満足している。こちらに来る前、『俺は遊びに行くのではない。ファイトしに行くのだ』と言った。そう、俺はフルトンのケースのように、ただ勝利をプレゼントするために日本へやって来たのではない。戦うために来たんだ。倒すか倒されるかの試合をしたんだ」とまくし立てた。

 そして当然のごとく強調したのは初回に奪ったノックダウンだ。

 「初回に左フックでイノウエを倒した。彼は効いていて(カウント後)ホールディングしてきた。でもチャンスは去り、俺はノックアウトされ、試合は終わった。でも本当に満足している。パウンド・フォー・パウンドのチャンピオンからダウンを奪ったのだから。負けたけど満足感に浸っている。トレーニングを継続して俺はカムバックする。ここで終わらない」

カムバックを約束

 復帰を約束した“パンテラ”ネリは今回の試合展開について触れた。

 「実際、彼の術中にはまってしまった部分があった。それは俺の責任。それで倒し返され、ガードが疎かになり、追い込むことができなかった。それは我々の戦闘スタイルの問題で、言い訳は全くない。完敗だった」

井上の強打で3度倒し返され敗れたネリ(写真:Naoki Fukuda)
井上の強打で3度倒し返され敗れたネリ(写真:Naoki Fukuda)

 「今後もスーパーバンタム級でリングに上がるのか?」と聞かれたネリは「たぶん、そうなるだろう。あるいは126ポンド(フェザー級)に上がり、減量の苦しさから解放されてより強くなる選択肢もある」と発言。いずれにしてもキャリア続行をアピールする。

 また「ネリ=悪童」の根拠となった過去の体重管理やドーピング違反に関しては「体重管理は自分自身の尻を叩いて取り組み、今回は絶対に失敗しない覚悟で臨んだ。ドーピングについても同じ。減量はうまく運び、およそ1キロ、リミットアンダーでクリアできた。だから批判を受けずに済んだ」と殊勝な姿勢を強調した。

観衆は俺の敗戦に泣いた……

 しかしレポーターから「ネリなしに東京ドームは満員になったかしら?あなたを応援するファンも少なくなかった……」と振られると“本性”を現した。

 「そう、リングを降りるとたくさんのファンに迎えられ、彼らは俺を歓迎した。多くのファンが俺の敗戦に涙を流した。だから印象は悪くない。負けたけどリラックスしている。もちろんチャンピオンになって帰国したかったよ。俺は日本で恐れられている。でも勝てなかった。それでも今まで誰も倒せなかったイノウエを俺はマットに落下させた。あの満員にふくれ上がった大会場でね。ボクシングでは1990年から34年ぶりだってねぇ。満員になるには俺が必要だった。だからとても満足している。東京ドームを満杯にするには俺とイノウエが必要だった」

 何度も重複する発言があるが、確かにネリはこう言った。繰り返すが「イノウエと俺」ではなく「俺とイノウエ」だ。

今回は体重管理を徹底したとネリは語った(写真:Zanfer Boxing)
今回は体重管理を徹底したとネリは語った(写真:Zanfer Boxing)

イノウエのパワーは平凡?

 「勝利から見放された理由は?」と聞かれたネリは「ディフェンスが崩壊した」とここでは素直に振り返った。さらに「ガードをこじ開けられた。作戦がベストなものではなかったところも影響した。それにイノウエはパンチがあった」とモンスターの力を認めた様子。それでも「パンチ力は規格外というほどではなかったよ」と強がってみせた。

 敗因のトップにディフェンスの不備を挙げたネリはそれを改善して、何ともう一度、井上と対戦したい意志を明かした。

 「もちろん、再びここに戻ってイノウエと再戦したい。俺は日本で大きな足跡を残した。だから戻って来たい。ディフェンスが良くなれば、持ち前のパワーと合わせて鬼に金棒。そう、1ラウンドにイノウエを倒したパワーが俺にはある」

 日本のファンからすれば、かなりの“勘違い”がネリにはある。とはいえ試合で惨敗し病院で検査を受けた直後にこれだけ放言できるのはネリの真骨頂。羨ましくも思えてくる。今後も悪童キャラを前面に逞しく生き抜いて行くのだろうか。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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